第29話 エリスの帰還③

 ドサッと大きな音が響き渡った。


 勢い余ってセラフィーラさんを押し倒してしまった。


 振り返ると、エリスが腰の鞘に手をかけ、冷徹な眼差しでこちらをじっと見つめていた。


 やはり、セラフィーラさんを斬るつもりだった。間違いない。

 

 正面からの本気の戦闘となれば、お互いただじゃすまない。だからこそ不意打ちを狙ったのだろう。


 セラフィーラさんにエリスへ拘束魔法をかけるように頼むべきか?

 だが、セラフィーラさんからしたら意味不明な指示だろう。

 瞬時には発動できないかもしれない。

 その一瞬の遅れが命取りだ。


「ど、どうかされたのですか?」


 セラフィーラさんは俺の下で顔を赤くして頭に疑問符を浮かべていた。


「すみません! すぐどきます!」

「あっ」


 セラフィーラさんから離れた。


「足がもつれて」


 と言い訳を述べながらセラフィーラさんの手を取り、立ち上がらせた。


次に口を開いたのはエリスだった。


「セラフィーラ殿、何か飲み物を買ってきてくれないか?」

「承知しました! 自動販売機で買ってきますね!」


 俺と2人きりになってどうする気だ?

 魔法陣が描けるのはセラフィーラさんだけだ。

 セラフィーラさんを始末するために、あえて俺に呪いをかけて泳がせていると思っていたが。


「どのくらいかかる?」

「20分ほどです!」

「そうか、頼んだ」

「あっ、セラフィーラさん待ってください!」

「はい?」


 セラフィーラさんを引き止めないと。


 エリスは俺を睨んでいる。ここで事を起こすのも辞さないつもりか。


「なるべく急ぎで......」

「承知しました!」


 違和感。

 なぜあれほど帰りたがっていたのに、こんなことを?

 誰かに脅されているのか?


 俺は息を吸い、明確な意思を持って言葉を出そうとする。


「魔......う゛っ」


 痛い。そういうことか。


 そうこう考えている間にセラフィーラさんはこの場を後にしてしまった。


「2人きりだな。君を泳がせておこうと思ったが、気が変わった」


 エルスは薄笑いを浮かべる。


「君が血まみれで倒れていたらセラフィーラはどうすると思う?」


 唾を飲み込む。

 そんなの、大騒ぎしながら駆けつけるに決まって......。まさか、その背後から。


「気付いたようだな。余計な事を言われては面倒だ。まずは喉から斬ってやろう。最後に言い残すことはあるか?」


 この場を打開する方法は。

 走って逃げる? 無理だ、異世界では神速と呼ばれていた奴だぞ。


 鼓動が早まる中、俺は【賢者の目】を発動した。



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【基礎ステータス】


 状態異常

 呪いLv5

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 俺の仮説は当たっていた。

 けれど、これが成功するかは完全に賭けだ。


「真犯人が分かった」


 エリスから笑みが消える。


「言ってみろ」


 俺はエリスを指差してハッキリと答えた。


「犯人は、魔王だ」


 突如、エリスの左の拳が頬を殴った。自身の頬を。


 そして勢いよく吹っ飛んだ。


 成功した!

 まだエリスの意識は残っている。

 

 エリス、否、エリスの体を乗っ取った魔王がよろめきながら立ち上がった。


「なぜ分かった」

「セラフィーラさんが飲み物を買うのに20分かかるって言った時、お前は何も突っ込まなかったった。何ヶ月も暮らしているエリスなら数分もあれば買えることを知っているはずなのに。エリスがツッコまないはずがない」

「ほぅ」


 魔王は余裕の表情だった。

 セラフィーラさんが帰ってくるまで時間を稼げ。


 先ほどかけられた呪いを思い出す。


『お前に呪いをかけた。今見たことを他の者へ伝えたらお前は死ぬ。』


 確かにそう言われた。


「セラフィーラさんへ魔王が犯人だと言おうとした時、頭痛が走った。魔法陣破壊の現場で見たことを口外してはいけない呪いが発動したんだ。そして【賢者の目】で魔王にかれられたエリスの呪いLvが最大になっていることに気づいた。お前は、呪いでエリスの体を乗っ取って魔法陣を破壊した」

「正解だ。俺は自らの魂を呪いとしてエリスに移し、期が熟すのを待った。よく気づいたな」


 魔王は楽しんでいるようだった。


「言葉遣いもおかしかった。エリスは俺のことを君とは呼ばない」

「そうか。君はエリスのことをよく知っているんだな。君のような男に娶ってもらうべきだ」


 すると、左手が魔王の首を締め始めた。


「ぐっ。まだ掌握しきれないか......」


 左手は抵抗を続けていたが、魔王が掴むと大人しくなった。


「お遊びはこれくらいにしておこう」


 魔王が剣を抜き、力を溜める。

 万事休すか。


 突然、巨大な落雷が魔王を貫いた。


 一体何が?

 いや、こんなことができるのはあの人しかいない。


「はやとさん、お待たせしました!」


 見上げると、神々しい光が差し込む空を背景に、女神・セラフィーラさんが翼を広げて浮いていた。

 神器の槍と、自販機で買ったコンポタを携えながら。






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