230 ウラルに手紙とクッキー

 アルはラセットを影転移でパラゴの街の物陰に送ってやり、自分はまだ少し残る。


「パーコ、聞いてただろ。コアたちで情報を共有しといて」


【分かりました。ですが、マスター、あの転生者を野放しにしておいてよろしいのですか?ああも軽はずみだとすぐ死にそうですが】


「それはあいつが選んだことだし、曲がりなりとも二十二歳まで生きてるんだから、何とかなるかもしれねぇだろ。パーコは心配?」


【マスターが心を痛める可能性があるのなら、心配です】


「ないない。ちょっと話しただけじゃねぇか。テレストみたいにおんぶに抱っこで世話焼いてやる方がすぐ死ぬ」


【それは同感です。あのSランク冒険者は甘やかし方を間違っていると思います。マスターが貴族の子弟を引率した時のようにパワーレベリングはありだと思いますが、マスターのように自分で戦えるよう育ててはいませんしね】


「アーコから大げさなこと聞いてねぇ?」


【いえ、そのままです。マスターのやり方が正しいからこそ、みるみる成長したのですから】


「才能と努力出来る性格もあるけどな。…あ、結局、ウラルたちに手紙を送ってねぇ。アリョーシャの街を出て一ヶ月半以上になるし、転送しとくか。使い魔に届けさせたとか適当なことを書いて」


 思い出したのでアルはエレナーダダンジョンに戻る前に、手紙を書くことにした。

 バイクを改良して更に速く移動出来るようになったこと。

 影転移のレベルが上って距離が伸びたこと。成り行きでかき氷の自動販売魔道具を開発し、時々『こおりやさん』の店長として活動していること。

 アリョーシャの街に戻るつもりだったのに、パラゴの街で足止めになり、これまた成り行きで王都エレナーダに行ったこと。

 …これぐらいか。


 封筒に宛名と名前を書いてから、手紙を封筒に入れるが、シンプル過ぎて味気ない。こおりやさんロゴのにゃーこスタンプを錬成して押してやった。スタンプインクの色は青で。

 転送しようとした所で、最初に見付けたのが使用人だとイタズラだと思って処分されそうだ。


「アーコ、アリョーシャの街のナバルフォール子爵家のウラル、覚えてるか?」


【もちろんです】


「じゃ、ウラル本人に手紙を渡しといて。そっちに転送するから」


【かしこまりました。速やかにお届けします】


「あ、ちょっと待った。アーコバタが持って行くんならお土産も一緒に届けて。…クッキーでいっか。瓶に入れて」


 このクッキーはダンジョンでゲットした食材がたっぷり使われているので、お土産でいいだろう。

 リボンをかけてカードも付けた。【ドライ】を付与してある瓶なので中の物が湿気ることはないし、再利用も可能な旨も書いておく。ドライフラワーも干しキノコもドライフルーツも普通に干すよりは早く作れる。そう強力なものではない。


 アーコに手紙とクッキーの入った瓶を一緒に転送した後、アルはトリノの差し入れを作った。

 おやつ時間にはまだ早いが、適当な時間に食べるだろう、とローストワイバーンのサンドイッチ。

 市場では結構なお値段が付いてるので、中々食べる機会はあるまい。


 ******


 アルは再び隠蔽をかけてパラゴの商業ギルドに影転移し、トリノに「さっきの奴謝ってたぞ」と念話で伝えてこっそり差し入れを渡してから、普通に転移してエレナーダダンジョン31階に戻った。

 セーフティルームには出ず、適当な場所で隠蔽を解き、ダンジョン探索再開だ。


 ゴーレム・人形系ばかりだからか、半分まで来た所でもまだかなり難易度が低い。パーティを組んでいれば、Dランクでも問題なさそうなぐらいだ。

 相変わらず、どこを斬ってもドロップになるので、物足りなさ過ぎのアルは、更に移動を優先し、影転移も使って魔物をよけて行くことにした。

 細かいドロップが多くてもどうせ処分に困るだけ、というのもある。強さレベルが分からなくなるので一フロア十体は倒すようにして。


 そして、全然苦労することなく、40階のフロアボスもまた討伐中だったので通り過ぎ、短時間で51階まで到達した。


 51階は草原フロアである。

 ようやく、ゴーレム・人形系以外の魔物も出て来る。

 草原定番、フォレストウルフ、ホーンラビットから、奥へ進む程、上位種が出て来る。アルの大好きなスパイダーシルクはいたものの、ドロップが糸じゃなく宝石なのはかなりガッカリ。通常種でも利用価値はかなり高いのに。

 いくら、鉱物ダンジョンでも定番ドロップは出せ、とコアに怒鳴り込みたい所だ。食材はさすがに期待してないにしても。


 51・52階草原、53・54階森林、55・56階渓谷、57・58階荒野と、全然手強い魔物はおらず、隠し部屋にも遭遇せず、一フロアも広過ぎるということなく、寒暖もなかった。

 ここまではCランクパーティなら余裕で踏破出来るだろうし、現に何十組か踏破していると噂で聞いている。ドロップがインゴットばかりなのが難点と言えば、難点か。マジックバッグとて容量がある。


 59・60階の砂漠でようやく、灼熱地獄になるワケだが、しっかり装備を揃えているアルには遊び場に過ぎなかった。

 アル用砂漠装備とサンドスキーで暑さも移動も全然問題にならなかった。

 暑い所でも問題なく活動出来るマジックアイテム【へいきにゃーん(暑)】を使わなくてもよかった。クラヴィスダンジョンの砂漠よりはもう少し温度が低い。

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