第2話 俺はお姉ちゃんの恋愛対象外だった

 ……そして嬉しくても悲しくて日はまた昇る。

 ともちゃんに失恋したこともあり、昨日はほとんど寝れなかった。もとから特徴がないのが特徴みたいな顔が寝不足でさらに酷い顔になっていたので笑うしかないHAHAHA!

 食事もとらずに布団で大の字になっていたので。両親には心配をかけてしまい申し訳ない事をしたと思っている……どうか許してたもれ。


「おはよっ、タロー!」


 そんなアンニュイな気持ちのまま家を出たところで、同じタイミングで家を出たであろうともちゃんが元気いっぱいに話しかけてきた。

 家が隣だけあって家を出るタイミングもこうやって被る事が多く、朝一緒に通学することがままある……というか高校に進学するまではほとんど毎日一緒に通学していた。


「どうしたの、寝不足?目の下のクマが酷いよ?」


 そう言って心配そうに俺を見上げてくるともちゃん。高校生にしてはだいぶんかなり小さいのでぶっちゃけランドセル背負ってたら小学生にしか見えないと思う。


「もー、しっかりしてね?タローには頑張って戸成君との橋渡しをしてもらわなきゃなんだから!」


両手を腰に当ててふんす!としながら言っているが、朝から元気いっぱいなのは良い事だ。


「アッ、ハイ」


 我ながら棒読みになってしまったがともちゃんはアホの子なので気づかない。

 俺の心中を知る由もないのでしょうがないんだけど……悪い、やっぱつれぇわ。そりゃ辛ぇでしょって?ですよねー。


 その日の昼はともちゃんや戸成君のいる教室で弁当を食べる気が起きなかったので学食で食べることにした。

 ともちゃんは不服そうだったが、飯の時ぐらい傷心を忘れて静かに食べさせてほしかったので、一人で作戦とか考え事とかしたいからと押し切って学食に抜け出してきたのだ。

 だが生憎学食は満席で、全然空いてる席がなかった。ついて無い時ってのは大体ついてない流れが続くんだよなぁ……。


「……ター君?」


 弁当を持ったまま彷徨う俺に投げかけられる女子の声。俺をター君と呼ぶのは一人しかいないので、声をした方を振り向きながら声の主の名前を呼ぶ。


「まゆ姉!」


 黒く艶やかな長髪、そしてたわわに実った胸。

 母性全開でおっとり優しい美人のお姉さん…雉尾まゆな。俺やともちゃんより1つ年上の近所のお姉さんだ。子供のころから大人びていて俺やともちゃんもよく面倒見てもらっていた憧れのお姉さんである。


「どうしたの。……大丈夫?元気ない?お熱ある?」


 そう言って俺の額にこつんと自分の額を当ててくるまゆ姉。こういう所に無頓着な人なので、やられる側はドキドキしてしまう。


「うわっ、大丈夫!元気!身体は!」


そう言って慌てて身を離すとつれなくされて寂しそうな顔をしたていたが、すぐに安心したのか胸をなでおろす様子を見せる


「そう?ならいいんだけど。……そうだ、ター君もこれからお昼?よかったら一緒に食べようよ」


 まゆ姉に促されて、まゆ姉が座っていたテーブルの向かいにお邪魔してお互いの弁当を広げる。いやぁ助かった~!

 美人のまゆ姉の前に量産型モブ顔の俺が座っているので周囲の視線が痛いが。細けぇことはいいんだよ。


「あっ、今日はター君の手造りなんだぁ」


 弁当の中身を見ただけで判断が出来る程度には俺の料理の腕もまゆ姉には知られている。

 ……ふふふっ、こう見えても料理の腕はそんじょそこらの女子には負けないのだ。おまけに寝不足だったので昨日の夜からじっくり仕込んでいる今日の料理は文字通りに一味違うぜ……!泣きながら作ったからって塩味が聞いてるわけじゃないよ?


「私の卵焼きとター君のから揚げさん交換しよう?」


「ほい、それじゃおひとつどうぞ」


 まゆ姉の提案に頷き、から揚げを一つ渡す。するとまゆ姉は卵焼きを箸で掴み、こちらに差し出した。


「はい、ター君。あーん♡」


「いやまゆ姉、それはちょっと恥ずかしいっていうか」


 人の目もあるし気恥しいので遠慮させてもらおうとするが、まゆ姉はにこにこしながら卵焼きを差し出して譲らない。ええい、ままよ!諦めて卵焼きを食べる。……うん、うまい。うまい。けど……。


「まゆ姉、味付け変えた?」


「わかるんだ?ター君すごーい、えへへ♪」


 やっぱりそうか。……ばあちゃん仕込みの料理とダンスには自信があるのだ。だが、俺の言葉になんだかうれしそうにしているまゆ姉。


「どう、美味しい?」


「うん。いつもより味が薄味になってるような気がするけど美味しいよ」


 そう素直な感想を言うと、


「正解!さすがター君!」


 と言って頭を撫でられた。

 いつまでたっても子供扱いをされるのでむずがゆいというか恥ずかしいが、身体にしみついてしまっているので逆らえない。

 でもなんでまゆ姉味付け変えたんだろう?味付けの具合でいったら多分前の方が美味しかったと思うけど、と思いながらまゆ姉と昼ごはんを済ませた後、急にまゆ姉が真剣な表情をする。


