第22話 開示
荒木村重を通して毛利と水面下で繋がる秀吉は、毛利本隊に形だけの出陣を要請した。 これは毛利が大軍で攻めて来て苦戦してると言う演出で実際には戦わずに信長へ援軍の要請をした…
要請を受けた信長は唯一残って居る明智光秀の部隊を援軍に送る事を決めた。その為これが援軍ではなく信長殺害のための武装でも、光秀の武装は不振に思われない…そして何より秀吉は信長殺害の日時が予想出来るという一石二鳥の手際のよさだ。
天正十年 五月某日
信長に秀吉の援軍を言い渡された明智光秀は、秀吉の思惑に不信感を募らせる。
… 秀吉は私が武装しやすい様に、援軍の要請をしたのか…まるで早く信長を殺れと言われてるようだな …
信長討伐を目論むキーマンは何故か、その都度不可解な死を遂げる…
そのため光秀は自分に被害が及ばないように秀満を信長討伐の中心人物に仕立て作戦を進めていた。
たとえ秀吉が裏切ったとしても対応出来る様に、配下の大名との繋がりを蜜な物にして軍事力を保持したはずだった…
しかし、秀満に魔物退治の全権を預けて事を進め過ぎていた為、任せた各大名との絆の構築は出来上がって無かった…
秀満は、池田恒興など不平不満があることを光秀には伏せて〝みな一様に光秀様とあると申してます〟と光秀に伝えていた、問題点は自分が解決すれば良い事で、光秀の手を煩わさ無いと言うこの秀満の忠義心が後の戦闘に災いする。
【開示】
光秀は武将達五人を集め、謀叛を起こす事を明かす。
「私は兼ねてから、大名は領民あっての物だと思っている、領民無くして大名も無い…ならばイクサは領民を守る為のもので戦闘は武士対武士、女子供を巻き込んだり皆殺しや殲滅は、武士道にあらず……結論を伝える」
秀満に目配せをする光秀、秀満は立ち上がり武将達に謀叛を伝える。
「これより明智軍は本能寺に討ち入り諸悪の根源、織田信長を討つ!」
集められた明智軍の武将達が、寝耳に水の話に青ざめ言葉を無くす。
「我々は光秀様の家臣として信長を討ち取り、天下の主となる‼」
天下の主に心を動かされるも、いまだに固まる武将達…
秀満は、もう引く道が無い事を悟らすため話を続けた…
集まった五人の武将達の人質がすでに移送されている事、明智家の謀叛がすでに信長にバレているなど虚報を交えて話して、武将達の腹を括らせた。
突然の出来事に極度な緊張状態に陥る武将達だが、腹を括れば頼もしい限りだ…
勝って天下の主に成るぞと、奮い立った武将達は戦略通り、信長の居る本能寺を、四方の門すべて大軍で囲み一人も逃がさない布陣を引く。
明智光秀
「信長には、気付かれて無いようだな…」
秀満
「大丈夫です…」
「絶対に信長を仕留めろ…万が一にも取り逃がすなよ…」
「ネズミ一匹逃さぬ布陣です!御安心下さい」
「秀満、攻撃を開始しろ」
光秀の命で、前線から攻撃の指揮を執る秀満…
「撃てー!」
秀満の号令で鉄砲隊が火を吹く、合わせて弓隊の矢が雨の様に降り注ぐ。
本能寺では、慌てて家臣達が信長の下に駆け付ける。
集まって来た家臣に喝を入れる信長。
「狼狽えるなぁー‼」
信長の一言に、冷静さを取り戻す家臣達…
「蘭丸!銃を持って来て側に付け‼ 後の者は応戦しろぉー!誰の逆心だ‼」
「明智光秀です」
「光秀だと…あのハゲ、血迷ったかぁ!」
「明智の大軍により、完全に包囲されてます、脱出は不可能かと…」
信長は過去の戦闘での光秀の言葉を思い出す…光秀はイクサで〝領民を極力傷つけたく無い〟とよく言っていた、ならば僧侶か侍女に変装すれば脱出出来るはずだと考える…
「光秀は女子供には手を出さないはず…蘭丸、侍女の着物を二着持って来い」
「……なるほど」
計画を理解した蘭丸は、着物を運ぶ途中で家臣に侍女と僧侶を本堂に集めるよう命じた。
侍女に扮した信長と蘭丸が本堂にやって来た。
森蘭丸
「今から寺院を退避するが…信長様が紛れて居る事を絶対、明智光秀にバレないよう信長様を中心に団体で逃げる、みな心して掛かる様に」
こうして信長と蘭丸は、絶体絶命の本能寺脱出を開始した…
先ずは少数の侍女を逃がし様子を見る…すると、明智軍の兵が一人一人の顔を確認して逃がしている。
「慎重に確認してますね」
「…家臣達を呼べ」
蘭丸が家臣達を連れて戻って来た… 信長は脱出方法を蘭丸に説明させる。
「これより、信長様は侍女と僧侶の団体に紛れて脱出するが、光秀達は一人一人を確認してから逃がしてる…そこで、信長様が確認される前に、近くを突撃して撹乱して貰いたい…少数の突撃、勝目など無いが命に代えても信長様の脱出を成功させる…」
信長は般若のごとき顔で怒りに満ちていた、家臣達は誰も目を合わす事すら出来ない…しかし馬廻りや小姓の家臣達は、みな信長によって引き上げて貰った身分の低い者達だ…
恩を返すためにも、信長を逃がす事に命を投げ出す覚悟がある強者揃い、一方光秀軍の兵士は突然の謀叛に浮き足だっている…信長の脱出計画は順調に進むと思われた。
「また、坊主と女達が避難してきました」
「一人ずつ確認しろ」
全体を仕切る秀満、家臣達が避難して来た女達を一人ずつ調べる…
後方で身を潜めていた光秀が不安とプレッシャーに堪えかね、前線の様子を見に来た…
相手は第六天魔王…確実に殺せる状況でも、あり得ない事が起こるかも知れない…すると偶然、僧侶と侍女を避難させようとする様子を見付け、慌てて叫びだした!
