第15話 悪魔の力
わずかな家臣と浜松城に逃げ帰った家康は〝空城計〟を使った。
全ての城門を開き城の各所に松明を焚く事で敵をまどわせる計略だ… 武田の追撃隊は開いた城門を見て城内に誘い込む罠の可能性があると考え、すでに戦果を挙げている追撃隊は深追いをせずに引き上げた。
〝空城計〟で難を逃れた家康だが、信長に従った結果の敗走でも信玄の罠に嵌まった自分を悔やんだが、まずは自軍の立て直しを計る事に専念する。
【悪魔の力】
武田軍の勝利は直ぐさま各地に伝わり士気が上がった反織田勢力は、にわか仕込みの結束を強める。
信長討伐は目の前と盛り上がる反勢力だが、肝心の武田軍は何故か徳川領土侵攻をストップしていた…
秀吉軍 本陣
「秀吉様、半兵衛殿からの報告で武田信玄が重病だと…」
「なに… 命にかかわる病か?」
「今、調査中ですが武田軍の動きを見る限りその可能性が高いかと…」
「今、精力的に武田軍に攻められたら流石に、織田も危なかったが… 都合の良い限りだな」
… ほんとに都合の良い事が良く起こる… 我が主ながら信長様は恐ろしい人だ、得体の知れぬ力が宿っている… 第六天魔王か、あながち間違いじゃ無いな …
武田信玄が重い病で倒れた事は秀吉から信長に伝わる。
「どうやら信玄は命にかかわる病の様です」
「病か…苦しんでるの?」
「半兵衛によると多少の怪我でも指揮を執る信玄が、姿を見せないのは立つことも出来ない重病だと…」
「徳川を倒し、もう少しで私のところに来れたのにフフッ 仏門も役に立たないわね」
「信長様、万が一回復しないとも限りません…徳川に止めを刺させて見ては」
「そうねぇ、家康も家臣の仇を取れるし……兵が足りないはずだから援軍を出してあげて」
「かしこまりました」
武田信玄はたとえ重病でも侮れない…得意の調略も武田の一枚岩は崩せない、武力行使も歴戦の強者揃いで難しい…危険を犯したく無い秀吉は、家康に信玄が病に伏してる事を伝え、倒すなら今だと戦闘を煽っていた。
浜松城 徳川軍
「秀吉様の言う通り信玄が重病なら本陣ではなく、別の場所で療養するはず…」
「そうだな、危険な本陣で寝てるとは思えんが… 移動するのさえ難しい状態かも知れん」
「優勢な武田軍が、また三方ヶ原の様に誘い出す為の罠を仕掛けてるとも思えません、やはり動けないほどの状態だと…」
「想像で結論を出すな… まずは、信玄の居場所を探らせろ医者の出入りが多い場所があるはずだ」
徳川の諜報員が調査を開始すると予想外の事が起きた、武田軍が野田城と言う戦力外の小城を包囲し出した。
「どう言う事でしょう、信玄は重病のはずでは?」
「重病は誤報だったのか… だとしても、なぜ野田城のような小城を大軍で包囲してるんだ…」
「確かに、力業で直ぐに落とせるのに何故でしょう… もしかして、秀吉様の言う通り信玄は重病で本陣に居る…それを敵に知られたく無いために形だけの侵攻を始めたとしたら…」
「…なるほど、だから戦闘にならないよう大軍で小城を包囲してるのか…」
野田城の戦力は小さく武田の大軍が攻め混んだら問答無用で明け渡すしかない…しかし、武田軍は攻めずに包囲しているだけだ。
「あり得ますね、徳川領を侵攻中の信玄が重病だとは誰も思わない」
「…包囲して降伏するのを待つだけなら重病の信玄も治療に専念出来て敵の目も誤魔化せる一石二鳥か」
「やはり武田を叩くなら今では…」
