第3話 俺は女友達の恋愛対象外だった

 ……そんな訳でまゆ姉にまで恋愛相談を持ち掛けられてしまった。

 ともちゃんの事でもいっぱいいっぱいだし傷心癒え切ってないのにやる事が……やる事が多い……!!と頭を抱えつつ教室に戻る。


「すんませーんトイレいってましたー」


 そう言いながら教室に入り、そそくさ席に着いたところでスマホがピコンと鳴った。


『昼休みに作戦会議できなかったじゃん!何か思いついた?』


 はい、ともちゃんからのメッセージ。知ってたー!

 とはいえ昨日の今日で何か思いつくかと言われても……というか昨日クラスの皆と一緒にカラオケいってたんだからともちゃんの方が距離詰めれたんじゃないかなぁと思うけど仕方がない。

 とりあえず戸成君の人となりを知らなきゃな、あ、駄洒落じゃないよ?戸成はバスケ部だったっけ…仕方ないなぁ。


―――その日の放課後を待って、とりあえず見学という事で戸成君の様子を見ににバスケ部が練習してる体育館に来たところで知り合いに声をかけられた。 


「あれ、タローじゃん。バスケ部入るの?」

 

 猿渡あきら、中学の時からの女友達…いや、悪友である。

 ポニーテールに少し日焼けした肌、まゆ姉程ではないけど健康的に実った胸とお尻は同学年で言ったらかなり大きい方だと思う。

 さっぱりした性格なのと距離間0で密着してきてはからかってきたり、しょうもないことに2人で熱中したりした女友達だ。このあきらも中学の頃から男子にはひそかに人気あったんだよな。


「どうしようかなーって迷ってる。あきらは女バスだっけ」


「え。何タロー、マジでやるの?」


 嘘をつくのは心苦しいが、幼馴染の恋のために戸成君に接触しにきたとかいうクズみたいな理由言えないしな、よく考えると俺のやってる事ゲスだわ。


「戸成君ー!なんかすごい奴が見学に来てるー!」


 俺が自己嫌悪を感じている間に、あきらが男子バスケ部の戸成を呼んでくれた。……これは思わぬ棚ぼたでありがたいが、別に俺はすごくはない。

 呼ばれた戸成はこっちに走ってきた後、俺の顔を見て驚いていた。さすがイケメンは驚いた顔もキラッてしてるなぁ、ずっこい!


「あれ、お前同じクラスの桃園じゃん」


「よっ!まだ部活決めてなかったからちょっと見学させてもらいに来た」


 戸成君とそんな話をしていると、あきらが横から茶化してくる。


「戸成君は中学別だったから知らないだろうけど、タローはバスケもサッカーも何やらせてもそれなりに上手いよ」


「やめろあきら、ハードルを上げるんじゃない」


 褒めてるのか貶してるのかわからないけど多分褒めているであろうあきらをジト目でみる。だがそんなあきらの話で俺に興味を持ったのか目を輝かせる戸成君。


「え、マジで?いやー、同学年で強い奴が入ってくれるのって嬉しいな!」


 別にまだ入るともなんともいってないし、見学だけのつもりなのだが戸成はすっかりその気になっている、うーむこれなし崩し的に入部させられないか?

 それから2年や3年の先輩に挨拶をしてから、見学だけだとつまらないだろうと練習に参加させてもらえることになり戸成と一緒に練習した。


「へぇ、猿渡が言うだけあるじゃん。なんだろう、凄く身体を動かし慣れてる感じがする」


 成程、俺ってそういう感じに見えるのね、覚えておこうっと。……身体を動かし慣れている、という点についてはまぁ理由があるんだけどそれはまた別の話。

 基礎練習してから1on1して遊んで…いや、レクリエーションとしてはじめたつもりが戸成は熱くなってるのか、やるほどテンション上がっている。やめろ、どんどん俺が入部しないといけない流れにもっていくんじゃない。


