第11話「暴露!実は...○○なんです」

午後の国語の授業。

毎授業ある漢字の小テストが終わり、通常の座学が始まっていた。

「この作品は、主人公が自分が怪物であることを周りに隠しながら生きるけど、ずっと隠していたい気持ちとみんなに打ち明けたい気持ちの葛藤を描いた物語だね。じゃ、先進むよ。次のページ開いて...」

「.............」

界が目をしょぼしょぼさせながら、黒板の字を必死で見つめている。

「(私方先生の声眠たなるわ...寝たらあかんのに...)」

が、何かを思い出したようにはっとした。

「(せや!この前善ノ介から教えてもろた眠気覚ましの方法実践しよ!)」

そうすると、界は親指と人差し指で左手の皮膚をぎゅっとつねり始めた。が。

「(...あかんわ、痛みよりも眠気が勝ってまう...善ノ介ほんまにこれで眠気覚めたんか...?)」

何度強くつねっても、眠気は無くならない。

どうしたものか。

色々考えているうちに、自然と瞼が下がっていく。

「(あかん、これ...もう...)」

すると。

「っ!?」

背筋が凍るようなぞくりとする感覚。例えるなら、何か危険な生き物に見つめられた時のような。

突然の不可解な感覚に、体を跳ねさせて起き上がる界。

顔を上げると私方がこちらを見ていた。が、界が起きたのを確認してからすぐに教科書へ目を向けた。

「(なんや、今の...!?先生に見られてからぞくっとしたような...)」

訳の分からない現象に、界は首を傾げる。

一体何だったのだろう。

「(ま、別にええか!)」

考える事もせず、ケロッと開き直ってノートを取る。

この呑気さが、ある意味界の長所なのである。


ホームルームが終わり、生徒達が帰る。

そんな中、教室の隅で界、篝丸、海舟の三人が固まっている。

勇斗と永人はトイレ、善ノ介と知与は飲み物を買いに行っているので、その間三人で話しているのだ。

「いや〜さっきの授業寝るとこやったわ!危ない危ない!」

「全く、しっかり授業を受けぬか戯け者が!」

「てへ〜すんまへ〜ん♪」

ふざける界を篝丸がいつものように叱りつける。そんな所へ、海舟が口を開いた。

「そういえばさっき習った授業の作品、主人公が怪物ってことを隠しながら生きてるって話だったお」

突然の言葉に、界と篝丸は顔を見合わせた。

「ム...そうだが、それがどうかしたのか」

「海舟たちも明かすお?自分たちが妖怪だってこと」

ピシッと界と篝丸が凍りついた。

今まで考えもしていなかった自体が、今起ころうとしている。


「ただいまー。って、界達どうしたんだ、そんな所で固まって」

教室に戻ってきた勇斗、永人、そして善ノ介と知与。

重苦しい表情で地蔵のように固まっている三人に、勇斗が不思議そうに声をかける。

「わいら...おまえらに言わなあかんことがあんねや...」

界が深刻な表情で言う。

「何?」

「実はわい......わいはな...」

問いかける勇斗に、界が本音を言おうとする。

「界は....何?」

「わいは......!!」

ごくりと唾を飲んで口を開く。

「きれいでかわええ女の子が大好きなんや〜〜!!」

教室中に響いた界の告白に、一同が静まり返る。

「うん....それは、そうだろうなと思ってた」

「九尾君にそんな趣味があるなんて事は既に知っているよ」

何事もないように言う勇斗と善ノ介。界が篝丸にくっついて耳打ちする。

「あかん言えへんわ〜...!」

「任せろ、我が言ってやるわ...!ゴホン!」

そう言って篝丸が咳払いをする。

「貴様らに言わなければならぬ事がある。実は我は...」

「篝丸は...何だよ?」

聞き返す永人。篝丸は額に汗を垂らして言いかける。

「我は...!よ....よ.......!」

すう、と大きく息を吸って口を開く。

「"よーぐると"とやらを食ってみたい!!」

「.....ヨーグルトぉ?」

呆れた声を出す永人。続けて知与が言う。

「ヨーグルトなら近くのコンビニにあるけど...今から買って帰る?」

「ヌウゥいらぬ!間違えただけだ!何故だ、何故口から勝手に別の言葉が出てしまうのだ...!」

頭や顔を押さえながら言う篝丸。言いたい事は喉の一歩手前まで来ているのだが、何故か意図せず違う言葉が反射的に出てしまう。

「なんかてめえら変だぜ。とっとと帰るぞ」

