Battlefield Final Bullet

カイイロ

軍事学校入学編

第一章一節 入学

プロローグ。彼の日記

「これが彼の日記です」

 目の前の青年から一冊の本を手渡される。

 辞書ほどにもなる厚く古い本。ページ一枚一枚は黄ばんでいたが、どこも破けてはいなかったので『アイツ』の綺麗な文字をスラスラと読むことが出来た。

 懐かしい。この本を読むとあの頃を思い出す。最高のライバルであった奴と刃を交えたあの瞬間が頭の中を駆け抜ける。その記憶に引っ張られたかのように、人生の中で最も楽しかったと断言出来るあの頃の思い出が鮮明に頭に浮かび、涙が溢れてくる。

「ありがとう。この本を継いでいてくれて」

 何年も前に別れたライバルの子孫。俺の一生で出会うとは思っていなかったので、少し動揺を隠しきれないが、それ以上にアイツの血が続いているという嬉しさが勝つ。

 後でゆっくりと見るのでペラペラとページを飛ばしながら見ていると、一枚の紙が日記の間からこぼれ落ちてきた。

「……これは」

 床に落ちた紙を拾い上げて広げていく。

 その紙には日記と同じ人が書いたであろう綺麗な字でメッセージが書いてあった。

 何か残していたのか。きっと自分の子達へ武勇伝か自慢話を語りたかったのだろう、と推測しながらその手紙の一番上の行を見る。するとそこには宛名が書いてあって、そこに書いてある名前を見ると、先程ので十分出し切ったと思っていた涙がまた溢れ出してしまった。


『──へ』


◇◇◇

 真夜中。数人の男達が資料を持って走り、コンピュータをせわしなく操作していた。

「先輩、これどっちですか?」

「ああ、それはこっちだ」

 男はパソコンと睨み合いながら資料の山を指差す。仕事が追いつかず目を離す暇が無い。

「え?ここでいいんですか?」

「何言ってんだお前。早く動けよ」

 指示をされた新人であろう男は、困惑しながら手に抱える大量の資料を指示された通りに資料の山の上に重ねた。

 これだから新人は使えない。もっと早く行動できないものなのか、と心の中で愚痴を吐きながらパソコンのキーボードを叩く。

 若い男は合っているのか不安になるが、これ以上何かを言うと上司であろう人にまた言われてしまうと考え、すぐ次の作業へ移る。


◇◇◇

「……ようやくひと段落か」

 時計の短針が二周程度した後、その上司であろう人は軽く伸びをした。ふと周りを見渡すと、従業員は既に居ない。薄暗いオフィスには彼一人だけが取り残されていた。

「……おい嘘だろ」

 瞬間、視界の端に映った光景に言葉を零す。

そこには、先程新人が置いた山がエアコンの風に仰がれ今にも倒れそうになっていた。

 子供が見ても倒れてしまうと分かる程高く積み上げられた書類の山。上司は新人の思考を疑ったが、多忙を極めた職場に放り込まれた新人だ。まともな判断が出来るわけが無いのだ。

「あの野郎ふざけんなよ!!」

 上司はすぐに席を立ち、その山へ向かって手を伸ばす。……がしかし、その思い届かず書類の雪が上司と周囲を包み込む。

 あの状態から二時間程経過し、ギリギリのところで耐えていた山だったが、耐えきれなかったらしい。下敷きにされた書類の山を巻き込んで派手に床へ飛び込んだのだ。

 虚空を掴んだ手を引っ込めることもせず、行き場を失ったまま怒りによって力が入り拳を固く握りしめた。

 今倒れたこの山は大切な書類だ。そして目の前ではふたつの種類の書類がごちゃ混ぜになっている。しかもこれの原因である新人は既に帰ってしまった。

「めんどくせえ、俺はいつ帰れるんだよ」

 上司はぼやきながらも少しずつ書類を分けていく。しかし数百枚の書類を一人で、しかも夜、照明が付いているとはいえ暗く見えづらい視界の中で完璧に分けることなど不可能だ。

 だから上司は二枚の紙が本来の居場所とは別の場所にいることに気がつかなかった……


「よし、終わったぞ。ようやく帰れる……」

 一時間ほど経過すると、崩れた山があったところには綺麗に二つの山が立っていた。

 残業の先のトラブルが終わり、遂に仕事から解放される上司は照明を消しその場を去るのだった………


◇◇◇

 今、日本はとある国と戦争をしている。

といっても大々的なものではなく、裏で密かに行われている。

一応日本は平和主義というものを掲げているため、そういうことは言えないのだ。

 戦争を繰り広げている相手はエネミリア。世界を脅かす武装国家だ。

 密かに行われているとはいえ、かれこれ十年ほど戦争は続いており被害は甚大で、人手も武装も何もかも足りていないのが日本の現状だ。

 そこで、日本は軍人の育成を始めた。

それが軍事学校。現在日本には東、西、北、南、中央に5つの軍事学校がある。

 この軍事学校は国民には一般的な普通科の高校と知られているが、ホームページどころか入学する方法すらわからない。

 入学の方法はただひとつ。国からの招待だ。軍人の家の子供、または国が直接選んだ有望な子供を軍事学校へ招待して入学させた。


 この物語は一切の招待を受けず軍事高校に招かれることのなかった少年。霊継風斗と、天才的な技術を持ち将来有望ながら一般の高校へ行ってしまった不運な少女。水凪弥生の二人が繰り広げる怒りと悲しみ、そして喜び渦巻く血戦の話だ。


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