宮川さんとの帰り道
これは宮川さんが普通に喋れるようになった後の日常を書いたものである。
なんやかんやあって宮川さんが普通に喋れるようになって数日がたった。あのつらく厳しい日々を僕たちは乗り越えたのである。あんま覚えてないけど。
最近は宮川さんと一緒に帰ることが日常だ。今は駅までの帰り道を一緒に歩いている。
「うれしいよ。宮川さんが普通に喋れるようになって。僕も頑張った甲斐があったよ」
「ふん。あなたに何かされた覚えはないけど」
宮川さんは顔を背けながらそう言った。喋れるようになったのはいいが相変わらずツンツンしている。それに無表情なのは変わらないので顔からは何を考えているのかまるで分からない。
「ひどいよ!僕はそれは我が子のように一生懸命に付き合ったのに」
僕は精一杯反論する。しかし宮川さんとこうして話せるようになったので、特訓に付き合ってよかったと思う。すると、宮川さんは指を指しながら僕にこう言った。
「よかったわね。私と話せるようになって。光栄に思いなさい」
なぜこんなに偉そうなんだ。しかしここは宮川さんを上げておいてやろう。
「そうだね。すごくうれしいよ」
それを聞いた宮川さんは顔をそらして俯いてしまった。照れているのだろう。かわいい。
「とにかく。まだこれからよ。人気Vtuberへの道はまだまだ遠いわ。そこで私に考えがあるの」
宮川さんは得意げに人差し指を立てて、僕に話してきた。不安しかないが一応聞いてやろう。
「どうするの?聞かせてよ」
「それはね。Vtuberには新衣装というものがあるじゃない?だから、私も新しい衣装にしようと思うの」
たしかにいいアイディアだ。だが不安しかないのはなぜだろう。
「すごくいいと思うよ。ちなみにどんな衣装?」
「それはね。きつねの耳を犬の耳にして、尚且つ目も大きくして、顔も小さくしてもらうの」
「それは欲張りすぎだよ!新衣装というのはあくまで衣装であって顔まで変えたらもはや別人だよ!」
僕は焦りながらつっこむ。宮川さんは相変わらず不服そうだ。
「別に、整形しましたって言えばいいじゃない」
「だめだよ!Vtuberに整形という概念はないよ!そんなに現実的な設定を持ち出しちゃだめだよ!」
宮川さんは意外と適当な性格だ。でも新衣装というアイディアはすごくいいと思う。そこで宮川さんにこう提案してみた。
「コン子は今制服しか持ってないから。新しい服を作ってもらうのはどうかな?」
「まあたしかにいいかもね。ちなみにどんなの?」
「巫女の服とかどうかな?」
「きしょ」
そういうと宮川さんはすごい勢いで僕から距離を取った。
「きしょくないよ!リスナーの願望を代弁しただけだよ!」
たしかに僕の願望も少しは入っているが、スク水とか言わなかっただけましだろ。
「じゃあ宮川さんは何か希望の衣装とかあるの?」
一応聞いてみる。宮川さんは人差し指を顎に当てて考え込んでいる。かわいい。
「そうね。やっぱりドラゴンとか書かれた服がいいわね」
「やめてよ!中学生男子が当時買ってしまって、後からものすごく恥ずかしくなるやつだよ!」
ちなみに僕もドラゴンの彫刻刀にして恥ずかしかったのを覚えている。
「まあ、また今度考えましょうか」
宮川さんは長い黒髪を手で押さえながらそう言った。
「そうだね。また今度にしよう」
僕は笑顔でそう答える。
そんな話をしていると駅についた。今日はここまでだ。
「じゃあね、宮川さん」
「さようなら」
僕たちは普通の高校生のような挨拶をして別れた。
こんな普通の日常を過ごせることが何よりうれしい。クラスのボッチの僕とは大違いだ。宮川さんも同じ気持ちだといいけれど。
明日からも宮川さんとの日常は続いていく。
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