第62話

 次の日、俺は大洞窟に向かった。

 暗くなり、雰囲気の良い焚火が幻想的に辺りを照らす。

 ニャリスの仕業か。


 そして、ドラグ・アクリスピ・パープルメアが中心に座る。

 その横にはエムリアとグランドが座り、その後ろにはアクアマリンパーティーが立っていた。


「……全員集合か」


 しかもニャリスは俺を配信している。


「イクス、空いている席に座りましょう」

「中心の席しか空いていない!仕組まれているだろ!空いてる席ってなんだよ!」


「イクス、座って配信だぜ」


 俺は無言でゴレショを出した。

 配信を始める俺をニャリスが配信し続けている。

 俺の後ろに立ちながらも何度もゴレショをテクニカルに操作している。


「ゴレショ、お母さん、追尾、ゴレショ、広角撮影、中心ポイントはお母さん」


「配信を始める」


『お母さんの顔がおもろいwwwwww』

『不服そうだよな』

『来た来た来た来た来たああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!』

『祭りの予感しかしない』

『みんな笑顔でお母さんだけ不機嫌なのが面白過ぎる』

『お母さん、ご自愛ください』


 周りの子も俺達を見学している為ざわざわと騒がしい。

 グランドが魔道具マイクを持って進行する。


「おほん、それでは新・イクス協会の設立」

「ちょっと待て!新・イクス協会は無いだろう!」


『お母さんが初手で止めてきたwwwwww』

『新・イクス協会は釣り糸にお母さんが引っかかるのを待つ奴だろ』

『新・イクス協会は嫌なんだろうな』

『だけど予想通りで笑いすぎて腹が痛い』

『ベッタベタでも笑っちゃう』

『さいっこう!』


「はて?新の部分に議論はありました。やはり新・イクス協会ではなく、イクス協会と変えた方がよいでしょうか?」

「そこじゃない!」


『グランドの顔が面白い』

『話を逸らそうとしているよな』

『多分グランドは救い手孤児院協会と奴隷解放協会の統合を絶対に達成したいんだろう。だから論点を枝葉に逸らして本丸に攻め込まれないようにしている。枝葉に撒き餌を撒く作戦だ』


「イクス、いきなり出鼻を折りすぎだぜ」

「笑いながら言うな!」


「おほん、では、名前の件はおいておきます。救い手孤児院協会と奴隷解放協会の統合理由を配信を見ている皆様にも説明していきます。初めて見た方には統合理由が分からないでしょうから」


 グランドはコーヒーをぐっと飲みほした。


『来た来た来た!コーヒーカフェインを決めた!』

『こうなったグランドは強い』

『多分ここに労力を割いて事前準備をしてきたんだろうな』


「結論から言います。統合理由は、合理化の為です」


「ですがその前に何故その結論に至ったのか、現状把握を話していきます。救い手孤児院協会の問題点を上げていきます。万能の救い手にして偉大なるイクスさんが立ち上げ、運営しているこの素晴らしい協会ではありますが、問題点は次の通りです」


 グランドは事前に作って置いた資料を画面に映す。


 問題点

①施設周辺の物価高騰と地価高騰による支出の圧迫

②イクスさんの目が行き届かない


「もちろん他にも様々な問題がありますが大きな問題はこの2つです。まずは①の施設の物価高騰と地価高騰による支出の圧迫、から説明します。イクスさんは長年にわたり孤児院協会を立ち上げ、孤児を救い続けてきました。しかし、100年の時を経て、イクスさんが孤児院を建て、協力した地域は大きく経済が成長しました。その事は喜ばしい事ではあります。しかし、発展した都市は地価と物価の高騰を招きます」


『言われてみれば、救い手孤児院は大体一等地に建ってる』

『安いコストで孤児を救えばその分もっと多くの孤児を救える』

『もっと言えば孤児院の数が多すぎる。統合して大箱で作った方がいいのも分かるぜ』


 グランドの言いたいことが分かって来た。

 次の展開も予測できるが、だが、正論過ぎて反論できない。


「続いて②のイクスさんの目が行き届かない問題については現状、イクスさんは奴隷解放活動に力を入れています。今エムリアさんが会長代理として活動していますが、やはりイクスさん不在となれば、救える孤児に手を差し伸べきれない問題が出てきます。エムリアさんその件についてお願いします」


「はい、その言葉の通りです。イクスさんがいない孤児院協会ではどうしても毎年受け入れられる孤児の数は限られています。いつも思います。イクスさんがいればあの子は助かったと。あの子も!引き取る事が出来たと!!私達にはイクスさんが必要なのです!!」


 エムリアは涙を流しながらに訴えた。

 それやめろ!

 

『これって、結構深刻な話なんじゃないか?』

『マジで、エンタメとして聞いてたけど、エムリアの涙を見ているとただ事じゃないのが分かる』

『だから物価の安いブルーフォレストとここに拠点を移して組織を統合し合理化するか。先の展開が見えてきた』


「い、いや、大げさな」

「イクス!今は真剣な話をしているぜ!!2人の話を聞いてやれって!!!」


 ドラグの奴め!


 笑いながら言うなよ!


 だが、2人は真剣に話をしている。


 救おうとして動いている。


「ぐぬぬぬ!」




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