「しかし徳川だけでは難しい、織田の援軍を待つしか無いな」
織田の援軍は五千の兵で徳川軍と合流したが、いまだ信玄の所在が掴めず駐留が続いた。
「こうも信玄の動きを確認出来ないとは…」
「警備態勢が厳重な長篠城か野田城を包囲してる本陣に居るはずです」
家康が苛立ちを見せる…
「それは憶測だろ、厳重な警備はお前の様な奴を引っかける罠だったらどうする…」
「すみません… しかし、信玄が姿を見せられない状態なのは確かな事、それに武田軍も動きが無い…今が好機では」
「いや、まだしばらくは様子を見よう」
信玄の所在が掴めずに苛立つ家康に新たな情報が入る…
〝武田軍撤退〟二万以上の武田軍が全軍引き上げ出した、この報告を受けて家康は武田軍に落とされた城の奪還に動き出す。
数日後… 武田信玄が撤退中に病死した、反織田勢力最強の武田信玄は信長の首を獲る一歩手前で血を吐き倒れた… 信長対信玄は優勢だった武田信玄の自滅と言う誰も想像出来なかった形で幕を下ろした。
病にかかった信玄に運がなかったのか、やはり信長に悪魔が取り憑いているのか…
戦国は、信長を中心に殺しの螺旋を血で染める。
【狐狩り】
武田軍の撤退で織田徳川軍が息を吹き返す。
反勢力最強の武田軍は信玄の遺言通りその死を隠蔽した…そのため諜報力に乏しい大名は信玄の死を知らない…
将軍足利義昭も信玄の死を知らずに挙兵した… だか、甲斐の虎武田信玄を失った反織田勢力は、もはや織田軍の敵ではなく、挙兵した傀儡将軍は近臣の裏切りにより織田軍に包囲されると、あっさり降伏した。
一方、秀吉は三好家の岩成友通討伐を開始する。
「秀吉様、淀古城の番頭大炊頭を抱き込みました」
「よし、細川藤孝を呼べ」
織田軍の攻撃に当然籠城して戦う岩成友通を城から出すために秀吉は番頭と連携して岩成友通を陥れる。
三好軍 岩成隊
「友通様、細川藤孝が秀吉隊として先陣を切りますが、細川殿は我々の味方です…」
「どう言う事だ、奴は信長に寝返ったはず…」
「表向きは… でも実際は三好勢です、調略のために寝返った振りをしてるだけです」
「…その味方が先陣を切って来ると言うのか?おかしいではないか…」
友通はいぶがしげに番頭を見る…
「これは踏み絵の様な物です、小賢しい秀吉が細川殿を試しているのでしょう…しかし細川殿は我々の味方友通様と戦うなど出来ない… そこで調略を諦め、秀吉の首を土産にこちらに戻りたい…だがそれには友通様のお力が必要だと…」
「秀吉の首か、面白い…策があるのだな話してみろ」
「先陣を切る細川殿の出撃と合わせて友通様にも出撃してもらい直ぐ様左右に分かれて秀吉を挟み込み逃げられ無い様にする、これで確実に討ち取れると言うわけです」
「なるほど、しかし… 細川殿が秀吉に丸め込まれてるとも限らん、まずは秀吉に刃を向けてもらおう、それを確認してから出撃しようじゃないか」
「…それでは友通様が出撃する前に細川殿の裏切りがばれてしまいます、戦闘には勝ちますが秀吉には逃げられるでしょう… この作戦は秀吉の首を取る事です、その為には友通様の神速の出撃が必要なのです‼」
番頭は用心深い友通を何とか納得させ素早い出撃を了承させる事に成功した。
「友通様、細川様が出撃しました」
「よし、秀吉は?」
「細川隊の後ろに…」
「全軍、後方の秀吉隊に突撃‼ 秀吉を細川隊と挟み込め一人も逃すな‼」
