【完結】仮面を被った最強の探索者さん、超人気美少女配信者を助けて身バレしてしまう~正体を隠していたはずが、バズりにバズっていつの間にか日本の未来を託されてました~

むらくも航

プロローグ 謎の最強探索者『ダンジョン仮面』

 『ダンジョン仮面』。

 顔を覆う特徴的な黒い仮面を被っていることからそう呼ばれる、一人のダンジョン探索者のことだ。

 

 曰く、常にソロである。

 曰く、人が助けを求めた時に駆けつける(女の子の声であればより早い)。

 曰く、最強の探索者である。

 

 だがその名の通り、仮面をつけているため、正体などは一切不明。

 それでも駆けつけた時のかっこよさや強さが口伝くちづてに広まり、人気となっている謎のダンジョン探索者だ。


「……こんなところか」


 そんなダンジョン仮面は、自らの目的のため、今日も一人で高難易度のダンジョンに深層に潜る。


 彼の正体、彼の目的は、判明していない──。







<主人公視点>


 病室にて。


「伸びないなあ……」


「ふふっ、また動画のこと? お兄ちゃん」


 俺のつぶやきに可愛らしい笑いを浮かべて尋ねてくるのは、病室のベッドで体を起こす妹の“あやか”だ。

 本名は『東条とうじょうあやか』。


 彼女は、俺──『東条緋色ひいろ』の可愛い妹だ。

 

「そうなんだよ。ためになる事を書いていると思うんだけどなあ」


 動画投稿は本業ではないけど、伸びたらなあ、なんて思いながら投稿をしている。


 俺は自分のダンジョンについての解説動画を眺めながら、悪い所を考える。

 まあ、決定的に足りないものがあるのは分かっているんだけど。


「やっぱ実践動画じゃないと伸びないのかなあ」


 俺の動画は、魔物や便利グッズなどをただだた解説しただけの動画だ。

 スタジオっぽい所で武器を持ちながら解説はしているものの、実際にダンジョンに潜っているわけではない。


 『ダンジョン配信』と言って、実際にダンジョンに潜りながら配信をするのが流行っている今の世の中で、これは致命的だ。


 実際にダンジョンに潜っている動画や配信に比べると迫力もないし、イマイチ何をやっているか分からないので、伸びなくて当然なのかもしれない。


 それどころか、見に来てくれた人からは、“エアプ”(実際にはしていないのにそのことについて語る事)認定までされている。


 でもダンジョンに潜ろうとすると── 


「だからってお兄ちゃんにダンジョンは早いんだからね」


「ははっ、分かってるよ」


 こうやって妹が止めてくる。


 『ダンジョン』とは、現代に現れた異世界のような場所であり、未知の発掘物が数多く出てくるまさにファンタジーな世界だ。

 だが、その分危険も多く、『魔物』と呼ばれる本来の地球では考えられなかった凶悪な生物が跋扈ばっこしている。


 そんな危険な場所に身を投じるのが『探索者』であり、さらにはその様子を実況配信する『ダンジョン配信者』まで現れた。

 非現実的なダンジョンに、自身の危険を伴わず映像上で見ることができるダンジョン配信は、絶大な人気を誇る。


 ここ数年で新たに生まれた概念だが、今最も勢いがある娯楽には間違いなかった。


「あやかには心配させないよ」


「うん、よかった!」


 でも、あやかは俺がダンジョンに行くことを極端に嫌がる。

 それは、家族がもう俺しか残っていない・・・・・・・・・からだろう。


 俺たちの両親は数年前に他界。

 あやかは中学二年生で、高校二年生の俺とは三歳差。


 まだ大人にもなっていないのに、最後の家族である俺がわざわざ危険な場所に行くことを嫌がる気持ちはよく分かる。


「東条くーん? そろそろ良いかな?」


「分かりました」


 病室の外から聞こえて来たこの病院の院長さんの声に従って、俺は立ち上がる。


「じゃあほら、しっかり寝てろよ? あやか」


「えーもう行っちゃうの? またしばらく会えないのに?」


「仕方ないだろ、時間なんだから。それに俺もそろそろバイトの時間だ」


「むー、分かった。あんまり無理はしないでね」


「おう」


 そうして俺は病室から出て行く。


「ではこちらへ」


「はい」


 病室から出た俺は院長さんに連れられ、院長室へと向かう。





 院長室。


「それでどうでしょうか、妹の容態は」


「これといった異変はありません。ですが“コールドスリープ”は今後も続けないといけませんね」


「そうですか……」


 俺は拳をぐっとこらえながら話を聞く。


 病室のベッドに横たわっていたあやかは、重い病気なのだ。

 ダンジョンが発生したことが原因と言われている未知の難病で、治療法は見つかっていない。

 だから『コールドスリープ』といって、体を凍らせて冷凍保存することでなんとか生き長らえている。


 今日あやかと話せていたのは、二週間に一度・・・・・・の検診日だからであり、そのわずかな時間だけが俺たちに許された会話の機会だ。


「その、東条くん……大丈夫?」


「はい。妹の命には替えられません」


 この「大丈夫」というのは、俺たちへの心配もあるだろうけど、入院費の事も含んでいるだろう。


 コールドスリープが出来るこの病院は国最高峰の設備で、入院するのにも莫大な金がかかる。

 病院側は俺たちの家族事情を知ってくれている為、とてもよくしてくれるが、かかるものは仕方がない。


 だけど病気の事も、入院費の事も、あやかには伝えていない・・・・・・


 理由は一つ。

 あやかの悲しむ顔が見たくないからだ。


 もし俺が病気の事や入院費の事を話せば、色々と俺に問い詰めてくるだろう。

 「私の体は大丈夫なのか」、「入院費はどうしているのか」など。


 俺はあやかには、ただただ笑っていてほしい。

 だからこうして病気の事は隠している。

 

「あの事はどうか内密に」


「……東条くんもどうか無理をなさらず」


「ありがとうございました」


 俺は院長先生の定期報告を終えて、院長室を出た。




 

 病院の帰り。


「行くか」


 俺はある場所の入口を前にして立っている。

 先程、あやかにはバイトに行くと言ったけど、あれは嘘だ。


「悪いな、あやか」


 莫大な入院費を払うため、あやかの笑顔を守るため、俺は今日も“ダンジョン”へと向かう。

 本当の俺はダンジョン探索者で、危険な深層に潜って報酬を得ることで生活をしているからだ。


 あやかの保護者が実質俺だけのようなこの状況で、俺があの病院で入院させるにはダンジョンしかなかった。

 未知の発掘物が手に入り、大金を稼ぐことが出来るこのダンジョンしか。

 

 でもあやかは、俺が危険に身を投じるようなことは嫌がる。

 特に世の中をあまり知らないあやかは、数年前唐突に世界に現れたダンジョンをより恐れている。


「よし」

 

 だから俺は被るのだ。

 この、正体がバレることを防ぐ仮面を。

 黒い仮面に黒いマント、正体を隠して下層に潜るための仮面を。


「今日もがっぽり稼ぐぞ」


 気合いを入れ直して、俺はダンジョンに足を踏み入れた。

 

 『ダンジョン仮面』。

 その正体は普通の高校生の俺、東条緋色だ。




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