【第17話】『 息吹 』
18.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第17話〉『 息吹 』
【天界・月の栄(ソロモン宮)】
ここは、天界・月の栄と呼ばれる精霊の都。ソロモン宮“王帝の間”である。
そこには数多くの精霊達と共に、知恵を司る王、オレア・エウロパエア・ソロモン栄国王が住んでいる。
その日、王宮内では数多くの噂が流れていた。
その話題で都中が騒ぎとなっていた。
「ソロモン王よ、誠なのですか?“時の権能”の獲得者が新たに誕生したと言うのは。」
「
「尚且つ、その体には悪魔を宿しているなんて‥‥‥。」
「じゃが、これも運命の導きかも知れん。全ては王の御心のままに。」
そして彼らは、ソロモン王へ
「王よ、お聞かせください。あなたのご判断を!!」
王宮大臣達の声の元に、ソロモン王は肩肘をつきながら答えた。
「奴をココへ呼べ。」
◇
【天界・日の栄(箱庭)】
そこは日の栄の王都から少し離れた美しいお庭の園。青い草原に沢山のお花が咲いている場所である。
そしてそこには、数多く子供達が力を合わせて暮らしていた。
その中でも、最年長の2人の子供。マーフとグレウスは、庭の草原で空を眺めながら話していた。
「ねぇ、グレウス。聞いた?あの噂」
アイヴォリー色のクルクルとした髪が特徴的な少女、マーフはグレウスに問いかけた。
「あぁ、聞いた。やっぱりお爺様の言う通りになっただろう?」
マーフの問いかけに、黒髪に片目を隠した少年グレウスは、安堵した様子で答えた。
「ホントだね。でも、僕の予言通り、彼は男の子だったよ!」
「顔を見たの?」
「んーん、ちょっとだけ。と言っても、ほとんど死にかけてだけどね。」
「ふーん。」
「でもその人ね、髪が長くて凄く綺麗だった!人間とは思えない程だったよ〜。」
「そっか、じゃあその人の処分はもう決まったんだ?」
「それがまだ決まってないみたい。お父さんは、彼が目覚めるまで待つのだ!って言ってたから、あの子が起きるまでは何もしないと思う。」
「でもお爺様の予想だと、彼は異孵世界(パラレルワールド)に行くかもね。」
「えぇ?!どうしてさ!!」
「だって彼はあくまでも人族なんだから、きっと神様になんてなりたく無いはずだよ。」
「なにそれ〜!!超勿体ないじゃない!!」
「でも、皮肉な話だよね。神界の連中は人に力だけ与えて見て見ぬふりなんだからさ。」
「まぁ、それが神様のお勤めだからね。」
「僕が神になったら、人も霊体も分け隔てなく救ってみせる。」
グレウスは空に手を伸ばして言った。
そんな少年の事を少女はニコッと微笑みながら見ていた。
「慣れるといいね。神様。」
◇
【神界(カナン・リコリス邸)】
そこには、生成色でサラサラとした髪を持つ女性が住んでいる。彼女の名はカナン・リコリス。熾天使の階級を持つ神の使いである。
そしてここは、神界、神々が住まう場所である。
バシャン バシャン
暖かいお湯の中でゆったりと水浴びをしている女性の元に、メガネをかけたメイドがトントンとドアを叩いた。
「‥‥入れ」
その一言を聞き、メイドはドアを開けて中に入る。
「リコリス様、見つかりましたよ。あなたの探していたお人が。」
その一言を聞きつけ、リコリスと呼ばれた女性は急に立ち上がった。
その瞬間、水浴びに使用していたお湯が大きな音を立てて散らばっていった。
「本当か?本当に、本当なのか?!私は、ヤツに会えるのか?!」
女性は嬉しそうな様子でメイドに言った。
そしてメイドもその様子を見ると微笑みを浮かべ、女性へ伝えた。
「えぇ、本当で御座います。
「‥‥‥そうか、ついにあいつが見つかったのか!!すぐにココへ呼べ。今すぐにだ。」
「しかし、彼は今、大事な時期、と言いましょうか‥‥‥。」
「なんだ。はっきりしないのは嫌いだ。申してみろ。」
「はい、実は彼を見つけたはいいものの、今は天界におりまして‥‥‥。」
「‥‥なんだと?!」
◇
【獄界】
そこは獄界と呼ばれる世界、生前悪い行いをした魂達の行き着く場所である。
