第17話 破滅する家族

「陽一郎さんは、まじで昔ヤバかったっすよねー」

 地元の人間と飲みに行くと大概終盤にはこの手の話になる、若い頃に行った悪事を自慢しては後輩達にマウントを取っていた。

「いやいや、そんな事ねえよ」

 自分では語らない、後輩に喋らせてこそ真実味が出るものだ、静かに先を促す。

 間違いなく自分は今幸せだ、伊東はそう考えていたが昔のような刺激がないのも確かだった。良い女がいれば車で攫って犯す。あの頃、抱いたレベルの女を正攻法で落とすのは不可能だろう。

 雅美は家事に育児に頑張ってくれる良い妻だがはっきり言ってブスだ、近頃色っぽくなったと思い、こちらから誘ったらなんと断られた。その理由がこの間わかった、常連のエロDVD店でいつもの様にレイプ物を吟味していると初めて見る店員から声を掛けられた。

 

「伊東様、いつもありがとうございます、こちらの秘密のDVDですが良かったら今サービスなのでどうぞ」

 背の高い若い店員がそう言って透明のプラスチックケースを差し出してきた、レンタル料が浮いて得をしたと礼を言って店を後にした。

 妻と娘が風呂に入っている間が伊東のオナニータイムだ、時間は二十分程しかないので急がなければならない、若い店員に貰ったDVDの映像ではその店員と雅美が我が家のリビングでセックスをしていた。

 始めは驚き、妻の浮気に怒りを覚えたが下半身が熱くなっている事に気がついてオナニーを再開した、自分の妻が他の男に抱かれているというのは思った以上に興奮してその映像だけで三回もしてしまった。

 

「いや、まじで普通に女を拉致してレイプとかしてましたよね」

 後輩の一人が酔っ払いながら臭い息を吐きかけてくる。

「十代の頃な」

「良く警察に捕まりませんでしたね?」

 後輩が連れてきたヤンチャそうな坊主の男はまだ十八歳だと言うが、風貌からはとてもそう見えない。

「覚醒剤打ってヤッてる所を撮影するんだよ、警察に言ったらこの映像をネットで全世界にばら撒くってな」 

「鬼畜っすね」

 坊主が感心したように手を叩いている。

「そうかぁ、女だって気持ち良くして貰ったんだからお礼言って欲しいくらいだよ」 

 伊東が立ち上がって腰を振る動作をするとその場にいる全員が笑う、他の客は馬鹿騒ぎしているこのテーブルに冷ややかな視線を送っているが文句を言ってくる人間はいなかった。

「いや、陽一郎さんを少しでも見習いたいっす」

 後輩たちに言われると伊東が普段溜まっている仕事のストレスが少しは解消した。

「やるなら十代の内にしとけよ、捕まっても大した罪にならねえからな、便利な法律だよ全く」 

 

