Kind of Play
異世界だけどメリークリスマス!①
俺が異世界転生して、初めての冬を迎えることになったある日のこと。ラビが疲れたような顔をしてよろよろと船長室から出てきた。
『おうラビ、一体どうしたん――だっ⁉』
声をかけようとした俺は、ラビの格好を見た途端、目が釘付けになってしまう。
彼女が着ていたのは、紅い布地に裾や袖を白いフワフワ綿毛で縁取った衣装――いわゆるサンタコスと呼ばれる代物だった。
いやカワイイかよ! 思わず叫びたくなる衝動を慌てて抑える。ちゃんとサンタの帽子まで被って、はみ出た前髪の横には雪だるまの髪留め。下はミニスカに膝上まである白のニーソ。最高の組み合わせだ。しかも本人が恥ずかしがってモジモジしながらスカートの裾を抑える仕草なんてするものだから、カワイイに拍車が掛かってなんかもう色々とヤバい。
「あ、師匠……この格好には訳が――」
「さては、またニーナから無理やりコスプレ衣装を着せられて、取っ替え引っ替えされてたな?」
俺がそう答えると、ラビは「うぅ……」とうつむきながら頬を赤く染めた。
「あっ! オジサンおつおつ~! どう? ラビっちの衣装、めっちゃカワイくない?」
すると、船長室からダークエルフのニーナが出てきて、サンタ姿のラビに抱き付きながら言う。このエルフ、伝説の海賊「
『おいニーナ、いい加減ラビを着せ替え人形扱いするのはやめろ――と、言いたいところだが、衣装のチョイスが俺の性癖にも刺さったことに免じて、今回だけは許してやろう』
「え、マジぃ? やった~~」
「ちょ、師匠までぇ……」
がっくりするラビと、喜び舞い上がるニーナ。
――いや、ていうかそもそも、ここ異世界にもクリスマスなんてあるんだっけ? 不思議に思ってニーナに聞いてみると……
「クリスマス? 何それ? なんかのイベントとか?」
『やっぱり知らないのか』
ニーナの話によれば、この世界にクリスマスなんて行事は無く、冬のこの時期にイベントも特に無いらしい。じゃあ何でサンタコスなんてものがここにあるんだ? 多分船長室にある衣装棚から引っ張り出してきたのだろうが……あの衣装棚、俺が前世で知っているような衣装も色々と揃えているから不思議だ。
「師匠の出身地では、えっと……くりすます? という行事があったのですか?」
そう聞いてくるラビに、俺は『あぁ、まあな』と曖昧に返事を返した。俺にとって前世のクリスマスは不幸の日でしかなかった。サンタからのプレゼントが、実は自分の親のせいだったってことも小さいころから知ってた。大人になっても、恋人無し歴=年齢のせいで俺はいつも一人――いわゆるクリぼっちを満喫しなければならなかった。何が聖なる夜だ、夜の公園でイチャつくカップルを見ては悶々とした日を過ごしていたわ。
……と、思いはしたのだが、純粋無垢な子どもの目を向けてくるラビに向かって、そんな夢もへったくれもない話をする気にはなれなかった。
『えっとな……クリスマスの夜には、サンタクロースっていう妖精が、トナカイの引くソリに乗って北の国からやって来るんだよ。そのソリにはプレゼントを一杯乗せていて、良い子にしている子どもたちにプレゼントを配ってくれるのさ!』
あぁ恥ずかしい! こんな子どもの考えるようなメルヘンチックな話、大人な俺の口から言えるようなことじゃないってのに!
そう思いはしたが、ラビの目はますますキラキラと輝き、「そうなんですか⁉」と興味津々になっているご様子。
「私も……プレゼントを貰えたりしますか?」
『ラビは良い子だからな。朝起きたら枕元にプレゼントが置かれているはずだ』
俺がそう言うと、ラビは嬉しそうな笑顔を見せた。あぁ、サンタコスのラビが見せる満面な笑顔……マジ尊い、死ぬわ。
「じゃ、今日は一日その格好で過ごすってことで、決定ね!」
すると、ニーナが突然そんなことを言い出すので、ラビは「えっ!?」と驚いてしまう。
「だって、そのサンタクロースって妖精はソリに乗って空を飛んでるんでしょ? なら、それくらい目立つ格好をしてないと、遠くからじゃサンタの目に留まらないでしょ?」
そう言われ、ラビは少し不服そうにしながらも、「わ、分かりました……今日一日だけですからね」と渋々了承した。
一日中ラビがサンタコスのままで過ごすって? いやいや神かよ。俺は内心、そう提案したニーナに向かって親指を突き立てていた。
〇
結局その日、ラビは本当にサンタ衣装のままで一日を過ごした。紅白という色に加えて、どう見ても場違いなその衣装では、ラビ一人だけが船の中で完全に浮いてしまっていた。まぁ船長だから船員の中でも目立つのは当たり前なのだが、目立つ度合いが半端ない。通り過ぎる度に周りの乗組員たちの目に留まっては釘付けになり、彼らのやっていた作業が止まってしまうという有様。
ラビも常に周りの目を気にしている様子だったが、「サンタの目に留まるから」という理由を信じて、乗組員たちの見せ物にされる羞恥に頑張って耐えているのだった。
――で、一方その頃、俺は何をしていたかというと……
『はい、ちょっと全員集合』
「何ですか? こんな人気の無い場所に皆を呼び集めて」
「さてはオジサン、なんかイケナイこと考えてるでしょ〜?」
「クロム、気持ち良くお昼寝してたのに、叩き起こされた……不満」
俺は最下層にある
『皆に一つ頼みがある。ラビに何でもいいから一つプレゼントをこさえて、夜ラビが眠りに就いたら、枕元にそのプレゼントをそっと置いてやってほしい。くれぐれも起こさないようにな』
「ラビリスタお嬢様へのプレゼントを枕元に? 普通に手渡しで差し上げれば良いのではないですか?」
ポーラがそう尋ねてくるが、『それでは駄目だ』と即答する。
『ラビに気付かれずに、こっそり枕元に置くのが大事なんだ』
「そうですか……ご主人様も妙なこだわりをお待ちなのですね」
『別に俺がこだわってる訳じゃない! ラビの夢を壊さないためなんだ。頼む、協力してくれ。この通りだ!』
俺は皆の前で土下座するつもりでそう頼み込んだ。
「はぁ……分かりました。そこまで仰るのなら、お嬢様のためにも、少し奮発しましょう」
「おっしゃ! ラビっちにピッタリな物探してやるか〜」
「? プレゼントだから、何かあげるものを探してくればいいの? 分かった。クロム頑張る」
三人は俺の依頼を受けて、各々プレゼントを探しに、停泊しているルルの町へ出かけてゆくのだった。
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