ドロドロに溶けた人々の産声と悲鳴が合わさるこの世界は、まさに地獄と呼ばれる場所である。
そしてそこには、黒いローブを纏った2人組が燃え上がる世界を見ながら岩山に座っていた。
「そろそろ準備をしよう、ジェヘナ。エリアが待ってるよ。」
「あぁ、行こう。」
2人は立ち上がり、黒く長いローブを揺らしながら、真っ暗な世界へと歩いて行った。
「ねぇ、ジェヘナ。次はどの世界を消してしまおうか。」
「自分に聞きなよ」
「そんな連れないコト言わずにさぁ‥‥」
そう言って2人は、暗い闇の中へと消えて行った。
2人とも同じような仮面を被っており、耳には特徴的なイヤリングを身につけていた。
1人は蒼い瞳を持ち、髪が長く後ろで括っている少年。
もう1人は赫い瞳を持ち、黒髪にピエロのマスクをしている少年であった。
◇
【魔界・バベルの塔】
そこは魔界、崩落した一つの大きな塔が存在する地域。そこに時間と言う概念は無く、そこに住む者達はゆっくりと堕落した日々を送っていた。
そして、その塔の最上階に住んでいる1人の男が存在していた。
彼の名はバール・エビネ大公爵。
魔界には、ありとあらゆる悪魔達が存在しているのだが、彼は“始まりの悪魔”と呼ばれる程の最古の悪魔である。
そんな最古の悪魔の容姿はとても紳士的で、黒いタキシードに身を包んでいる。
口角は常に上がっており、女性のように整った顔立ちをしていた。
「クフフ、アンフェルは死にましたか?まぁいいでしょう。先の皇帝戦において、彼は最も不利なお方だったのですから。またいずれ会えるでしょう。」
「おっかないなぁ〜旦那は」
バール大公爵の隣には、
「もうちょいライバルに優しゅうしてあげればええのに」
古風な男は少し訛りのある喋り方をしている。そして、その男の目は、とても細長いのが特徴的であった。
「私は手加減が苦手でね。いつだって本気を出してしまうのさ。それより
「そら、えらいこっちゃなぁ〜。権能者は僕らにとって厄介モンですから。にしても、なんでこないにもポンポン権能者が現れるんやろか?バーゲンセールやろか?」
「クフフ、それは恐らくアレが原因でしょう。突如として現れた謎の天災。“時の崩壊”とはよく言ったモノだ。1つの
「せやけど、ウチらは
「クフフ、そうだね。私達は悪魔なのだから、欲深く目指そうじゃないか。先人があんなにもなりたいと言う“皇帝”には魅力を感じないがね。」
「ほな、なんの目的で、そないなイジワルしはりますの?」
「もちろん決まっているじゃないか。僕が目指すのはただ一つ。
「おー、コワイコワイ。旦那がそないな事言うと迫力がありますわ。まぁ、僕は旦那の手助けしか出来まへんのやけど。」
「クフフ、時期に新しい皇帝が現れるだろう。その時は、私が彼を推薦しよう。」
【グランドワールド(異孵世界)】
そこはパラレルワールドの中の一つの世界。
薄水色の髪を2つ括りにした少女が、薄暗い部屋で眠っていた。
「‥‥‥ち‥さと‥‥」
少女は、大きなモニターが沢山並ぶ部屋の中心で、その眠りから目を覚ます。
そして少女は1つのモニターを起動させて、ある単語を調べ始めた。
カチカチカチカチカチカチカチカチ‥‥
「‥‥あ、あった。これだ。」
そう言って少女はモニターに釘付けになる。
そこには、2018年8月25日土曜日にあった事柄が多く記されている。
「‥‥アカミネチサト‥‥、この日に、死亡?」
少女はそう言ってさらにモニターを多く起動させて、その日の事を詳しく調べ始めた。
◇
【天界・月の栄(ソロモン宮、地下牢)】
そこには1人の少年が捕らえられている。
真っ白な長い髪に、ピンク色の目を持った異端者として、少年はずっとその場所で泣き続けていた。
「‥‥うっ‥うっうぅ‥‥」
少年は酷く怯えた様子で自分の頭を抱えている。
そんな少年の様子を、小さな窓から赤い瞳を持つ真白(ましろ)が除いていた。
「‥‥ちさとくん。」
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