となりの宮川さんは人気Vtuberになりたい
usi(ウシ)
となりの宮川さんは人気Vtuberになりたい ストーリー版
となりの宮川さんはVtuberだった
「このことを誰かに言ったら殺すわ」
空が段々と赤くなっていく夕暮れ時。僕は二人きりの教室で、学年で一番可愛いと噂の女性に脅されている。
「は・・はい」
思わず情けない声を出してしまう。僕は仰向けで両手を床につき地面に倒れていて、彼女は僕に覆いかぶさるように右足を僕の顔のすぐ横に置いている。もう少しでパンツが見えそうだ。だが僕にそんな余裕などない。
なぜなら彼女の右手には鋭利な刃物。つまりシャーペンが握られている。
「なんだこの状況はーーー!!」
僕は心の中で叫んだ。
「それじゃあ。ここを宮川」
「はい」
先生に当てられて宮川さんは黒板の前に向かう。
となりの席の宮川さんは学年で一番可愛いと噂されている美人だ。長い黒髪に整った顔立ち。スタイル抜群でおまけに黒メガネ。才色兼備。成績優秀。運動はそこそこ。のほとんど完璧超人だ。
「正解だ」
宮川さんは見事に答えを書き自分の席へ戻る。かっこいい。
そしてなんといっても声が綺麗だ。大人っぽい声の中に幼さも内包している。声優と言われても信じてしまう。
宮川さんをあまり知らない人は彼女を完璧超人だと思うだろう。
だがそんな彼女にも欠点がある。それは・・・無口であること!そう彼女は必要最低限の事しか喋らない。
校舎裏で男子に告白された時も
「好きです付き合ってください」
男が宮川さんに向かって右手を伸ばしている。
「いやです」
宮川さんは顔色一つ変えずに断る。
クラスの女子にご飯に誘われた時も
「宮川さん。一緒にご飯食べに行かない?」
クラスの女子が勇気を出して宮川さんをごはんに誘っている。
「いやです」
しかし宮川さんは動じない。
先生に頼み事をされた時も
「宮川。ちょっとこれ手伝ってくれる?」
中年男性の教師が,授業で使う荷物を持って宮川さんに手伝いをお願いしている。
「いやです」
それでも宮川さんはいつもの言葉を返す。
そう、となりの宮川さんは人付き合いが悪い!そのため友達がおらず、いつも一人で学校生活を送っている。
残念美人。彼女を表すに最もふさわしい言葉であると思う。
そんな宮川さんの隣の席の僕はと言えば。
成績普通。顔も普通。運動能力も普通、の凡人だ。人からは
「え?いたの?気付かなかった」
とよく言われる。かなしい。
そして友達もいない。僕は宮川さんと違って人付き合いはいいはずだったのだが。
「友達がいなーーーい!」
僕は机に座りながら頭を抱えた。入学式以降、誰かに話かけられるのを待っていたらだれも話かけてくれなかった(泣)。そのため友達は一人もいない。
そうして窓際の一番後ろの席二つはぼっちたちによる不可侵領域となった。安易に近づこうものなら返り討ちに合うと思われているみたいだ。いや近づいてよ!
この日も僕たちぼっちは一言も交わさずに学校を終える。いつか話すときは来るのだろうか。いやこないだろう。僕は自問自答した。
「ふー。やっと終わった」
授業が終わり、皆が続々と部活なり遊びにいくなりして教室を出ていく中で僕は自分の席で小説を読む。なぜかと言えば僕は一番最後に教室をでることを使命としているからだ。深い意味はない。
「さて、そろそろ帰るか」
教室にだれもいないことを確認して僕は教室を出た。家に帰り自分の部屋のベットに潜ると僕は早速スマホのYou〇tubeを開いた。
「さて今日はどんな子がいるかな?」
そこには気持ち悪い顔でニヤニヤしている変態がいた。だれが変態だ。ここで僕の趣味を教えておこう。
僕の趣味はずばり、Vtuberの動画を見まくること。見るのではない。見まくるのだ。
お気に入りのVtuberの動画は毎回チェックしているし、新人Vtuberの初配信は可能な限り見て回っている。
「おっ。この子かわいいな」
画面にはきつねの耳をつけて制服を着た美少女がいる。黒髪で顔は小さくどちらかと言えばきれいというよりかわいいという印象だ。
名前は「狐山 コン子[きつねやま こんこ]」というらしく今回が初配信みたいだ。
「この子は期待できるぞ」
時間まで待機していると早速配信が始まった。第一声は何ていうんだろう?楽しみだな。期待して待っていると「狐山 コン子」はとびきりの笑顔でこう言った。
「まず、今見ている人はチャンネル登録しないと殺すわ」
「ええーー!いきなり殺すって」
僕は可愛い顔と発言とのギャップに思わず驚いてしまう。すごい責めてるVtuberが出てきたな。
「狐山 コン子」は笑顔で耳を上下に動かしている。かわいい。
それにしても綺麗な声だな。大人っぽい声の中に幼さも内包しているような・・
「ん?この声はもしかして」
ここで僕の人に言える99の特技の一つを紹介しよう。
それは人の声を識別できることだ。だれかが風邪を引いて声がおかしくなったときも、わざと裏声をだしたときも僕はだれが喋ったか判別できる。
今までこの特技が役だったことは一度もない。
しかしこのものすごい特技を使った結果。
「間違いない!この「狐山 コン子」は宮川さんだ!」
宮川さんがVtuberであることが判明した。だが、普段全くの無表情で不愛想な宮川さん(コン子)がこんなに笑顔で笑うだろうか?とにかく
「明日聞いてみよう!」
次の日の放課後、空が段々と赤くなっていくころに教室には二人のぼっちが小説を読んでいた。宮川さんは迎えの車を待っているらしい。
噂だと宮川家はなかなかのお金持ちだとか。
これはチャンスだ。僕は覚悟を決めて聞いてみる。
「ねえ。もしかして宮川さんって「狐山 コン子」なの?」
それを聞いた瞬間。宮川さんは驚き、手に持っている小説を上に放り投げた。小説は宙を舞い僕の頭上めがけて落ちてくる。慌ててキャッチしようとするも
「いて!」
あえなく失敗した。痛い。
宮川さんの方を見てみると目を見開いて口を大きく開けて僕を見ている。普段無表情の宮川さんがこんな顔するなんて。
すると宮川さんは椅子に座り直してコホンと咳払いした後
「ち、ちがうわ」
と目を泳がせながら言った。
「やっぱり、そうなんだーーー!!」
となりの宮川さんはVtuberだった。
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