第21話 手際



明智光秀 居城



再び信長暗殺で結び付く豊臣秀吉と明智光秀。



「さすが光秀殿、何時でも魔物の首が取れる様な距離に付けましたな…」



 光秀は信長の参謀として拠点の京を任されたり、信長が出陣の時は随伴していた。



「私より秀吉殿こそ、すでに毛利を手懐けてるのでは?」



 秀吉は備中国の征伐に出陣する前から、調略などで毛利を攻めていた…その事を知っている光秀はあらかた毛利の調略はすんでいて、本丸を落とすのは時間の問題だと読んでいる…




 秀吉と光秀は、お互いの腹を探り合う。



「毛利は荒木殿の協力のお陰で上手くいってるだけ、俺はなにも… それはそうと、魔物を取るのは今が好機だと思うが、光秀殿の判断は…」



 織田家の覇権が信忠に譲られる前に光秀が動くと睨んでいる秀吉が光秀を煽る。



「私もそう思いますが… 計画は突発的にやらなくては、またこちらに被害がでると思います…」



「なるほど…その通り、あの不思議な力で殺されるかも知れない」



「だから、今日明日にも魔物の首を取ると言う気概をもって、二人が連携を取りましょう」



「と、言うと…?」



「秀吉殿が何処に居ても、すぐに魔物と戦えるように意識してもらいたいのです」



「何処に居ても…? それは、例えば…イクサの最中でも直ぐに魔物退治に加勢する用意をしておくと言う事か?」



「そうです。 それが、西に居ても東に居てもです…もちろん、これは逆もまたしかり、秀吉殿が動けば私も何処に居ても駆けつけられる用意をします」



「流石だな、光秀殿なら何も言う事は無いな…」



「……?」



 秀吉は語らずとも、光秀は自ずと動くと考え、巨大化した織田家の軍事行動を忍を使って調べ作成した表を見せる…



「これを見てくれ、織田軍の予定だ、柴田を始め重臣達の予定が書いてある… 俺は今、備中国征伐中を抜け出して隠密で来た…だが有事の際は、軍勢を引き連れ、何時でも駆けつける‼」



 秀吉が見せた織田軍の予定は、光秀だけが未定の時期が記されている、信長を守れる重臣は光秀しかいない、要するに、信長を殺すには絶好のチャンスだ。



 秀吉は、光秀がこのチャンスを逃すはずが無いと踏んでいる、織田軍の予定表を見せただけで何も語らない… そして光秀もそれを理解して腹を決めるが、秀吉が竹中半兵衛の無念を晴らす為にも駆けつけると思い、二人は何も語らない… 口にすれば、信長の謎の力が働き何らかのアクシデントが起きるのではと警戒しているからだ。





 こうして、豊臣秀吉と明智光秀の信長暗殺は何も語らずに、お互いの胸の内だけで交わされた。



 下剋上を駆け上がった秀吉と光秀の野心が天下を目指し激しく燃え上がる!






明智光秀 邸



… どうやら秀吉は私に信長を殺させたいらしいな、そうすれば自分は魔物の力から助かると思ったか …




 光秀は腹心の秀満を魔物退治に引き入れていた…作戦の指揮を秀満に執らせ呪いの様な不可解な力が自分に向くのを防ぐためだ。




「秀吉は、私を動かして魔物を殺るつもりだ」



「危険な仕事は我々任せですか…」



「だが、それで良い… そうなれば、覇権を取ったも同然」



「魔物退治の功労者に、臆病者の秀吉は口出し出来ない…」



「そうだ… しかし、良い事ばかりじゃない、魔物には得体の知れぬ力がある…秀満は秀吉を臆病者と言うが、前の魔物退治の時、参謀の竹中半兵衛を失なっている…」



「犠牲は、覚悟の上…私の命で光秀様が天下を取れれば本望…」




「いい覚悟だ、だが…逆の覚悟も頼むぞ」



「逆とは……?!」



「私が死んだら、お前が明智家を当主として継げ…」



「弱気な事を、光秀様らしくも無い、大丈夫です…私が絶対に死なせ無い!」



「その、死なせ無いと言う気持ちが、前回の魔物退治を失敗に終らせた…」



前回の魔物退治では秀吉の半兵衛を死なせたくないと言う感情が作戦を失敗に終らせた…



「犠牲が出るのは承知の上だが、人の心は計り知れない物だ、頭では理解してても気持ちが上回る…優先すべきは魔物の首、命はそのための代償だ」



「光秀様の命より優先すべき、だと…」



「そうだ…」



「…理解出来ません」



 予想通り秀満の忠義心は、頑ななほど強いものだった…光秀は、そんな秀満の忠義心を操り秀満がなにがなんでも信長の首を取る様に仕向ける…



「魔物の力は不可解…ある者は突然死に、ある者は病に倒れる…だが、臆せず戦え犠牲を顧みるな…これはこの国の為のイクサだ!」



「魔物…まさに第六天魔王… 命懸けで首を挙げて見せます」





【手際】



 明智光秀は信長暗殺の後、配下の大名が自分を支持するように高価な品物を贈るなど交流する事で関係性を深めた…これは秀吉が裏切っても、光秀が軍事力で秀吉軍と渡り合える力を持つためだ。





