おまけ 宮川さんと体育祭

これはとなりの宮川さんが人気Vtuberになるための会話の特訓をする話。



無口な宮川さんと話せる時間。それは朝の教室で二人きりのときだけ。のはずだったが。


今日は体育祭の日。暑い日差しの中、僕たちは木陰で涼みながらグラウンドを眺めていた。


宮川さんの方を見ると、汗を体操服の袖でぬぐっている。


宮川さんの新鮮な体操服姿を見れたので、僕は満足だ。


そう思っていると宮川さんが話かけてきた。



「はーー。まったくなんでこんな暑い日に運動しなくちゃいけないのよ」


「たしかにそうだね。でも高校生活の数少ない行事の一つだよ」


「めんどくさいわね。今からVtuber大運動会にしない?」


「無理だよ!身バレまっしぐらだよ!それにVtuberなんて参加してくれないよ!」


「ああー。こんなことならVtuber専門学校にでも入るんだったわ」


「たぶんないよ!あるとしても高校卒業の資格はもらえないよ!」


そんなことを話していると僕たちの番がきたようだ。


僕たちは二人三脚にでる。


「足を引っ張ったら私は配信にこの動画を上げるわ」


「やめてよ!罰ゲームがきつすぎるよ!」


お互いの足に紐を結び付けて、肩を組む。


今までになく密着してどきどきしてしまう。


宮川さんの顔を近くで見て改めてきれいだと思った。


そして二人三脚がスタートする。


特に問題もなく無事にゴールできた。


「ふーー。無事にゴールできて良かったね」


「そうね。まあまあだったわ」


宮川さんを見てみると顔がちょっと赤い気がした。


恥ずかしかったのは僕だけではなかったらしい。


そして昼食の時間が来た。



「宮川さん一緒にごはんたべようよ」


「しかたないわね」


そういって木陰に二人で座った。


「宮川さんのお弁当はすごいね。伊勢海老とか初めてみたよ!」


「ふーん。よく庶民のあなたがこの高級食材を知っていたわね」


「庶民は余計だよ!しかも高級食材とかいいだしたよ!」


「ところで宮川さんの家族はきているの?」


「父と母は忙しい人でね。いつもじいやが来ているわ」


そういった宮川さんの顔は少し寂しそうだった。


「ごめんよ。無神経だったよ」


「別にいいわ。あなたの無神経はいつに始まったことじゃないもの」


「ひどいよ!僕は宮川さんと話すときは神経を張り巡らせているよ!」


「まあ、今年はいつもより楽しい体育祭かもね」


「宮川さん・・。僕のお弁当全部あげるよ!」


「いらないわよ!なんでいつも全部あげようとするのよ」


「ごめんよ。ついテンションが上がってしまったよ」


そんな会話をしながら僕たちは弁当を食べ進める。



「特別に伊勢海老を上げるわ」


「いいの?ありがとう!」


「日頃のお礼よ!人生で最後の伊勢海老をしっかり味わいなさい」


「勝手に最後にしないでよ!」


人生で最初に食べた伊勢海老は本当においしかった。


明日からいつもと同じ、宮川さんとの秘密の特訓が始まるのだ。

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