被害者たち

 その後俺たちは他の事件現場を続けて見て回ったが、成果はほとんど得られなかった。


 第一の事件――第六街区・センターステーション――成人女性型ヒューマノイド――勤務先の炭素資源管理センターから帰宅途中、駅に入ってきた電車に身投げし大破――復元されたログに暴走直前の思考回路への高負荷以外は特段の異常なし。


 第二の事件――第三工区・ハイドロジン峡谷道キャニオンウェイ――成人男性型ヒューマノイド―希ガス搬送車両を運転中に突如危険運転を始め、車両ごと谷底に転落し大破――復元されたログに暴走直前の思考回路への高負荷以外は特段の異常なし。


 第四の事件――第一工区・ヒュージプリンタ3D プリント工場の付帯設備――成人男性型ヒューマノイド――アルミニウム精錬炉の定期点検中に突如暴れ出し、炉内に侵入・溶解――ログ回収不能。ただし、監視カメラ及び同僚のアイボール記録から判断するに、やはり暴走直前の思考回路への高負荷以外は特段の異常なしと考えられる。


 この辺りまで来ると俺もさすがに退屈な気分になってくる。特に、第四の事件の現場で、ヒューマノイドが溶鉱炉に沈んでいく映像はあくびをかみ殺した時に出る涙無しには見られなかった。


「次で最後ですが、どうされますか?」


 俺の集中力が落ちているのを検知してか、シモンがそんなことを尋ねてきた。


「もちろん行くとも。ここで引き返したら何もしていないのと一緒だ」


 そう応じてから、ひときわ大きなあくびをする。俺自身、事件解決に繋がる有力な手がかりが見つかることはほとんど期待していないが、万が一ということもある。それに、今は退屈にしか思えなくても、後に天啓を得るためのきっかけになることだってあるのだ。地固めの調査を疎かにするわけにはいかなかった。


「カメラの映像を確認するだけなら環境適応センターでもできます。体力を使って出歩かなくとも良いのでは?」


「まぁ、お前ならそうなんだろうけどな」


 生憎と人間は、無駄に思えるような遠回りをしないことには目的地にはたどり着けないように出来ている。


 第五の事件――第八街区・ハイウェイ――成人女性型ヒューマノイド――勤務先の量子コンピュータ生産プラントに出勤中、突如高架道路上にオートモービルを止め

て、道路下に転落し大破――復元されたログに暴走直前の思考回路への高負荷以外には特段の異常なし。


 結局俺たちは、最後まで発見らしい発見もできないまま帰途についたのだった。

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