 いっぽうの秀吉は、光秀が信長を殺害した後、謀叛人として討ち取り織田家の覇権を手にするすつもりでいる…


 その為には、信長殺害の直後に光秀を殺し魔物退治の計画を闇に葬らなければならない、誰よりも早く秀吉が京まで戻るには明智光秀配下の摂津衆の協力が不可欠になる、秀吉は摂津の池田恒興が重要だと考え、直接会って話をするため有岡城に隠密で向かった。






有岡城



 本来、備中国征伐で毛利軍と戦闘中の秀吉が訪ねて来た事を、池田恒興は援軍の要請だと考えたが伝令を使わず大将の秀吉が自ら来た事に不信を抱いていた…



「毛利と戦闘中に訪ねて来るとは、何か問題でもありましたか…」



「実はどうしてもお尋ねしたい事がありまして隠密で話を聞きに来ました…」



「…そうですか、何なりとお聞き下さい」



「最近、明智光秀殿と何か約束をしてませんか?これは重要な質問です、よく考え答えて頂きたい…」



 秀吉の質問にただならぬ気配を感じる恒興は、光秀との些細な会話まで思い出して考えたが、何も約束のような物は思い当たらない…



「ごく最近、見事な茶器を頂いたが、とくに約束などはありませんが…」



「その言葉を信用して訊ねますが…摂津衆は謀反が起きた時、謀反人が明智光秀でも謀反に荷担しないで織田家として戦うと誓えますか…」




 謀叛人に光秀の名前を出した秀吉、もし池田恒興が光秀にこの話を伝えたら裏切りがバレて秀吉の計画は失敗に終るが、秀吉は池田恒興が新参者の光秀を面白く思ってない事からこの話を光秀には話さないと言う確信を持っていた。



「光秀殿が謀叛…バカな」



「残念ながら可能性が高い…もし配下の者全てが光秀殿に付いたとしても、柴田勝家を筆頭に織田軍は強者揃い…万が一にも勝てる見込みは無い、だが逆に池田殿が光秀を討ち取れば織田家での勢力図は新たな物となる…」



「光秀殿を…私が、討ち取る…」



「そうです…織田家重臣として、本来池田殿は光秀殿より立場が上、違いますか…」



「いや…しかし、光秀殿が謀叛を起こしたらで、あくまでも仮定の話では…」



「今、光秀殿だけが信長様のそばに居る重臣です…織田家の有力武将は隠密で来た私を除き、みな遠征中…謀叛を起こすには絶好の機会…あの有能な光秀殿が見逃すはずが無い…」



「しかし、現実として私は何も聞かされて無い…なのに秀吉殿は、光秀殿が謀叛を起こすと言う…まるで、何かを知ってるかのようだが、お聞かせ願えるかな…」



 秀吉は、一瞬全てを話して味方に引き入れる事を考えたが、計画を口にして動けば半兵衛のように呪われるかも知れないと思い真実を隠した。



「…先程も言ったが、可能性が高いのです…そして本当に、そうなった時の池田殿の真意をお聞かせ頂きたい…」



「あくまでも、予想だけの話だと言うのですか?」



「確信はありますが…おっしゃる通り予想の範疇です…」



 何故、想像の話を熱心に語り織田家の忠誠を確認したいのか…池田恒興には理解出来ないが…要は、織田家重臣の秀吉に謀叛には荷担しない事を誓えと言う事だと判断して答える事にした。



「いいでしょう、愚問な気もしますが、勿論私は織田家として信長様に付くつもりです」



「分かりました… しかし、光秀殿は強い…間違っても単独で戦わず、私と合流してから出陣しましょう、それで晴れて織田家の中枢を担う大名に成ろうじゃないですか」






… こいつ、やはり何か知ってるな…そうなると光秀が謀叛を起こすのは間違い無いと言う事か…いや喰わせ者の秀吉の話をまともに受けとるべきでは無いが、面白くなって来たな …





 かねてから、光秀の出世を妬んでいた池田恒興は半信半疑ではあるが、光秀の謀反が起きたら織田家として光秀と戦う事を約束した。










池田恒興Wikipedia

信長公記参照

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