034 もっとスゲェ強い人がどこかにいるハズ

 バカが連れられて行くと、アルは目的だった買取カウンターへ向かった。


「またお前か!倉庫に来い!」


 買取カウンター担当のおじさん、ヤンにまた怒られた。まだ出してないのに。


「はいはい」


 まぁ、またドロップ品が多いのは当たってるので、アルは素直について行った。

 ダンジョンツアー後の練習をしよう、と今日はニューマジックバッグにちゃんと入れて来た。

 何が入っているか、ちゃんとメモしてあるので、買い取りしてもらう物を選ぶのもスムーズだった。


 買取りしてもらうドロップ品は、やはり、毛皮や爪や牙が多い。確率が高いのか多過ぎるのだ。いくら、毛並みのいい上位種だとしても。爪や牙も錬金術で使える素材ではあるが、やはり、多過ぎる。


「…ホントーに大容量のマジックバッグだな。家宝か何かか?」


「ダンジョン産。運がよかったんだよ。内緒にしといてな」


「もちろんだ。欲しがる人間はいくらでもいる。しっかし、お前、ソロでよくここまで倒せるな。広範囲の魔法も得意なのか?」

「いや、ほとんどは物理攻撃で倒してるぞ。広範囲の魔法だと威力の制御がちょっと難しくて」


 思わぬ所に飛び火して、森を燃やしかけて慌てて水魔法で消したり。

 じゃあ、水魔法なら、と森林破壊並みになぎ倒してしまったり。

 ダンジョンの修復機能がなければ、問題になっていたことだろう。

 魔法に慣れて来たことで自前魔力の消費も抑えられたが、浮遊魔力も容易に集まるようになっているらしく、慎重な制御を求められているのだ。魔力操作スキルが早く生えないものかと祈っている。


「……お前、Cに昇格とか言ってないでSランクでいいんじゃねぇのか」


「え、Sランクって意外とハードルが低いワケ?」


「お前が強過ぎなんだよっ!」


「中級が多いこの辺りでは強い方かなって程度じゃねぇの?」


 『井の中のかわず』状態のような気がするアルである。


「20階のワイバーン、倒すのにどのぐらいかかった?」


「十秒ぐらい?」


 天井の高い結構広いボス部屋で、飛んでるワイバーンを重力魔法で叩き落とし、長剣で首をねた、おしまい、である。


「飛んでるAランク魔物を十秒とか言ってる時点でおかしいって気付け!」


「もっと強い人なら瞬殺じゃねぇの?」


 アルも風竜刀の飛斬ならやれる。


「どこ基準だよ、それ…」


 魔法のある世界なのだから、超越者級のスゲェ強い人がどこかにいると思う。勇者とか剣聖とか。

 肉出せ、肉、と要求されても出さず、いつも通りに買取金額書類をもらい、受付の列に並んだ。


 すると、ギルドカードをもらったばかりの子爵家子弟たちが寄って来て、


「明日からよろしくお願いします」


と揃って挨拶して来た。


「こちらこそ。後、もう一人侍女が付くって聞いたけど、狩りには加わらねぇの?」


「あ、はい。食事や野営のサポートをするだけってことで。…邪魔でしょうか?」


 年長者のジョルジュが不安そうに訊く。アルは少々ビビられてるのかもしれない。


「狩りに参加しねぇのなら邪魔じゃねぇ所にいて欲しいけど、そういったことはすぐには分からねぇだろうし、こっちで適当にどかす、或いは結界内にいてもらうことになる。…ああ、ちゃんとくつろげる程のスペースがある結界だから」


 顔色が悪くなったツアーメンバーに、アルは補足した。


「アルさんが強力な結界を張れるのは聞いてますが、数が多くても広くても大丈夫なんですか?」


 今度はラズが質問する。


「まったく問題なし。ただし、動いてる人に結界を張るのはずーっと魔力を注がねぇとならねぇんで、自分の身体は自分で守るように」


 などと言いつつ、魔力が多い魔力回復も速いアルにとっては何程でもないし、バラけてしまう場合は万が一がないように個々に結界を張るつもりだ。ちゃんと危機感を持ってもらおう。


「頑張ります」


「あのーアルさん。持って来た方がいい荷物って何があるの?」


「こら、カーラ、丁寧に話せ。色々と教えてもらう先輩冒険者に失礼だろ」


 ジョルジュがたしなめるが……。


「いや、好きに話していいって。上下関係にこだわる奴もいるけど、おれは気にしねぇし、ギルマスにだってタメ口だっただろ。冒険者の大半は誰にだってタメ口。それはともかく、荷物は自分がいると思った物だけでいい。必要な物はこっちで全部揃えてあるから」


「寝袋も?」


「ない」


「やっぱり、毛布だけで寝るんですか?」


「まさか。快適に安全にダンジョン探索を楽しませるって、ナインさんに聞いてねぇ?ベッドを用意してあるよ」


「…いくら、ぼくたちが初心者だからってからかわないで下さい」


「事実だって」


「そんな大きい物が入るマジックバッグなんてあるんですか?」


「嘘か本当か明日になれば分かる。動き易い服装で履き慣れた靴にするように」


 TPOに合わない靴だったとしても、靴ずれを起こしてしまうよりマシだし、不具合があれば錬金術で作れる。

 思ったより涼しい格好だったとしても、同じくだ。しみじみと反則な程便利なスキルだ。


「了解しました」


 では、とツアーメンバーたちはギルドから出て行った。

 今度は護衛が側にいる。


 すぐに受付の順番が来たので、アルはいつものように買取金額書類を渡して現金でもらった。上位種の毛皮が多かったので金貨33枚。いい稼ぎだ。

 上機嫌でギルドを出ようとすると、ササッと道が開いた。

 んん?と見渡すと揃いも揃って目をそらす。

 チキンめ!

 どうせなら、ランニングチキンに生まれ変わって来い!

 虐殺してやるから!

 ダウンコートにして流行らせてやるから!

 羽布団も流行らせてやるから!

 やはり、こういったチキンたちと比べてるからこそ、アルが強く思えるだけだと改めて思った。

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