第32話
わたしは食事を終え、小林(あえて小林と呼ぶ)とモール内のベンチへ向かう。
「すみませんでした。勝手に食事に誘って」
「いいよ。ありがとう、サイゼリア、懐かしかった」
どんな思い出があるのだろう。どれだけ逃げた先の、昔の。
「今はどうされてるんです?」
少なくともリニューアルされた今の店舗では働いていないだろう。私の直感も働く。彼女が私の顔と名前を聞いて、目を輝かせたあの日のソレ同様。
「本が読めなくなった」
小川が語る。やはりもう小林ではない。彼女はもう、天使から堕天使になったように、翼をもがれて、コウモリのようなゴム細工を思わせるぺったりした黒いハネを。背中にへばりつけて。
不格好でも飛べる。だからここに歩いてここまで来れた。
「歩きですか」
「そう」
ほら当たったと思う。
私はまたあの顔をする。仏頂面だ。私が、真中が。何名かの学生が小林(小川)に向けてきたのは。
でも悟りを開いて全てを見通していたわけじゃない。全ての人と相入れていたわけじゃない。
そろそろ別れよう。私はせめてもと。
「小説、読むんじゃなくて。書いてみたらどうですか?」
別れを言い、母の元へ戻る。ベンチで小悪魔が陽だまりに包まれている。
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