第8話 偏屈狸の集落
杉林の中を黙々と歩み続けていたが、昨日一日寝ていないから、なかなか足が出ない。何処かで休もうかと思うが、道中になかなか休めそうな場所がない。私は道を外れ、杉林の中に入って行った。
杉林を進んでいくと小さな集落が現れた。枝や葉を使って造られた住処のようなものが五軒ほどある。少し奥には木の下にほら穴が掘られている。何かの生き物の住処にしては密集している。となると、恐らくここは妖怪の住処なのだろう。
「おいお前、何しに来やがったんだ?アァン⁉︎」
不意に私の後ろの方から声が聞こえて来た。振り向いてみると、まだ子供の狸がこちらを睨みつけている。
「おいこの野郎!聞いてんのかアァン?」
随分と口調が悪い狸だ。この辺りの狸はガラが悪いのだろうか?
「私は旅の者だよ。申し訳ないのだけれど少し休ませてはいただけないか?」
私はできる限り冷静に語りかけた。
「旅の者?何を言ってんだ?今時そんな格好で旅する奴がいるわけあるか!」
この狸、口が悪いだけではない。かなりの偏屈者でもあるようだ。なんとも面倒くさい。このままここでこの偏屈狸と口論するより、とっとと離れて他の場所に移動して休んだ方がいいように思えた。
さて、どうしようかと思案してしていると、いつのまにか狸が増えている。一体いつ増えたのだろうか。しかも何やら小声で話し合っている。何を言っているのかは聞こえないが、こちらをチラチラと見ている。かなり怪しまれているようだ。
「迷惑なのであれば出ていくが」
そういって、踵を返そうとすると狸達がこちらを向き、一番偉そうな狸が喋りかけてきた。
「ちょいと待ちなされや。まず聞こう。お前は人間ではないな?」
「ああ、人間ではない。化け狐だ。名前は蓮という」
「名乗れとは言うていないぞ!……まあいい。とりあえず人間でないのであれば少しぐらいなら休ませてやらんこともない」
どうやら本当にこの場所にいる狸は偏屈者ばかりのようだ。いちいち言い方に腹が立つ。
「わかった。では休ませてもらう」
私はそう言うと近くの木にもたれかかって目を閉じた。
どれくらいたったのだろうか。突然大声で怒鳴られた。
「おいテメェ起きろ!どんだけ長居するつもりだこらぁー⁉︎」
私は起き上がるがあまり眠気は取れていない。上を見上げると太陽が真上に来ている。どうやら正午のようだ。
「ったく、ようやく起きたかよ。おら、とっとと出てけ」
口の悪い子供狸が目の前に立ってまくしたてる。
「わかった。出て行く。休ませてもらいありがとう。それでは」
私は立ち上がると、偏屈狸の横を通り出て行こうとした。
「おい待て。これ持ってけ」
狸はほら穴から何やら取り出し、私に投げた。
何なのだろうと、見てみると、なにかが笹の葉に包まれている。
「これは?」
「鮎の串焼きだ。いらねぇんならおいてけゴラァ!」
「そうか。ありがたくいただくよ」
「ふん。じゃあな。とっととどこえなりと消えちまいな!」
そう言うと偏屈子供狸はほら穴の中に入って行った。
元の道に戻る道中、笹の葉に包まれた鮎を頬張った。まだまだ暖かく、焼き加減もちょうどよかった。何だかんだと言って、客に対して親切な狸達だった。偏屈者共ではあるが。
鮎の串焼きを食べ終わり、前を見るの道の前にいた。腹が満たされたためか、歩く気力が湧いてきた。
「さて、行きますか」
私はまた浜栄町に向かう道を歩き始めた。
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