第11話 騒がしい日常と急なお誘い

 昨日、ダンジョン庁の檀上だんじょうさんとの話がまとまり、俺はダンジョン配信者になることを決めた。


 けれど、普段は普通の高校生だ。

 今日もこうして、朝はいつも通り登校する。


 登校するのだけど……


「わーお」


 予想通り、学校前は大変なことになっていた。


「少し話を聞くだけでも!」

「ダンジョン仮面の学校での様子を聞かせてください!」

「ダンジョンかめーん!」

「どこなのー!」


 俺が正体バレした時よりもさらにすごい人混み。

 取材陣や違う制服を着た生徒さんなどだ。


 対して、


「困ります!」

「ここは学校ですので!」

「どうかお引き取りを!」


 先生たちがその対応に追われている。


 先生たちには申し訳ない事をしたかもなあ。

 後で何かダンジョン産のねぎらいの物でも贈ろう。


 そして、校長先生が何やら対抗策を講じていた。

 臨時休校をした昨日の一日で考えてきたのかもしれない。


「ここに侵入した者は、順に警察に突き出していきますので!」


 そう言いながら、校門からは長いレッドカーペットが敷かれていた。

 生徒が通れる道を作るためみたいだ。


 やるじゃん、校長。

 校長の機転が利いたのか利いていないのかよく分からないような対策だが、一応生徒は安全に登校できている。


 まあ中には、


「ふっ、俺も注目されるようになったか」

「これがスターの気分か」

「眩しいねえ。俺たちの方がな」


 映画祭に出演するスター気取りで登校している、見てて痛い奴もいるが。

 って俺の友達じゃねえかよ、うわ恥っず。


 なんてぼーっと校門の様子を眺めていると、取材陣がやってくる。


「すいませーん!」


「!」


 俺はしまった! と思わず身構えたが、


「ダンジョン仮面についてはどう思われますか?」


「へ? あ、あー……」


 どうやらバレていないらしい。


 そうだった。

 今日の俺は帽子を深く被り、特大マスクまでしてきたのだった。

 どうやら変装が功を奏したらしい。


「えっと、彼は良い奴ですよ」


 ここはテキトーに受け答えをしておこう。


「お! あなたはダンジョン仮面のお友達さんなのですか?」


「……まあ、みたいなものですね」


「本当ですか! ではでは! 学校での彼はどんな感じなのでしょう!?」


 その話を聞いて、なんだなんだと少しづつ取材陣が寄ってくる。

 ダンジョン仮面の“友達”の話ですら気になるようだ。


「あー、まあ、彼は友達思いですね」


「おーそれはそれは! って、あなたの声どこかで……」


「!」


 ぎくぅ!

 これはまずい、そう直感した俺は走り出す。


「で、では僕はこれで!」


「あ、ちょっと! って、あれ!? まさかダンジョン仮面!?」


 なんで分かるんだよー!

 心の中で叫びながら、俺はレッドカーペットに向かって走る。


「なんだと!?」

「あの子だ!」

「一言だけでも!」


「まずい! とうっ!」


 そして俺は、上級探索者ならでは跳躍力でそのまま校門を飛び越えた。


 この場は一旦しのげたが、後日この様子がネットに拡散されることになるのだった。

 人気者はつらいな、まったく。





 そして教室へ行っても、


「東条君だ!」

「ヒーローの登場だ!」

「コラボ配信見たよ!」


 やはり人に囲まれるのは変わらず。


 俺の周りには、わいわいと人だかりが出来る。

 教室に入って、席につくまで五分かかるという事態になっていた。


 そうして、


「ははっ! 人気者はすげえな」


「梅原……」


 隣の席の親友、梅原が声をかけてくる。

 本多さんにゾッコンなくせに、俺にコラボ配信を受けることをすすめた本当にできた奴だ。


 まりんさんの前にもこいつと話し、俺は背中を押してもらえたんだ。


「かっこよかったぜ。お前は俺の自慢の友達だ」


「……!」


「これからも期待してるぜ」


「おう」


 梅原とグータッチを交わした。

 友に恵まれたな、心の底からそう思えた。







 昼休み。


「なになに? 何の話?」


「ちょっと、相談があって」


 俺は話を聞こうと、本多さんを呼んでいた。

 彼女が配信の先輩だからだ。


「俺、配信を始めることにしたんだけど」


「え、本当!?」


「うん。──って、ちょ!?」


 本多さんは目をキラキラと輝かせながら、顔をぐっと近づけてきた。

 その瞬間、ドキーン! と胸が跳ね上がる。


 くっ、可愛いな……!


 無自覚でこれをやってるのだとしたら、本多さんはもっと自分の破壊力に気づいた方がいい。

 なんてアドバイスできるはずもなく、俺は視線をちょっとずらして話を進める。


「それで、色々と聞きたいと思ったんだけど──」


「もっちろん!」


 本多さんは、うん! と大げさに首を縦に振る。

 本題が分かった本多さんからは、次々と言葉が飛び出す。


「設定とかは分かる?」


「一応、勉強はしたよ」


「告知は? こまめにするのが大切だよ!」


「そっか。それは忘れてた」


 本当に配信が好きなんだなあ。

 本多さんと話していて、そんなことを感じる。


 そうしてしばらく、


「じゃあ機材とかは? 色々と準備しないといけないよねっ!」


「あ、そうだった」


 機材の話になって、そういえばと思い出す。


 檀上さんに機材を用意してもらう予定だけど、それ以外のプライベート配信用にも欲しいとは思っていたところだったのだ。


「今日どこか見に行こうかなって思ってて」


「そういうことなら!」


 本多さんは両手を合わせて、満面の笑みで言ってきた。

 

「放課後、一緒に見に行こうよ!」


「え?」


「私、良い店知ってるから!」


「えっと……」


 俺と本多さんが一緒に?

 それって色々と大丈夫なのか?


 最初に浮かんだのはそんな心配。

 だけど、彼女には関係なかったらしい。


「『善は急げ』だよっ! じゃあ決まりね!」


「あ、ちょっと!」


 俺が返事をする前に、本多さんはぴゅーっと行ってしまった。

 俺から呼び出したのに、彼女の方から去ってしまうなんて……自由な人だ。


「まあ」


 本多さんが良いと言うなら良っか!

 基本、能天気な俺はすぐに思考を切り替える。


 ここは素直に彼女の厚意に甘えるとしよう。


「……けど」


 彼女の顔がどこか赤かったような……。

 いや、気のせいか。


 こうして、急な展開で本多さんとの放課後デートが決まってしまった。

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