バレンタインの泥棒

柏堂一(かやんどうはじめ)

バレンタインの泥棒

「この泥棒め」


 朝、教室に入るとクラスメイトのあやにいきなり罵られた。


「なんだよ?泥棒?俺が何を盗んだんだよ」


 心当たりなど全く無い。


「よーく考えなさいよ、とおるは泥棒よ」


 心当たりが無いこのパターン……見えない物を知らない間に奪っていると言いたいのかも知れない。


 ありがちなのは恋泥棒。つまり……


「俺に惚れた?」


「あ、あんたバババ、バカなの?あたしがあんたに、ほ、惚れるわけ無いでしょ」


 慌てふためいたその口調、どう考えても惚れてるだろ。


「いくら世の中に無頓着な徹でも、今日がなんの日か知ってるよね?」


 俺がいつ世の中に無頓着なキャラになったのかはさておき、今日がなんの日かは当然知っている。


「今日?バレンタインデーだよ」


「そ、そうよ。はい、これ」


 彩は大きく『義理』と書かれたチョコを出した。


「ぎ、義理チョコよ、あたしがあんたにどんな義理が有るのかはよくわからないけど、これは義理よ」


 そこまで義理を強調されたら受け取りたくない。


「義理?じゃあ、いらないや」


 彩の目がキラーンと光った。


「良かった。予想通りよ。徹はきっとそう言うと思ったわ、だからあんたは泥棒なのよ」


 いらないと言ったら、なんで泥棒になるんだよ。


 彩は俺の胸元にチョコを押し付けて叫んだ。


「もってけ泥棒!」



 ーーーーーおしまいーーーーー

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