第23話 ゲス教師に下る天罰

 ――その後、弥平は逮捕され、余罪が次々と掘り起こされていった。


 弥平や弥平の両親が起こしていた犯罪行為やその隠蔽、政治家との癒着なども次々と明らかになった。それは犯罪のバーゲンセールという様相で、それらは当然全国的なニュースになり、芋づる式に豚崎のような弥平とつながっていた権力者や、弥平に取り入っていた校長などの学校関係者も軒並み摘発されていったので、うちの学校は来年の新入生が激減しそうなレベルで、悪い意味で有名になってしまった。

 特に、手錠をかけられた後に目を覚まし、キレて叫ぶ弥平の姿がお茶の間のワイドショーで毎日のように流れた。


「ワッパを外せ俺は上級国民だぞオラァッ!!」


 そんな弥平は今ではネットミームにされてクソコラの玩具にされている。

 逮捕時は警官相手に暴れて警官にけがをさせたが警官達に取り押さえられ、観念したのか泣き叫びながら連行されて行くというあまりにも惨めな終わり方だった。フルバージョンだとそこまでがTVで放映されている。


 犯してきた罪を考えたらきっとそれでも生ぬるいくらいなのだろうけれど、そんな弥平の姿に、これまでに弥平に虐げられてきた人たち、学校を去らなければいけなくなってしまった人達の溜飲がすこしでも下がればいいな、と思う。


 その姿に視聴者の印象が最悪すぎて根ほり葉掘りとマスゴミが調べまくり、余罪と合わせて連日TVで報道され、SNSでも弥平が炎上系事件をネタにしているインフルエンサーに拡散されてバズりまくっていた。ネットの拡散力はすごいよね!


 幸いというか俺や周りの人間の個人情報がインターネットで流布されることは無かったが、弥平に関してはありとあらゆる個人情報がインターネットに流れていた。自業自得だが、人の口には戸口は建てられないというしな。その中には真しとやかに、弥平が女子生徒を使って個人的に嫌いな生徒に嫌がらせをしていた、などという噂も流れていたようだけど、事実だから仕方ない。


 それに、弥平は今までにも女の子にあやしい催淫剤を使っては政治家やお金持ちに“紹介”していたことも明るみになった。今まで圧力をかけられたりもみ消されていた被害者たちが弥平を訴えたので、刑事だけでなく民事でも弥平とその一家は追い詰められていくことになるだろう。

完全に自業自得なのだが、どちらにせよ弥平の一家は社会的にも完全に終わりだ。少なくともまともに社会で生きていくことはできないと思う。

 あとそれに付随して蟹沢も余罪がさらにでてきて蟹沢の方ももう人生終わったと思う。この間蟹沢の実家の病院通ったら廃業してたので悪い事したら罰が当たるんだなぁとしみじみ思った。

 

 ちなみに俺はというと病院に連れて行かれた後、両親に叱られたり皆に心配されたりもしつつ警察の事情聴取などでバタバタと忙しない毎日を送った。

 右腕は骨にひびが入っていたようで、程度としては軽いけれど全治2~3週間はギブス生活だとかなんとか。利き手が使えないのって色々と不便だよね。

 蟹沢の件もあったので、警察にいったときは『またお前か』と驚かれたりもしたけどそれもまぁ些細な事だ。


 今回の件では先輩達にもずいぶん助けてもらったけれど、その後もアカ先輩に心配されたり、アオ先輩に甘やかされたり、あと弥平に襲われていたところに乱入して以降なんかヒメ先輩が俺を視ると顔を真っ赤にしてもじもじするようになったりした。アオ先輩は隙あらば家にお泊りに来させようとしたり、利き手がつかえないからとごはんを食べさせようと昼になると高確率で教室に来るようになって油断してるとバブみに沈んでしまう、いけないいけない。


 あとからヒメ先輩に聞いた話だと、弥平の悪事に対してヒメ先輩の実家が動いたのがギリギリのタイミングだったのと、あの日の朝に弥平と雉尾さんが登校してこなかったので問い詰めようといったら弥平が雉尾さんに何か強力な媚薬か何かを持っていた最中だったそうで、まぁ色々とギリギリなところだったようだ。俺が到着したのはその直後だったんだね。意図せず、ヒメ先輩の行動とそれに伴う俺の乱入で救われた形になったみたいで、雉尾さんは悪運が強い人だと思う。まぁ、助かってよかったですねという程度の感慨になるけど。兎も角、ヒメ先輩が無事でよかった。