友通が城から出撃して細川隊の横を突き進むと、秀吉を挟み込むはずの細川藤孝が友通の後ろに回り込んで来た、驚愕する友通だが咄嗟に状況を理解した、番頭に嵌められた…
「謀ったな、番・頭・ォ・ー‼」
前方には待ち構えた秀吉隊がいる、万事休す… まんまと誘き出されたのだ、籠城戦ならまだ逃げ道はあったかも知れないが細川隊と秀吉隊の挟み撃ち、もう逃げ場はない。
「岩成友通の首を取れぇー!」
細川藤孝の号令で戦闘が始まった、岩成友通も勇ましく戦ったが前後からの攻撃には耐えきれず、寝返った同胞の細川隊によって討ち取られた…
武田信玄亡き後の弱体化した反織田勢力を次々に討ち取っていく織田軍…
信長は三万の軍勢で再度小谷城に浅井長政を追い込む…これを聞いた同盟の朝倉義景も二万の大軍で出陣して来て浅井軍と朝倉軍で織田軍を挟み込む布陣を敷いた。
浅井朝倉と睨み合いの状態が続く織田軍だが、天候の悪化を利用して、ある作戦に出る。
「朝倉軍は攻めて来る気配がありません…」
信長私設隊兵士の報告に朝倉義景を揶揄する信長…
「腑抜けの義景が出陣しただけでも大したもんだわ、でもどうして良いか分からないんじゃ無いのフフッ」
「この天候なら尚更動きませんね… そうだ!信長様、義景を脅かして見ませんか」
「…面白そうねぇ、どうやって脅かすの?」
「朝倉軍は動く気配がない、きっとこちらもこの天候じゃ動かないと油断してるはず、そこを突いて最前線の砦をこの嵐の中襲うのです…雨で汚れるのが嫌だったら俺達だけで行きますよ、砦の一つ位軽いもんです」
「朝倉兵の慌てた顔が見たいから私も行くは」
信長は私兵と馬廻りだけで前線の砦を攻撃した、油断してたとは言え朝倉兵の士気はあまりにも低く直ぐに降伏して来た。
「なんだコイツら全然やる気無いな」
朝倉の兵を殺そうとする家臣を信長が止める。
「まて、逃がせ」
信長の言葉に聞き間違えたかと、一同が固まるが一人の朝倉兵が逃げ出すとあっと言う間に全員逃げ出した。
「…何故ですか?朝倉の事です、また楯突いて来ますよ」
「大丈夫、もう一つ砦を落としてそこの兵士は一人だけ逃がすの…逃げ帰った兵が恐ろしげに織田軍の話をする様に後の兵士は皆殺しだ… 腑抜けの義景は少しずつ減る砦に怯え出してきっと逃げ出す… 撤退し出したらそこを追撃して逃げ回る義景を殺すのよ、私に怯えて逃げ出した義景を今度は逃がさないで…いたぶり殺せ‼」
信長は朝倉義景を恐怖に追い込んで殺すつもりだ…
砦を二つ陥落された義景は、案の定逃げ帰った怯える兵士を見て不安になる…
重臣達は出陣を反対していたし、やはり来るべきでは無かったと思い信長の計略通りに義景は撤退を決める。
織田軍 本陣
「信長様の予想通り朝倉軍が撤退します」
「よし、全軍で追撃一人残らず討ち取れ‼殲滅だ!!」
朝倉軍は名のある武将など多数討ち取られ壊滅状態になった、それでも何とか追撃を振り切った義景だが二万の軍勢が僅か千人ほどしか残ってない。
やっとの思いで逃げ帰った義景だが秀吉の調略で既に寝返っていた重臣朝倉景鏡の罠に嵌まり最期を遂げる。
朝倉景鏡は義景の首を持参して信長に取り入った、持参された朝倉義景の首は驚愕と恐怖に満ちた悲壮な有り様でもはや誰だか分からないくらいだった。
武田信玄Wikipedia
朝倉義景Wikipedia
岩成友通Wikipedia参照
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