忘れ方の学び方

安心院 才花

第1話 よそおわれた無知

路傍の石に躓いた。恥ずかしいからそう言ってみたかったけど私には無理だった。

左手首の捻挫に右足首の骨折、路傍の石とは何たる脅威か。酒に溺れ三日前の雨の水たまりに足を掬われ歩道橋の階段を踏み外した、恥ずかしげもなく医者にそう伝えた私は強い。いやきっと馬鹿だ。

私の気も知らず医者は大変でしたね、そう言って笑った。飲めずにいたら冷めてしまったコーヒーを一瞥する時とおんなじ気持ちになった。

総合病院に隣接するコンビニエンスストアでハイボールとチューハイを買い帰路に就く。酒に酔い怪我をしたのだ、流石にロング缶は買えなかった。


―なぜ頭を打たなかったのだろうか―


カシャッ

小気味よい音は私を幸せへと連れていく汽車の汽笛もさながら。


―なぜ死ねなかったのだろうか―


一口飲めば今すぐに吐き出したかった悪いものもキレイサッパリさようなら。

喉を通り全身に駆け巡るは快感。しあわせのおとどけでーす!そう誰かが言った気がした。




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