36:クラン名を考えよう

「まずは名前を考えましょう!」


 俺たちはその後、近くのカフェに入った。

 そしてコーヒーが届いた直後にユイがそう提案する。


「名前、名前かぁ……」


 恥ずかしくない名前がいいよな。

 もう俺もおっさんだし、厨二病全開みたいな名前は嫌だ。


 そう思いながら考えて、一つ提案してみる。


「《腰が痛いけど頑張り隊》とかどうだ?」


 うん、これなら面白いし、厨二臭くない。

 いい感じにできたぞ。

 そう思っていたのだが——。


 なぜかユイもレイジ君もドン引きしていた。

 困ったようにユイが言う。


「ええと……それはおそらくトオルさんにしか当てはまらないんじゃあ……」

「うっ、そ、それはそうだな」


 確かにレイジ君とか絶対に腰が痛いとは程遠い感性をしている。

 しかしレイジ君は遠慮がちに言った。


「ぼ、僕はそのクラン名でもいいと思います……」


 いやいや、絶対に本心じゃないでしょ!

 絶対に気を遣ってそう言ってくれてるじゃん!


 自分よりもひとまわりも若い子に気を使わせてしまってなんとなく落ち込む。

 ユイはにっこりレイジ君に微笑みかけると言った。


「レイジ君。あまり気を使わなくていいからね。とりあえず私たちで考えましょう」


 どうやら俺は自然にハブられるらしい。

 ……あのネーミングセンスではダメみたいだ。


 俺的にはとてもいい案だと思ったんだがなぁ。


「私は《深淵なる革命者たちの優雅なる午後》とかがいいと思うんですけど、どうですか?」


 ん……?

 んん……?


「長すぎないか……? てかユイだってそんなネーミングセンスないじゃないか。厨二病すぎる」

「ええー! 絶対にトオルさんよりはあります! それにかっこいいじゃないですか!」

「そもそもだ、どうやって呼ぶんだよ。略さないと長ったらしくて言えたもんじゃないぞ」


 俺の言葉にウッと言葉を詰まらせるユイ。


「た、例えば《深淵革命者》とか……?」

「どちらにしろ、ダサいと思うぞ……」

「そ、そんなことないと思いますけど……!」


 そして俺たちは第三者の意見を求めるべく、レイジ君の方を向いた。

 すると彼は困ったように視線を泳がせて——。


「ぼ、僕もあまり好きではないです……」

「ほら! やっぱり厨二臭いよな! これで多数決で決まりだな!」

「……レイジ君。ちょっとは気を遣いましょう」


 さっきと言ってることが真反対だ。

 やっぱり大人って酷い。


 それからあーじゃないこーじゃないと案を出し合うが、なかなか良いのが出なかった。


「そう言えば、レイジ君はまだ案を出してないよね?」


 俺が言うと、彼は遠慮がちに頷いた。


「あんまり思いつかない感じですか?」


 ユイがそう尋ねると、彼は視線を逸らしぽつりと言う。


「いえ……一つだけあるんですけど」

「とりあえず言ってみよう。別に否定はしないからさ」


 俺の言葉を聞いて、彼は少し考えた後、こう言った。


「それじゃあ——《ハードボイルド・フロンティア》とかどうですか?」

「おお、いい感じじゃないか……?」

「私も悪くないと思います!」


 しかし俺はふと気になったことがあってレイジ君に尋ねる。


「でも、なんでハードボイルドなんだ?」


 俺の問いに彼は顔を真っ赤にして俯くと、小さな声でこう答えるのだった。


「あ、あの……僕、実はイケおじみたいなのに憧れてるので……」

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