同級生の雑魚ムーブ

「この男が、あの・・第四皇子か」

「そうらしいですよ」


 僕達の後ろから、男達の失礼な会話が聞こえた。

 これに、真っ先に反応を示したのはリズだ。


「今、私の・・ルディ様に対して失礼なことを言ったのは、あなた方ですか?」

「「っ!?」」


 男達……おそらく、僕達と同じクラスとなる同級生は、リズの視線と恐ろしく低い声を聞き、顔を引きずらせて一歩後ずさった。まあ、そうなるよね。


「君達、僕に何か用かな?」


 それとは対照的に、僕はあえて友好の意を示すかのように爽やかな声で尋ねた。

 彼等には、それはもうにこやかで人懐っこく見えるに違いない。


 こんな失礼な連中に、どうしてそんな態度で接するのかって?

 もちろん、初対面の相手には油断してもらったほうが、僕がやりやすいからだよ。


「ル、ルドルフ殿下は、現在の皇宮内の混乱をどうお考えなのか!」

「そ、そうです! あなたが妙な真似をされたことで、仕える俺達は苦労しているんですよ!」


 ほら、すぐに調子に乗って、こんなことを声高に言い出したよ。

 どうやら現在の皇位継承争いが、僕の介入によって予想外の方向に動き出したことに、物申したいみたいだな。


「へえ……ところで君達、どこの家の者かな?」

「私は“ノルダール”伯爵家の次男、“エドガー”です!」

「お、俺は“ウルマン”侯爵家の長男の“ロニー”です!」


 なるほど……代々騎士団長を輩出しているノルダール伯爵家に、南に広大な穀倉地帯を有しているウルマン侯爵家か。


 ウルマン家は最初からオスカル派だったと記憶しているけど、ノルダール家は元々フレドリクについていたはず。

 それが一緒になって抗議をしにきたということは、オスカルに鞍替えしたのかな? したんだろうな。


 ただ。


「それを僕に言って、どうするつもりなんだ? そもそも、どの皇子に肩入れするかは実家の意向であって、帝立学園のしがない一生徒にすぎない君達に、僕にとやかく言う筋合いはないと思うけど」

「っ! 何を言っているのですか! 私達も、いずれこのバルディック帝国で重責を担う存在になるのですよ!」

「そうだ! ルドルフ殿下は、俺達をないがしろにしようというのか!」


 ええー……そもそも僕と敵対する派閥なんだから、それは筋違いにもほどがあるんじゃないかな。

 それを言う資格があるのは、同じ派閥の人間だけだよ。せめてフレドリク派になってから、出直してほしい。


「とにかく、君達が僕に対して物申したいのは、この僕がフレドリク兄上と手を結んだことが気に入らない、そういうことでいいのかな?」

「「…………………………」」


 正面から尋ねると、二人は露骨に目を逸らした。

 まともに文句も言えないくせに、絡んでこないでほしいなあ。


 とはいえ、僕とフレドリクが手を結んだことで、こんな子息連中にまで少なからず影響が出ているんだから、マーヤによる情報の流布による効果はなかなかのものだ。

 おそらく、この二人の実家もかなり混乱していて、オスカルに鞍替えした騎士団長のノルダール伯爵も、今頃自問自答していたりして。


「何も言わないのなら、どこかに行ってくれると助かるんだけど」

「…………………………失礼します」

「……チッ」


 エドガー子息は形だけ一礼し、ロニーに至っては舌打ちをしてここから離れた。

 あの二人、結局何だったんだよ……。


「……私とルディ様の、二人だけの貴重な時間を邪魔したのです。この学園にいる間、ただで済むとは思わないことです」


 二人の背中に射殺すような視線を向けながら、リズが何か呟いているんですけど。

 これからの三年間、あの二人にどんな未来が待ち受けるのかと思うと……まあ、頑張れ。


 肩をすくめた僕は、前へ向きなおろうとして。


「あれは……」


 僕の視界に、あの二人と会話するヴィルヘルムの姿をとらえた。

 ひょっとしたら、あの二人が僕のところに来たのも、全てはヴィルヘルムの差し金なのかもしれない。


 ……寮に戻ったら、ヴィルヘルム担当のアンネに言っておかないとね。


「ルディ様、どうかなさいましたか?」


 おっといけない、リズが心配そうに僕を見ているぞ。


「いえ、何でもありません」

「そうですか……」


 僕は気を取り直し、しばらくの間談笑した。


 ◇


「今日から三年間、君達の担当となる“ボリス=アルメアン”だ。よろしく頼む」


 自己紹介をするのは、この帝国では珍しい褐色の肌を持つ僕達の担任教師だ。

 たしか、彼の実家のアルメアン伯爵家は、西方諸国の最南端よりもさらに南の国をルーツに持っているんだったっけ。今度マーヤに確認しておこう。


「では、せっかくだから一人ずつ自己紹介をしてもらおう。窓際の先頭から頼む」

「はい! 僕は……」


 子息令嬢が、順番に自己紹介を始める。

 名前と実家、それに趣味や得意分野などの簡単な自己アピールを交えて。


 だけど、僕はどう自己紹介したものか……絶対に悪目立ちするよね。

 ハア……まあ、名を名乗る程度に留めて、手早く終わらせよう。


 そんなことを考えながら、自己紹介の様子を眺めていると。


「アンデション辺境伯家の長女、シーラと申します」


 聞き覚えのある名前が、僕の耳に飛び込んできた。

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