【第17話】『 息吹 』








 18.花束の約束【第0章】- episode of zero -〈第17話〉『 息吹 』







【天界・月の栄(ソロモン宮)】

 

 ここは、天界・月の栄と呼ばれる精霊の都。ソロモン宮“王帝の間”である。


 そこには数多くの精霊達と共に、知恵を司る王、オレア・エウロパエア・ソロモン栄国王が住んでいる。


 その日、王宮内では数多くの噂が流れていた。

 その話題で都中が騒ぎとなっていた。


「ソロモン王よ、誠なのですか?“時の権能”の獲得者が新たに誕生したと言うのは。」


にわかに信じられませんな。我々が800年もの間、現世げんぜを探し続けてきた逸材いつざいが、まさか人間の中から生まれてくるとは。」


「尚且つ、その体には悪魔を宿しているなんて‥‥‥。」


「じゃが、これも運命の導きかも知れん。全ては王の御心のままに。」


 そして彼らは、ソロモン王へへりくだった。その様子を、ソロモンは鋭い目つきで見下ろした。


「王よ、お聞かせください。あなたのご判断を!!」


 王宮大臣達の声の元に、ソロモン王は肩肘をつきながら答えた。


「奴をココへ呼べ。」











【天界・日の栄(箱庭)】


 そこは日の栄の王都から少し離れた美しいお庭の園。青い草原に沢山のお花が咲いている場所である。

 そしてそこには、数多く子供達が力を合わせて暮らしていた。


 その中でも、最年長の2人の子供。マーフとグレウスは、庭の草原で空を眺めながら話していた。


「ねぇ、グレウス。聞いた?あの噂」


 アイヴォリー色のクルクルとした髪が特徴的な少女、マーフはグレウスに問いかけた。

 