「……で、何があったの?お姉ちゃんに教えなさい」


 おっと鋭い。……この様子だと隠し事や嘘は通じないなぁ。なんだかんだで子供のころから色々な事を知られているお姉ちゃんのオーラを感じさせる。


 少し迷ったが場所を変える事をお願いして校舎裏に2人で移動し、昨日あった事と、ともちゃんに失恋したことを話すとまゆ姉はすごく驚いた。


「そうなの?!そんな事が……ター君、ともちゃんとあんなに仲良しだったのに……」


 そう言いながら俺を抱きしめて、俺の顔をその胸に埋める……というか窒息してしまう!まゆ姉苦しい、しかし万力のように強い力で抱きしめられて逃げられない。LRボタン壊されてるぞこのコントローラー……!


「大丈夫、辛い時は泣いてもいいんだよ。お姉ちゃんがぎゅうって。いっぱい、ぎゅうってしてあげるからね」


 そういって背中をさするまゆ姉ちゃんにしがみついて、俺はつい泣いてしまった。


「うん、よしよし、いい子いい子。ター君にはお姉ちゃんがついてるからね」


 そうして、昼休みが終わるチャイムがなるまで、俺はまゆ姉ちゃんに抱きしめられていた。


「あはは、授業に遅れちゃうね」


 その後、チャイムが鳴ったのでまゆ姉からはリリースされたものの、どうせ遅れるなら焦らなくてもいいよね、とまゆ姉とのんびりしていた。


「さっきのともちゃんの話なんだけどね…実はね、私も好きな人がいるの」


 そう言って、顔を赤らめながらじっと俺を視るまゆ姉。え、何その意味深な視線。え、もしかしてそれって―――俺……ってコト?!ワァッ……!


「まゆ姉、あの、それってもしかして俺―――」


「弥平先生、なんだけど」


 スンッと萎んで萎える俺。

 弥平先生…あー、若い先生で爽やかな大人の男って感じの先生だっけ。なんかうちのクラスの女子も何人かファンがいるみたいだった。そうね、あの先生女子人気高いよね、けどまゆ姉結構ミーハーなところにいったんだなぁ。


「私、今まで年下の子の面倒を見てばかりだったから、優しくて、包容力がある大人の男の人って初めてで、弥平先生頼りになるし、かっこいいでしょ?それで……」


「惚れちゃった、と」


 そういう俺の言葉に、頬を赤らめながら頷くまゆ姉ちゃん。

 ブルータル、いやまゆ姉、お前もか。

 っていうか弥平先生、頼りになる……かもしれないけどなんか俺の第六感というか新しい人類の勘的なものが反応してるからどうも苦手なんだよなぁ。

 あの先生にはあんまり近寄るなってキュピーンって額のあたりが光るイメージが走る。俺の人生でこの手のキュピーンってなる勘が外れたこと一度もないんだけど、言うべきかこれ?いや、理由はないしあくまで俺の勘ってだけだしな…。


「それでね、私って男の子のお友達、ター君しかいないでしょ?

 だからさっきの卵焼きの味付けに気づいたときから思ってたんだけど……ター君に色々相談出来たらな、って思って…」


 ファ~!!?!!?また俺に?っていうか俺失恋したばっかりだって今説明したよね!?なのに俺にそんな事言うのぉ?!死体蹴りやめてくれないまゆ姉ェ……?


「ともちゃんがター君を頼ったのって、実はわかる気がするんだ。

 ほら、昔からター君って頼まれたことって頑張ってやり遂げる子だったでしょ?

 中学の時も、お友達の困りごととか、悩み事を解決して回ってたでしょう?だからター君ならなんとかしてくれるんじゃないかな、って……」


 それはうちの両親が何事も責任感を持って取り組め、中途半端で投げ出すなとしっかり教育してくれた賜物ですが!!

 あと困ってる人を放っておくようなしみったれた男になるなよって爺さん婆さんに鍛えられたからですが……!


「ね、お願い、ター君……」


 そう言って懇願するまゆ姉。…やめてくれよ、そんな顔をされたら断れないじゃん。子供のころから知ってる憧れのお姉ちゃんの頼み、なんて無下にできないんだぜ。


「……オーケー、オーライ」


「ありがとうター君!」


 半分放心しながら答えると、がばっと抱き着いてきて喜ぶまゆ姉。

 俺の顔を再度胸の間に埋めてくる……・はは、はははは、柔らかくてあったかぁい。

 でもこのお姉ちゃん俺じゃなくてあの胡散臭いイケメン教師が好きなんだよな、はは、はははははは……。


――――『パシャッ』


 うん?何か音聞こえた気がするが視界はまゆ姉のおっぱいにふさがれているので何もみえねぇ……。というかこんなにスキンシップしてくるけどまゆ姉も俺は恋愛対象じゃないんだよなぁ……自分、泣いていいッスか?

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