くちびるを奪って
折野花威(俺のハニー)
第1話 はじめてのチュウ(前編)
今日から梅雨入りだそうだ。
予報通り、教室の外はしとしとと雨が降っている。
高校二年の
長いストレートヘアを明るい茶髪に染めており、身長は170cm。まるでモデルのような美少女である。が、やや不良っぽい雰囲気が、主にその髪型から感じられる。
そんな紺屋は、清水を見るなり眉を
授業の時間になり、先生が教室に入ってきた。いつもの先生ではない。
「物理の
清水たちは教室の一番端、ドアに一番近い前から一列目と二列目の座席なので、教卓に立つ先生を見るときは自然と斜めを見る形になり、清水には紺屋の横顔が見えた。
紺屋は手で口を覆い、考え事をするように出欠を確認する臨時の先生を見つめていた。
*
清水たちが通う県立宮森高校は、県内屈指の進学実績を誇り、文武両道を謳う名門校である。
よって自習時間は、たとえ受験期で無かろうと、とても静まりかえっている。
しかし、日々の部活に予備校にと、慌ただしい毎日を送っている生徒たちの中には、その生活に疲れ果てて居眠りをする者も少なくない。
だが清水は、雨が好きだった。よって、朝から雨が降っている今日、誰よりも機嫌のいい彼はウキウキと参考書を開いた。
すると、前の席の紺屋から、半分に折り畳まれたメモ用紙が送られてきた。
______今、彼女いる?_______
えっと清水は声に出して聞き返す。
「お前、俺のこと好きなん?」
静まり返った教室に、清水の声は響き渡る。周りの席の生徒たちがチラッとこちらを見る。
紺屋は恥ずかしさと怒りで顔を真っ赤にさせて立ち上がり、ハア?!と口を動かすと、
「なわけないやろ!後で話あるから来い!一人で!」
と叫んだ。
普通に授業をしているであろう他のクラスの声も一瞬止む。
今度はクラスメイト全員が紺屋の方を見た。
紺屋が照れ隠しで怒っただけで、本当はこの後清水に告白するのではないかと思った者は、いったいどれだけいただろうか。
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