38:宣戦布告、そしてクラン結成

「き、緊張するな……」


 クラン結成の発表当日。

 俺は待機画面のコメント欄を見ながらそう呟いた。


 今日はリンとアキハ、ユイとレイジ君に自宅に来てもらっている。

 みんなもやっぱり少しは緊張しているみたいで、表情が強張っている。


 特にレイジ君は緊張で顔が真っ白だった。


 コメント欄は——。


——重大発表ってなんだろう?

——分からん。

——攻略階層を更新したとか?

——いや、ランキングの表記は変わってないからそれはない。


 そんなふうに色々な憶測が飛び交っている。

 もちろん、クラン結成かもみたいな憶測も中にはあった。


 そして——時間が経ち、待機画面が配信画面に切り替わる。


「や、やあ。今日はみんなに重大発表があって、自宅から配信してる」


——あれ、リンとかアキハとかユイもいるじゃん。

——なんだ? 豪華すぎないか、このメンツ。

——てか、ユイの隣にいる少年は誰だ? 見たことないな。


 俺たちの姿を見たコメント欄が一気に流れていく。

 視聴数も伸びてきていて、現在は同接五万人だ。


 ちなみにリーダーは俺になるので、俺から全部説明することになっている。

 台本はユイが考えてくれたものだけどね。


「いきなり重大発表だなんて、困惑していると思う」


 俺が言うと、コメント欄は同意のコメントで溢れていく。

 やっぱりみんな困惑するよな。

 俺は今までこんな配信をしたことないし。


「でも、今回は本当に重大発表だから、しっかり聞いて欲しい」


——わかった。

——確かにこれはガチっぽい。

——なんだか怖いな。


 そして俺はすうっと一息吸うと、こう言った。


「今回、俺たちはクランを結成することにした。クラン名は《ハードボイルド・フロンティア》だ」


 どんな反応が来るかとドキドキしていると、一気にコメントの流れが早くなる。


——おおっ! マジかよ!

——探索者ランキング世界一位がようやくクランを!!

——これは楽しそうなことになってきたぞ!


 どうやらかなり好意的に受け取られているらしい。

 そのことに思わず胸を撫で下ろす。

 チラリと周りを見てみると、みんなも同じような反応をしていた。


「目指すは《黄金破滅群》を超えること。これは宣戦布告だと受け取ってもらっても構わない」


 さらにそう言うと、コメント欄はとんでもない大盛況となった。


——マジか!! これは激アツ!!

——宣戦布告かよ!! よく分からないけど、面白くなりそうだ!!

——しかしどういう経緯なんだ? 宣戦布告なんて普通じゃないぞ?


 そんなふうに少し疑問のコメントも見えたので、俺はしっかりと説明する。


「今、みんなは気になっていると思う。この少年は誰なんだと——」


 俺の言葉に『確かに』とか『気になっていた』とか返ってくる。

 そして今度はレイジ君に説明をパスする。


「僕は……あの《黄金破滅群》リーダーのレイの息子、レイジです」


——あいつ、息子いたのか!?

——あんなに独身貴族きどってるのに!

——確かに結婚してないと明言はしてないな。

——でも、なんで息子がトオルのクランに入るんだ?


 とんでもない勢いで流れていくコメント。

 視聴数も鰻登りで、現在十万を超えていた。


「そして、僕たちは捨てられました。レイに。母親とともに」


——は?

——どういうこと?


 その言葉とともに、コメント欄の様子が一変した。

 畳みかけるようにレイジ君は説明を続ける。


「信じてもらえないかもしれませんが。僕には探索者としての才能がありませんでした。だから、才能至上主義の父は僕を捨てたのです」


——許せねぇ……。

——もしそれが本当なら、絶対にレイを潰さないと。

——確かにこれなら《黄金破滅群》に宣戦布告するのも理解できるな。


「でも、そんな時、トオルさんが救ってくれました! チャンスをくださいましたッ!」


 ドンドンと語りに熱が入っていくレイジ君。

 それに応えるようにコメント欄も盛り上がっていく。


——うぉおおおお! 流石は俺たちのトオルだ!

——レイなんて、《黄金破滅群》なんてぶっ潰せ!


「僕はこのチャンスを無駄にはしません! 父親を超えたいですッ! そして僕は認めさせたいッ!! 捨てたことを後悔させたい!!」


——その調子だ! レイジ君!

——やっちまえ! 俺たちも全力で応援するぞ!!

——負けるな! 父親なんかに負けるなよ!!


「だから——僕たちは勝ち上がります。《黄金破滅群》を超え、世界一になるまで僕たちは諦めません」


 そこでレイジ君から再び俺にパスが来る。

 俺は最後の締めとして、こう括るのだった。


「——というわけで、俺たちはクランを結成した。みんな、見ててくれよな。俺たちが頂点を取るところを」


 そして配信を終え、俺たちは一斉に息をついた。

 緊張した。

 でもそれと同時に何かが動き出した気がした。


 そしてそれはおそらく間違いではないのだった——。



   ***



——アーシャ視点——


 その配信を空港で見ていた私は震えていた。

 世界一位のトオルがクランを立ち上げるなんて。


「ふふ、ふふふ、はははっ! これはすごく面白くなってきたわね……ッ!!」

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