「何をしている!!?お前らぁーー!!! 早く!そいつらを皆殺しにしろぉーー!!!!」
光秀は傾奇者の信長が女装して侍女に紛れているかもと思い、女達の殺害を命じた。
命令する叫び声の方を見渡し、光秀を見付けた信長…
「光秀!?
見つけたぞ…み・つ・ひ・でぇーー!!!」
叫ぶ信長と目が合うと光秀の心臓が一瞬止まる…
「かっ!?…ぐうっ‼ 」
胸を押さえ踞る光秀。
… なんだ?今のは、一瞬心臓が締め付けられた魔物の力か…化け物がぁ~っ‼ このままでは不味い、早く信長を殺さないと! …
「信長が女に化けてる!早くしろぉー!! かまわん全員殺せぇー!!!」
光秀を見付けた信長は、右手に短筒左手に火の付いた火縄を持つ…
火縄銃は1発ずつしか撃てないが、蘭丸が弾を込めた短筒を信長に渡す事で連射が可能になる、信長と光秀の距離は30メートル以上…
バァーン‼ バァーン‼
バァーン‼ バァーン‼
短筒は接近戦用で、命中率は低いにも拘わらず鎧の上からだが、光秀に命中させた!
慌てた秀満が、駆け付けて傷の手当てをしようとする…
「光秀様ぁー!」
「だっ大丈夫だ…それより信長を仕留めろ!絶対に逃がすなぁ~‼」
信長の放った鉛玉は光秀の心臓目掛けて飛んで来たが、鎧や鉄の胸当てに弾かれ光秀の怪我は肋骨が折れただけで命に別状は無い。
… また心臓だ、胸当てをしてなかったら危なかったな…だがこの紙一重の差、間違いなくこちらに分がある、ここで確実に仕留めなければ …
大将光秀の被弾に動揺する明智軍…
その隙に蘭丸が信長を避難させる…
「全軍撤退しろ‼本堂で立て直せ! 姉様、今の内に本堂に戻りましょう」
「手応えはあったが…」
「はい、ですが致命傷にはなってない様です… 一旦、本堂に…」
「誰か武器庫の銃と弾を全部持って来い!」
信長は自分で光秀を殺すつもりで殺気だっていた…
光秀は、気が触れたように〝早く信長を殺せ〟と叫び続ける…それに煽られ秀満は一気に本能寺に攻め込んだ…
信長の家臣達の応戦に手を焼いた明智軍だが、所詮は多勢に無勢ほとんどの敵を討ち取り、あとは信長の首を取るだけになったが…光秀が苦しみだす‼
「うっ‼ぐっあぁ~~あ~~」
信長に撃たれて折れた肋骨が、突然内臓に突き刺さり苦しみ出した…
秀満と家臣達が駆け寄る…
「光秀様ぁー!しっかりして下さい‼信長の首は目の前です!」
苦しむ光秀を軍医が応診する…
「…どうやら、銃撃で折れた肋骨が内蔵を傷つけた様です…」
「バカなぁ…安静にしてたのに、何故そんな事が…」
… なんと言う事だ、これが魔物の呪いなのか…このまま信長を殺しても光秀様が死んでは、私にとって何の意味も無い… 信長が確実に死ぬ状況は変わらないのに光秀様を殺すのは何故だ…
腹いせ、道連れ? いや違う… 命の取引なら信長を助ければ、光秀様が助かる、しかしそれでは軍を引いた後、織田の大軍に滅ぼされる…やはり信長を殺して、呪いが解ける可能性に賭けるしかない …
秀満は純粋に、信長の呪いを怖れたが、光秀の怪我が悪化したのは光秀が狂ったように叫び過ぎたせいで自業自得だろう…怪我は致命傷ではなく安静にしてれば問題はないのに、魔物の呪いと思い込んで、光秀と秀満は必要以上に信長を怖れ、冷静さを失なっていた。
秀吉軍 本陣
明智光秀の謀叛をいち早く伝えるため山道を駆け抜ける早馬…
秀吉の命で信長の様子を伺っていた忍が光秀の謀叛を報告にやって来た。
「明智光秀様が謀叛を起こしました」
「そうか…随時、状況を報告しろ」
忍は三人が、代わる代わる戻り状況を秀吉に細かく報告している。
「池田恒興の動向も探れ」
摂津衆の池田恒興は秀吉対光秀の鍵を握っている…
秀吉の情報網を担うのは、全国的な情報網を持っている甲賀忍者だ。
… あまり早く行くと疑われるが、勝家に先を越される訳には行かない …
秀吉は軍の半分を、岡山に駐留するように指示を出し様子を伺う…
本能寺の変Wikipedia
明智光秀Wikipedia
明智秀満Wikipedia
森蘭丸Wikipedia参照
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます