第17話

 一旦ギルドに戻りスライムを納品すると受付嬢が言った。


「スライム312体、ボススライム13体、状態の悪いスライムの分を引いて報酬は157万8000ゴールドです」


 アクアマリンが飛び上がって喜んだ。

 最初はもっと時間がかかると思っていた。

 だが、成長率が異様に高い。

 ハングリー精神がかなり強く戦闘センスが高い。



「次はアサルトアントの巣に向かう」

「魔王さん、待ってください。アクアマリンさんはまだFランク冒険者です。動画投稿をしているのにFランクのままでアサルトアントの巣に行かれてはギルドに批判が来てしまいます。すぐに昇格させましょう。証拠の動画もばっちりありますし」


「アクアマリン、昇格してもいいか?」

「はい、昇格したいです」

「ではDランクの手続きを開始します」

「ん、Eではなくてか?」


「はい、動画配信で証拠はばっちりです。問題無くDランクに昇格出来ます」

「分かった」


 アクアマリンはニコニコしながら手続きをしていた。

 尻尾がいつもよりブンブンと揺れている。

 ニコニコして食事を食べていた。


 そして食事が終わると受付嬢も何故かニコニコしながら俺に話しかけてきた。


「魔王さん、午後になったらアサルトアントの巣に行きますよね?」

「うむ、アクアマリンを連れて行く」

「丁度いいですね」


 後ろに冒険者のパーティーが3組いた。

 全部で12人か。


「ぼ、僕いつも動画を見ています!今日はご指導お願いします」

「「お願いします」」


「ん?ん?」

「魔王さん、ついでにみんなを連れて行って欲しいです。みんなEランクですがアサルトアントに挑みたいと言ってやめるように何度言っても聞いてくれないです」


 Eランクでアサルトアントに挑むのは早すぎる。


「うむ……実戦で体感させるか。だが動画配信に映りこんでしまっては迷惑になるのではないか?」

「そこは確認済みです。大丈夫ですよ」


 少し忙しくなるか?

 やる事があったがまあ後でいいだろう。

 付き添うとするか。


 アクアマリンを見ると報酬と昇格の報告動画を上げていた。



 俺は12人の冒険者とアクアマリンを連れてアサルトアントの巣に向かう。





「ま、待ってください」

「もう、苦しいです!」


「すまん、急ぎすぎたようだ。だが、アサルトアントに挑むのならこの程度で息をあげていては厳しいだろう」


 俺とアクアマリンは走って巣に向かうが残りの冒険者が息を荒げる。

 直接言うより走らせて能力不足を実感させる。

 基本はこの繰り返しだ。

 言って分からないなら体感させて分かってもらう。


「ギイイイイイイイイイイ!」


 巣に近づくとアサルトアント4体が走って来た。

 大きなアリで人が横になった時と同じくらいの大きさだ。

 攻撃方法はあごの噛みつきだ。


 アクアマリンが急いで配信を開始した。


「アサルトアントは地を這うように走り微妙に背が低い。よって脚を狙われやすい。そして多くの場合4体以上の群れで襲い掛かって来る。対策としては」


 俺は氷の魔法でアサルトアントを貫く。

 そして貫通した氷が後ろにいたアサルトアントの計2体を倒した。

 動画のコメントをチェックする暇はない。


『今2体同時に倒した!』

『技量高すぎないか!』

『さりげなくやってるけど高等技術だぞ』


「遠距離攻撃で倒す事だ」


 続いてハンドガンタイプの魔道銃を取り出して1体の頭を撃ち抜いた。


『ヘッドショットで1撃!』

『アサシンならこの程度出来る。Dランクなら出来るし俺も出来る。みんな驚きすぎ』

『↑こいつマジで言ってんの?俺Dランクだけど無理だ。何回もやればたまに成功するかもだが。そもそも銃の基本は狙いにくい頭より胴体を狙って確実にダメージを与える。魔物はヘッドショットしてもかなり中心に当てないと倒せない。今のはかなり格上がやる戦法。しかも狙いがぶれるハンドガンでやるのは更に異常』

『シンプルに言おう、ハンドガン1発で倒すのは異常』

『銃に込める魔力量と速射の制御力、そして狙い、すべて完璧だ』


「だが近接武器しか持たない者もいるだろう。そんな場合はアサルトアントの前に立つな」


 俺は残ったアサルトアントの横に移動した。

 そしてアサルトアントが方向転換する瞬間にナイフを頭に突き刺した。


「このように横に移動すれば向こうは必死で方向転換してくる。そこに隙が生じる。更に強力なあご攻撃を受けにくくなる。挟み撃ちにするのもいいだろう。次の群れが来た。やってみるのだ!」


「「はい!」」

 アサルトアントが倒れる。


『瞬殺、だと!』

『分かった。やっぱ魔王は魔王だわ』


 アサルトアントが全滅した。


「倒したアサルトアントは4パーティーで分けて回収するのだ」


「収納できません」


「うむ、俺が回収しておこう。だが、収納が出来なければアサルトアントはお勧めしない。スライムのダンジョンより遠く、往復だけで疲れてしまうのだ」


「「はい!」」


『お母さんだ』

『俺も指導して欲しい』

『仮面を取ってほしい』


 魔物の回収が終わるとアクアマリンが大きな声で言った。


「おか、ご主人様!」

「どうした?」

「仮面を取ってほしいそうです」

「断る!先に進む」


『全部言う前に拒否したwwwwww』

『でも、実際目立つよな』

『アクリスピタン来ないかな?ワンチャンあるぜ?』

『仮面を引きはがしてくれそうだよな?』

『仮面を引きはがした時の焦った顔を見てみたい』



 がさがさがさ


「「ギイイイイイイイイイイ!」」


『12体来た!』

『数多くね?大丈夫か?』


「みんなで戦うのだ」


『え?マジで?数多くね?』

『でも、魔王様がいるなら大丈夫じゃないか?』

『乱戦になったら守り切れんでしょ?』

『やばない?』


 俺はアサルトアントの群れに飛び込んだ。

 そして挑発の魔力を放つ。

 一瞬だけアサルトアントの動きが止まる。

 アサルトアントが一斉に俺を見た。


『今アサルトアントの動きが止まった?』

『中心に魔王様が飛び込んだらびっくりするのは普通じゃね?』

『いや、飛び込んでちょっと間を置いてから動きが止まっていた』


 さっきは少し目立ちすぎてしまった。

 魔物を倒せば目立つ。

 ならば俺が倒さなければいい。


「さあ、戦うのだ」


 俺は後ろから迫ったアサルトアントの攻撃を躱す。


『今死角からの攻撃を躱した!』

『おかしすぎる』

『動きが早いわけじゃない』

『早くないのに全部避けてるだろ?そっちの方が怖くね?』

『みんな気にし過ぎだ。Dランクならアサルトアント位倒せる』

『素手で武器も持たずに群れに飛び込んで死角からの攻撃を躱すのおかしいだろ!』


 冒険者がアサルトアントを倒す。

 アクアマリンは1人だけで4体を倒していた。


 アサルトアントが全滅した。

 アクアマリン以外が全員息をあげている。


「しばらくの間、アサルトアントの巣に入るのはやめておくのだな。ここで苦戦していては死ぬ。こいつらはただの働きアリだ。巣にはさらに強力なソルジャーやキャプテンがいる。今のお前らでは殺されるだろう」


「「はい!」」


「アクアマリン、余裕はあると思うが、配信はここまでだ。一旦安全な場所まで皆を送る」

「はい!配信はここで終わりです!」


 俺はみんなを送った。


 この時俺は気づいていなかった。

 連れて来たパーティーの者が掲示板で拡散している事実を。

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