『おといれくらし』
やましん(テンパー)
『おといれくらし』
年末以降、おしっこが止まらなくなりました。
前立腺あたりになんらかの異常があると思われましたが、大病院で検査や、服薬をしてきたのですが、ちっとも良くなりません。
ほっといても、モーツァルトさんか、シューベルトさんみたいに、自然にどんどんと溢れ出てしまうので、どうしても、紙パンツさんが必需品です。しかし、紙パンツさんは、当然、無限大ではありません。容量制限があります。
だから、当然、行動範囲は狭くなり、実行時にはかなり痛みや出血をも伴うために、下手には動けません。よけいひどくなるからね。
そこを直撃したのが、以前からまだまだ続く、パンデミックと、まったく意味不明の戦争、鳥インフルエンザや、それらに絡んだ物価上昇であります。
もともと、すでに引退後で、紙パンツを買う資金が、あまり無くなってきていたのでした。
そこで、ついに、究極の『おといれくらし』を選択せざるを得なくなったのであります。
つまり、生活の本拠をお手洗いにするのだ。
いつも、お手洗いにいて、便器に静かに座っている。
食事の時は、歩いてほんの、ごろっぽの台所で、みそカップ麺や、少しのレトルト食品を作って食べる。
お手洗いに、もって帰ってから食べます。
食事中は、かなり、危ないからです。
ごみは、廊下に置いたごみ袋にちゃんと入れ、週二回ゴミステーションには、しっかり出す。
ラジオはもともと、お手洗いの壁にあるし、小さなテレビを設置しましょう。
一応、便器は、古くて壊れかけてるが、温熱暖房完備。
小さな温風暖房機も置いてありますが、電気代を考えるとあまり使えない。
まあ、夏が来たら、また、考えようね。
飲み物は、廊下に置いておく。
スマホを持ち込んで、小物入れに入れる。
完璧。これなら、紙パンツは、あまりいらなくなる。
たまに、廊下に出て、体操しよう。
べつに、籠城するわけではないから、お買い物とかは、行かなければ仕方ないし。この際は、紙パンツも必要にはなりますよね。
まあ、相当の、コストダウンになるだろうと思いました。
🤸♀️
それから、数日した、ある寒い晩の、真夜中のこと。
うとうとしていると、お手洗いの窓を、こつん、こつん、と、叩くものがあります。
『なんだろう。こんな時間に。』
お手洗いの窓は、すりガラスだから、開けないと外は見えません。
向こうからも、見えないはず。
『あの、もし?』
うな? なにもの。
『あの、もし。やましんさん。』
『うわ。どなたですか?』
『わたしは、このおうちの、お手洗いと、お風呂を守っているものです。』
『かみさま、れすか?』
『かみさま、といいますと、すこし、ちがいまして、あなたのご先祖から、警備の委託を受けた、かみさま公社から、派遣されてきております。どちらかといえば、アルバイトの、ゆうれいに、ちかいものです。まあ、やがて、かみさまになりたいとは、思いますが。』
『ならば、かみさま、候補生ですね。で、なんのご用でしょうか。』
『あの、そこは、わたしのしごと場所でして、あなたに、ずっといられますと、ちょっと、困ります。』
『なんと。』
『お手洗いは、たまに使用するのが昔からの決まりでして、人間が常時すむ場所ではありません。おうちの中でも、外と直につながる場所であり、大切な場所です。古事記を見ても明らかですね。また、身体に良くありませんよ。ちゃんとお布団で寝なければ。最近は、ご自宅のお手洗いで往生するかたも増えていますが、いつも住んでいる例は、少ないかと。あなたは、まだ、早い。』
『最近は、年もとりましたし、紙パンツを手放せません。しかし、たかくて、あまりたくさんは、買えないのです。これは、生活防衛です。』
『ふうん。ならば、お手洗いの回数が減れば良いのですな。』
『はい。』
『わかりました。あなたは、ちょっとあまりに、運がわるい。運が多少むくように、がんばってみましょう。ただし、劇的に良くなることを期待してはなりません。良いですね、あなたは、運には、あまり恵まれないが、そのかわり、ここまで、生きてこられたのです。たぶん、これは、運の分割払いです。なぜ、そうなったのかは、わたしには分からないが、まあ、それも、運ですな。お手洗いに、運はつきものですし。はははははははは。』
それ以来、お手洗いの回数は、3割くらいは、減ったようでした。
ありがたいとは、思っております。
しかし、やがて、その運が尽きる日も来るのでしょう。
くまくま 🐻
『おといれくらし』 やましん(テンパー) @yamashin-2
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