 戸成からは、次にそう言う事するときは俺も連れうんこって言って一緒に行くから呼べよ!!と怒られた。すぐうんこって口に出す頭小学生男児くんだが、相変わらずいい奴である。

 ギプスで固められた腕をみてともちゃんも真顔で心配していた。登校の時は鞄をもってくれようとするが女子にそんな事をさせられないので遠慮させてもらっている。腕が治るまでは戸成君との事は考えなくていいからきちんと治すようにあとカルシウムとるようにときつく怒られた。カルシウム……?うん、まあ、そうね。


 あとは、丁度席替えのタイミングだったがくじ引きであきらととなりになったので、今は授業中にあきらが2人分のノートをとってくれたり、学校で色々な事を手伝ってくれる。あとあきらが俺の身の回りのことを手伝ってくれていると戸成が乱入してきて俺を手伝おうとするけど戸成、お前俺と対角線の一の席だろ席に帰れよというと、とても悲しそうな顔をして席に帰っていく。残念なイケメンである。

 ちなみに日常的に、あきらとアオ先輩で俺の昼食をどちらが食べさせるかで争ってる。フォークがあるから左手でも食べれるからと言うんだけど、2人とも譲らないので好きにしていただいています。


 おやっさん――もとい探偵さんからは黒い中折れ帽子をプレゼントしてもらった。男の目元の冷たさと優しさを隠すのが帽子の役目との事で、俺もいつか探偵さんみたいにハードボイルドな大人になれたらいいなと思いつつ、出かける時には贈られた帽子を被ってるよ、へへへっ。


 探偵さんに連絡を入れてくれたのも舞花ちゃんで、俺が追いかけたという話を聞いてからすぐに探偵さんに連絡してくれていたらしい。探偵さんも探偵さんで知己の警察官と連絡をとりつつ、朝から張り込むために元々現場に向かっていたそうだ。だから弥平が逃げ出す前に間に合ったみたい。本当に色々と紙一重だったけれど、たくさんの人に助けてもらったことで何とかなったんだな、と思う。


人間一人で出来る事なんて限界があるから、助けあう事で自分の力以上のことが出来るんだなぁと実感した。皆は一人のために、一人はみんなのためにってね。


舞花ちゃんにもこってりと絞られたが、それでも無事でよかったと安堵していた。蟹沢の件といい弥平の件といい、舞花ちゃんの実務能力と根回しに助けられたけど凄い子だよね。

 俺と一緒にいたらスクープが、なんて言っていたけど俺と関わった所為でとんでもない事件に巻き込んでしまったので申し訳なく思うが、本人は特に気にしていないようなので強い子だな、と尊敬する。


――そして雉尾さんは、あれから学校に来ていないようだった。


 弥平に関わって色々していたので停学にされたらしい。

 とはいっても犯罪行為に関わっていたわけではなかったので、弥平の言葉にのせられて一部の生徒の悪評を広めたりいじめ行為にかかわっていたからそのための謹慎、との事だった。

 やってたことは普通に侮辱罪だしね。雉尾さんに嫌がらせを受けてたのは俺以外にも何人かいたらしいので、復学しても雉尾さんへのあたりはキツくなるだろう。けどそこは自業自得で自分で何とかしていくしかないと思う。自分がやったことのケツは自分で拭くしかないのだ。俺が助けるべきことではないからね。


 結果として、クズ教師は社会から追放されて、ヒメ先輩は無事で、アカ先輩やアオ先輩に対しての嫌がらせや仲間外れにする行為も止み、ついでに雉尾さんも傷つけられることは無かったので結果としては上出来なのではないだろうか?


そんな風にあれからの事を考えつつ学校からの帰り道を歩いていると、家の傍の電信柱にもたれかかって立っている人影を見つけた。正直、あまり関わりたくない……というよりも今後は関わらないようにしようと思っていた人なので、無視して通り過ぎようかと思ったが向こうが俺に先に気づいて声をかけてきた。


「あ、ター、君……」


 ター君、ね……もうずいぶん遠くになってしまった響き。


そこにいたのは、私服姿の雉尾さんだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る