「すごいでしょー、中学の時はタロー色々な部活にヘルプで呼ばれてたんだよ。どこも執拗に勧誘してたけど」


「…だろうな、これだけできる奴を手放したくないってなるよ」


 コートの外からのあきらが茶化すが、戸成は完全に火がついているようだ。


「桃園、次に俺が点を決めたらバスケ部入って俺と組んでくれ」


 お、スポーツ好青年らしい提案じゃないか。嫌いじゃないわ!いやバスケがやりたい訳ではないので、だが断るとお断りしたいけど。


「それじゃ俺が勝ったら?」


「…その時は桃園の自由意思に任せる、だけだと不公平だから放課後にファミレス奢る、でどうだ?」


 それは願ってもない申し出だ。戸成と仲良くなる機会を得ることが出来るし入部を回避することが出来る、一石二鳥。


「オーケー、ノってやるよその勝負」


――――というわけで始まった勝負は俺があっさりと点を入れて勝たせてもらった。イエーイピースピース。


「桃園ぉ、最後のあのジャンプなんなんだよ」


「俺パルクールやっててな。飛んだり跳ねたりとかは得意なんだ、身体を動かし慣れてるって感じたならそう言う事だと思う」


 そんな俺の言葉になるほどなーと納得する戸成、素直か!


「くぁー、悔しい!…けど負けは負けだ。桃園が入ってくれるのを祈りつつ……今日は俺の奢りだぁぁぁっ!!」


「ゴチになります!」


「ゴチになります!」


―――ん?なんであきらまでゴチになりますとか言ってるんだよ


「ほら、私とアンタの仲じゃない」


 そう言って腕を組んでくるあきら

 中学の時から距離感近いんだよなぁ…部活中なのもあり薄着で胸が当たってるんで年頃の青少年には刺激が大変お辛いところ。


「ハハッ、なんだお前ら仲良いな…それじゃ部活が終わるまでまだ30分ぐらいあるから、それ終わってから駅前のファミレス行こうか」


 言った約束はきっちり守る、イケメンで性格もいいスポーツも出来る……くっそう!ずるいな戸成!!でもなんかこう……俺の第六感が……いや、どうだろうな?まだわからない。


 そんなわけで放課後はファミレスでゴチになりつつ他愛のない話に花を咲かせた。喋ってみると戸成は気さくで良い奴で話も弾み、大いに盛り上がった。


「はー、一杯食べたー!もう食べられないよー」


「ごっつあんです!!」


「お前ら食いすぎだ!クッ…お小遣いが一気に吹き飛んだぜチクショウ」


 人の金で食う飯は美味い!!マジでなんでなんだろうね!!

 ってのはさておいても運動した後で空腹だったので食事が捗った。……今日は丁度両親が遅くて晩御飯自分で用意しなきゃいけない日だったからこれ幸いとガッツリ喰わせてもらったわ、ガハハハ!


 今のファミレスで色々と話して連絡先を交換できたし、戸成と結構仲良くなった気がするぞ。一応、バスケ部に入る事は検討しておくという事にして帰宅部で行こうかと思ってるとおためごかしをしておいたが、戸成は絶対バスケ部に引き入れて俺の相棒になってもらうからな!と燃えていた。いやぁ、モーレツに熱血してるなぁ。


 その後は戸成とは家の方角が別だったので別れて、あきらを家まで送る事になった。まだ日が落ちきっていないとはいえ女子一人で帰らせるのもよくないからねー。


「こうやって2人で帰るの久しぶりじゃん?」


 帰り道を2人で並んで歩いていると、思い出したようにあきらがポツリと言ったのが聞こえた。


「そうか、そう言えばそうだなぁ」


 頷きながら答えつつ、中学の頃を思い起こすとはあきらともよく一緒に帰っていたことを思い出す……高校に入ってからは全然だけど。


「ね、タローってバスケ部入るの?」


「考え中」


 俺の返事に、何それーと不満げなあきら。中学の時もあきらにはよくバスケに誘われてたのだ。夏休みに公園のバスケゴールで練習の相手をしたり、その最中にあきらに絡んできてエロい事しようとした年上の奴らを追い返した事もあったなぁ。