訝しんで鞄を肩に担ぐ永人。界達三人は、未だ何も言えないまま渋々鞄を持って教室を出る。


海沿いの道、七人は並んで帰る。だが今日は、界、海舟、篝丸の三人だけ後ろに並んでひそひそと会話している。

「わいはもう頑張った!次は海舟が言ってくれへん!?」

「海舟怖くて言えないお〜!篝丸なら言えるはずだお!」

「ヌゥ、我はどうしても別の言葉が...!!」

ああでもないこうでもないとドタバタする三人。放っておけば取っ組み合いになりそうだ。

「一つみんなに言わなくちゃいけない事があるんだ、ちょっと良いかな」

と、突然善ノ介が足を止めて言う。

「いいけど、どうしたの?」

一同も足を止め、不思議そうに聞く勇斗。

少しの間、静寂の時間が過ぎた。

車の走行音、ひぐらしや鴎の鳴く声。

すう、と息を吸って善ノ介が口を開く。

「実はワタシは妖怪、天狗なんだ」

一同が目を丸くする。言葉も出ず、再び静寂の時間が過ぎた。

「えーーーー!!?」

界が周りに響き渡る程大きな声で叫ぶ。

「ほんまかいな善ノ介!?天狗て!!嘘やん!!」

「本当だよ。今は完全な人間の姿を手に入れているけど、なろうと思えば天狗の姿になれるよ。まああの姿は好きじゃないから、もうなる気なんてさらさら無いがね」

善ノ介は前を見ながらそう言う。だが、少し俯きがちになって再び口を開く。

「どうだい、ワタシが妖怪だと知って驚いたかい?妖怪である天狗のワタシを、奇妙で恐ろしいものだと思うかい?」

やや自虐的とも取れる言い方で、何故か知与を見る善ノ介。知与は真っ直ぐな瞳で善ノ介を見ている。

「別に、何とも思わないよ。というか、オーラでだいたいわかってたから」

知与の「オーラ」という言葉に、善ノ介は目を丸くする。

「あたし、実は少しだけ霊感あってさ。だから人と人じゃないもののオーラの違いも何となくわかっちゃうんだよね。だから天飛くんが妖怪ってことも全然驚かない、むしろ珍しいしかっこいいなって思うかも」

胸に手を当てながら言う知与。そして滑らかな髪を揺らし、振り返って言う。

「それに、妖怪なのは天飛くんだけじゃないよね。そうだよね?三人とも」

「え」

突然すぎる事に、界達は固まる。

この一瞬で何が起こったのか、全く分からない。

「え...界達が...妖怪...?」

「よ、妖...怪......」

勇斗と永人が、信じられないような様子で小さく呟く。

「ああぁ〜ちゃうちゃう待ってや!これにはわけがあって〜!」

呆然とする勇斗に界が駆け寄り肩をぐらぐら揺さぶる。

「九尾くん達もオーラでわかってたよ。別に隠す必要ないのに。すごいなぁ、あたし達の周りにはこんなに妖怪がいるんだ」

柔らかな笑顔で嬉しそうに言う知与とは真逆に、界は顔面蒼白で勇斗の肩を揺さぶり続ける。

「あ〜〜頼むから嫌いにならんといて〜!わいは優しくていい化け狐なんや〜信じてや〜!!」

泣きそうになっている界の手に、勇斗がそっと手を重ねる。

「嫌いになんてならないよ。逆に妖怪に出会えて嬉しいくらいだよ」

「ゆ...勇斗〜〜!!」

堪らず勇斗に抱きつく界。その後ろで固まったままの篝丸と海舟に、永人が俯きがちに近付く。

「え、永人...その...我らは.....」

「違うお!海舟たちはいい妖怪なんだお〜!」

必死に身振り手振りをしながら主張する篝丸と海舟。俯きがちな永人は、ゆっくりと顔を上げて言う。

「かっっけえなあ.....!!」

その表情は瞳をキラキラとさせた幼い子どものようだった。篝丸と海舟は驚いて目を丸くする。

永人は興奮で頬が赤くなり、にぱにぱとした良い笑顔で二人に詰め寄る。

「妖怪のダチと親友ができるなんて夢みてえだ!てめえら何の妖怪なんだ!?」

「わ、我は鬼で、海舟が海坊主だ...」

「だお...」

篝丸の返答に、永人はますます頬を赤らめて興奮する。顔から湯気が出てもおかしくない程の興奮状態だ。

それから全員を見て、大きく口を開けて笑う。

「妖怪のダチができてほんと嬉しいぜ!これからもよろしくな!界、海舟、篝丸、善ノ介!」

永人のその言葉に、妖怪である事を明かした四人は柔らかな表情を見せる。否定されず、畏怖されず、受け入れてもらえた事を喜ぶような表情で。

妖怪の界達と人間の勇斗達の絆は、以前よりも固く結ばれた強いものとなった。

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