「あぁ、聞いた。やっぱりお爺様の言う通りになっただろう?」


 マーフの問いかけに、黒髪に片目を隠した少年グレウスは、安堵した様子で答えた。


「ホントだね。でも、僕の予言通り、彼は男の子だったよ!」


「顔を見たの?」


「んーん、ちょっとだけ。と言っても、ほとんど死にかけてだけどね。」


「ふーん。」


「でもその人ね、髪が長くて凄く綺麗だった!人間とは思えない程だったよ〜。」


「そっか、じゃあその人の処分はもう決まったんだ?」


「それがまだ決まってないみたい。お父さんは、彼が目覚めるまで待つのだ!って言ってたから、あの子が起きるまでは何もしないと思う。」


「でもお爺様の予想だと、彼は異孵世界(パラレルワールド)に行くかもね。」


「えぇ?!どうしてさ!!」


「だって彼はあくまでも人族なんだから、きっと神様になんてなりたく無いはずだよ。」


「なにそれ〜!!超勿体ないじゃない!!」


「でも、皮肉な話だよね。神界の連中は人に力だけ与えて見て見ぬふりなんだからさ。」


「まぁ、それが神様のお勤めだからね。」


「僕が神になったら、人も霊体も分け隔てなく救ってみせる。」


 グレウスは空に手を伸ばして言った。

 そんな少年の事を少女はニコッと微笑みながら見ていた。


「慣れるといいね。神様。」













【神界(カナン・リコリス邸)】


 そこには、生成色でサラサラとした髪を持つ女性が住んでいる。彼女の名はカナン・リコリス。熾天使の階級を持つ神の使いである。


 熾天使セラフィムとは、名だたる天使達の中でも、唯一神と同じ権限を持つ事が出来る最高位の天使の事を指す。

 そしてここは、神界、神々が住まう場所である。


 バシャン バシャン


 暖かいお湯の中でゆったりと水浴びをしている女性の元に、メガネをかけたメイドがトントンとドアを叩いた。


「‥‥入れ」


 その一言を聞き、メイドはドアを開けて中に入る。


「リコリス様、見つかりましたよ。あなたの探していたお人が。」


 その一言を聞きつけ、リコリスと呼ばれた女性は急に立ち上がった。

 その瞬間、水浴びに使用していたお湯が大きな音を立てて散らばっていった。


「本当か?本当に、本当なのか?!私は、ヤツに会えるのか?!」


 女性は嬉しそうな様子でメイドに言った。

 そしてメイドもその様子を見ると微笑みを浮かべ、女性へ伝えた。


「えぇ、本当で御座います。束咲つかさ様。」


「‥‥‥そうか、ついにあいつが見つかったのか!!すぐにココへ呼べ。今すぐにだ。」


「しかし、彼は今、大事な時期、と言いましょうか‥‥‥。」


「なんだ。はっきりしないのは嫌いだ。申してみろ。」


「はい、実は彼を見つけたはいいものの、今は天界におりまして‥‥‥。」


「‥‥なんだと?!」













【獄界】


 そこは獄界と呼ばれる世界、生前悪い行いをした魂達の行き着く場所である。


 ドロドロに溶けた人々の産声と悲鳴が合わさるこの世界は、まさに地獄と呼ばれる場所である。


 そしてそこには、黒いローブを纏った2人組が燃え上がる世界を見ながら岩山に座っていた。


「そろそろ準備をしよう、ジェヘナ。エリアが待ってるよ。」


「あぁ、行こう。」


 2人は立ち上がり、黒く長いローブを揺らしながら、真っ暗な世界へと歩いて行った。


「ねぇ、ジェヘナ。次はどの世界を消してしまおうか。」


「自分に聞きなよ」


「そんな連れないコト言わずにさぁ‥‥」


 そう言って2人は、暗い闇の中へと消えて行った。

 2人とも同じような仮面を被っており、耳には特徴的なイヤリングを身につけていた。


 1人は蒼い瞳を持ち、髪が長く後ろで括っている少年。

 もう1人は赫い瞳を持ち、黒髪にピエロのマスクをしている少年であった。












 

【魔界・バベルの塔】


 そこは魔界、崩落した一つの大きな塔が存在する地域。そこに時間と言う概念は無く、そこに住む者達はゆっくりと堕落した日々を送っていた。


 そして、その塔の最上階に住んでいる1人の男が存在していた。


 彼の名はバール・エビネ大公爵。

 魔界には、ありとあらゆる悪魔達が存在しているのだが、彼は“始まりの悪魔”と呼ばれる程の最古の悪魔である。


 そんな最古の悪魔の容姿はとても紳士的で、黒いタキシードに身を包んでいる。

 口角は常に上がっており、女性のように整った顔立ちをしていた。


「クフフ、アンフェルは死にましたか?まぁいいでしょう。先の皇帝戦において、彼は最も不利なお方だったのですから。またいずれ会えるでしょう。」


「おっかないなぁ〜旦那は」


 バール大公爵の隣には、強装束こわしょうぞくを着た男が1人。なんとも古風な着物を纏い、上品な佇まいを見せていた。


「もうちょいライバルに優しゅうしてあげればええのに」


 古風な男は少し訛りのある喋り方をしている。そして、その男の目は、とても細長いのが特徴的であった。


「私は手加減が苦手でね。いつだって本気を出してしまうのさ。それより酸漿ぬかづき、私の部下達を集めてくれないか?どうやら新たな権能者が誕生したようだ。」


「そら、えらいこっちゃなぁ〜。権能者は僕らにとって厄介モンですから。にしても、なんでこないにもポンポン権能者が現れるんやろか?バーゲンセールやろか?」


「クフフ、それは恐らくアレが原因でしょう。突如として現れた謎の天災。“時の崩壊”とはよく言ったモノだ。1つの異孵世界パラレルワールドをそのまま消してしまうのだから、焦るのも分かります。」


「せやけど、ウチらはあやかしやさかいな。そんな事、気にしてられまへんて。」


「クフフ、そうだね。私達は悪魔なのだから、欲深く目指そうじゃないか。先人があんなにもなりたいと言う“皇帝”には魅力を感じないがね。」


「ほな、なんの目的で、そないなイジワルしはりますの?」


「もちろん決まっているじゃないか。僕が目指すのはただ一つ。全統一世界セカイセイフクさ。」


「おー、コワイコワイ。旦那がそないな事言うと迫力がありますわ。まぁ、僕は旦那の手助けしか出来まへんのやけど。」


「クフフ、時期に新しい皇帝が現れるだろう。その時は、私が彼を推薦しよう。」




【グランドワールド(異孵世界)】


 そこはパラレルワールドの中の一つの世界。

 薄水色の髪を2つ括りにした少女が、薄暗い部屋で眠っていた。


「‥‥‥ち‥さと‥‥」


 少女は、大きなモニターが沢山並ぶ部屋の中心で、その眠りから目を覚ます。


 そして少女は1つのモニターを起動させて、ある単語を調べ始めた。

 

 カチカチカチカチカチカチカチカチ‥‥


「‥‥あ、あった。これだ。」


 そう言って少女はモニターに釘付けになる。

 そこには、2018年8月25日土曜日にあった事柄が多く記されている。


「‥‥アカミネチサト‥‥、この日に、死亡?」


 少女はそう言ってさらにモニターを多く起動させて、その日の事を詳しく調べ始めた。













【天界・月の栄(ソロモン宮、地下牢)】


 そこには1人の少年が捕らえられている。

 真っ白な長い髪に、ピンク色の目を持った異端者として、少年はずっとその場所で泣き続けていた。


「‥‥うっ‥うっうぅ‥‥」


 少年は酷く怯えた様子で自分の頭を抱えている。

 そんな少年の様子を、小さな窓から赤い瞳を持つ真白(ましろ)が除いていた。

 

「‥‥ちさとくん。」

 

 


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