「……タローってさ、やっぱり……犬井が好きなん、だよね?」


 そう言って、腕を組みながらじっと俺を見上げてくるあきら。そういえばあきらには俺がともちゃんを好きなことは知られてたんだ。


「いや、ともちゃんには振られたばっかりだよ」


「……嘘、犬井に?」


 俺の言葉が心底意外だったのか、驚いた顔をするあきら。2人ともあんなに一緒だったのに……と呟いているが、そこはそっとしておいてほしいところ。


「まぁ色々あるんだわ」


 場が暗くならないように、ハハハと笑いながら言うがあきらはそんな俺を視て、なぜか後悔と悲哀の表情を浮かべている。どうしたんだ、と聞くと少し言いよどんでから、語り始めた。


「私……私ね、タローの事が好き、だったんだ」


 うん?今なんて言ったんだあきらさんや。


「でもね、犬井がいるからあきらめようって。昨日ね、生徒会長の蟹沢先輩に告白されて……オッケー、しちゃった。中学の時から同じ塾で知り合いだったから」


 え、えぇぇ…それをいまさら俺に聞かせて俺にどうしろっていうんだよ、俺も反応に困る。なんて言えばいいのか困るので言いよどんでいると、あきらが俺の傍から離れた。


「うん、そうだよね、困るよね。でもずっと好きだったから……なんでかな、踏ん切りつけるために言っておきたかった、のかも。

 あーあ、こんな事なら玉砕覚悟でタローに告ればよかったかなぁ」


「いや……それはさすがにその告った蟹沢先輩が可哀想だ」


 過程はどうあれ付き合うって決めたのはあきらなんだから、それを本人のいないところでそんな全否定みたいなこと出来たばかりの彼女に聞いたらその彼氏泣くか怒るんじゃないかな、と説明していく。俺はその蟹沢何某を知らんけど。

 ……何で俺はともちゃんに失恋した後から立て続けにこうも女運悪い事が続くんだろうね、実は君が好きでした!他の男と付き合いだしたけど!って火葬した後の遺体に人工呼吸するようなものじゃね?


「……そうだよね。付き合っていったら、タローよりもいい男かも知れないもんね」


 背伸びしながらそう言うあきら。


「生徒会長するぐらいなんだから出来る人なんじゃないのか?知らんけど」


「どうだろ、よくわかんない。……だからこれからきちんとお互いを知って、好きになっていけたらいいな」


 そう言うあきらの顔は、何か吹っ切れたような印象だった。


「今の会話は聞かなかったことにしておくわ。……まぁ、恋愛ってほれたはったとかいうしな。無理しようとせずに自分のペースでアオハルすればいいんじゃないの」


「あはは、そうだね。……自分が失恋した後なのにそう言う事言えるのがタローのいいところだと思うよ」


 そういうとあきらがここまでで大丈夫、と手を振った。そう言えばもうあきらの家の近くまで来ていた。話すのに随分夢中になってしまっていたようだ。


「それじゃね、タロー」


「おう、また明日」


 そういってあきらと別れて俺も自分の家への帰り道を急いだ。

 そうかぁ、あきらは俺の事が好きだったのかぁ。中途半端なタイミングでそれを言われても困るので、本音を言えば知らないままでいさせてくれたほうが俺の心には良かった。あきらが自分の中でけじめをつけるためにやりたかったんだろうけどさ。……世の中ままならんものだ、と思う。

 あとは……その生徒会長がどんな人かはよくわからないけど、そいつがいい奴で、あきらが彼氏と上手くいったらいいなといいな、と思うのであった。

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