「今まで刺されなかったのが奇跡ですね」

「ばか、自分も気持ちよくなっちゃったから何も言えねえんだよ」

 世の中ヤリマンだらけだな、と付け加えると再び笑いがおきた、すると坊主の男がお願いがありますと手を合わせてくる。

「その昔の動画ってまだ保存してあるんすか」

 坊主の意図はすぐにわかった。

「ああ、もちろんコレクションにしてるよ」

 エロDVDも良いがやはり昔のリアルな動画の方が盛り上がる。

「自分にも少し分けて貰えませんかね、今後の参考にしたいんで」

「まったく、仕方ねえなあ」   

 そう言うとスマートフォンを操作して動画フォルダを開く、二十件以上のレイプ動画があるがその中でも極上に可愛かった女子高生の映像を再生すると坊主頭に手渡した。

「うわ、やば、めちゃくちゃ可愛い女子校生じゃないっすか」 

 動画を食い入るように見ていると他の後輩も群がる。

「うわ、かわいー」

「陽一郎さん、すげー腰つきっすね」 

 胸騒ぎの腰つきだよ、と言ったが誰も理解していないようだ、ジェネレーションギャップは否めない。

「しかも処女だぜ」

 伊東が付け加えると全員からこの日一番の歓声が上がった。

「お客様、少し声のボリュームを下げて頂いても……」   

 店長らしき男が申し訳無さそうに話しかけてきた。

「なんだテメーは!」

 坊主の男が立ち上がると店長らしき男の胸ぐらを掴む。  

「今盛り上がってる所だろーが! 空気よめカス!」

「やめとけ」

 伊東が言うと坊主はすぐに手を離す。

「悪いね、少し控えるから」

 そう言うと店長らしき男はほっとしたように何度も頭を下げて奥に引っ込んでいった。

「陽一郎さん、この動画が欲しいっす、女子高生の」

「ああ、後でラインで送ってやるから」

 あざーす、と言って頭を下げる坊主の声が店中に響き渡った。 


『ガシャーン!』


 グラスが派手に割れた音がしたので後ろに目をやると、中年の男が一人カウンターで飲んでいた、どうやらビールグラスを床に落としたようだ。

「おら、おっさん、酒かかったじゃねーかよ」 

 すぐに坊主が絡む、男がカウンターの椅子から立ち上がると意外に身長があり一瞬怯んだ。

「申し訳ない」

 そう言うと男は財布の中から一万円札を十枚以上取り出して伊東に手渡す。

「盛り上がってる所に水を差して申し訳ない、今日はそれでゆっくり飲んでください」

 一ヶ月の小遣いが三万円の伊東には眩しい厚みの一万円札だった、これだけあればしばらく贅沢が出来る。

「おっさんわかってるじゃねーか、まあ一杯付き合えよ」

 坊主頭は馴れ馴れしく男と肩を組むと自席に座らせて空のグラスにビールを注いだ。

「では、折角なんで一杯だけ頂きますね」

 頂くのかよ、思ったよりも根性が座った男のようだ、しかし伊東の頭の中ではこの金を後輩たちと分けるか独り占めするかで悩んでいた。

  

「随分と楽しそうでしたが、今幸せですか?」

 突然話しかけられて現実に戻された、男は真っ直ぐ伊東の目を見ている。 

「今が最高に幸せですよ」


 まっすぐ目を逸らさずに言った。

「そうですか」

 男はにっこり笑うと会釈して、右足を引きずりながら店を出て行った。




「ただいま、帰ったぞー」

 狭い玄関の三和土に靴を脱ぎ捨てると雅美が出迎えに出てきた。

「おかえりなさい、早かったね」

 結局金は全て頂くことにしたが後輩達から不満の声が上がることは無かった、ただそのまま二軒目、三軒目と飲みに行くと折角の臨時収入が無くなってしまうので早々に解散してきた。

「春華は寝たのか?」

 時計に目をやるとすでに二十二時を回っている。

「うん、とっくに夢の中よ」

 伊東は雅美が言い終わる前に抱き寄せて強引にキスをした。

「ん――――――」  

 雅美は抵抗するが強引に舌を入れて胸を揉んだ。

「ちょっ、やめ」

 スカートに手を突っ込みパンツの中に手を入れたがまったく濡れていなかった。

「あの男じゃないと濡れないのか?」

 伊東が言うと雅美は目をカッと見開いてコチラを見た、その視線を無視してズボンを下ろすと強引に雅美の中に侵入する。

「痛っ、陽ちゃん痛いよ」

 意に介さずに後ろから突き続けると三分もしないで果てた。


「馬鹿が、若い男に騙されやがって、いったい幾ら使ったんだ?」

 雅美は親の仇でも睨むかのようにコチラに視線を向けている。

「おいおい、立場が逆だろう? 不倫したのはお前だろ」 

「聖斗くんとはそんな関係じゃない」

 伊東は彼女が何を言っているのか分からなかった、肉体関係じゃないという意味だろうか、証拠を突きつけてやろうと立ち上がると雅美が呟く。

「お互いに愛し合ってるのよ」

 真剣な眼差しで訴える雅美をみて伊東はため息をついた、少ない伊東家の貯金はすでに巻き上げられているかも知れない。

「いくらその男に貢いだ?」

 冷静に話し合おうと極めて落ち着いた口調で問いただす。

「ふっ、哀れな人ね」

「ゴッ!」 

 無意識に顔面を思い切り殴りつけた、ソファから転げ落ちた雅美の鼻からは大量の鼻血が出ているが一向に怯んだ様子はない。

「好きなだけ殴りなさいよ、私は聖斗くんと一緒になるんだから」  

 今度は平手で引っ叩くと服を引き千切る様に脱がせた、強引に挿入しようとしたが凄い勢いで抵抗するので上手く入らない。

「止めてよ気持ち悪い! 触らないで」

「お前みたいなブスをあんな若い男が相手にするはずないだろうが!」 

 馬乗りになり何度も平手打ちしたが雅美の抵抗は続いた。


「パパやめて! ママをイジメないで」 

 いつの間にか起きて寝室から出てきた春華にまったく気が付かなかった、春華は目に涙をためて必死に雅美を守ろうとしている。


「ハルカちがうんだよ、ママをイジメていた訳じゃないんだ」

 雅美から離れて両手を上げると春華に必死に弁解した、何があっても娘に嫌われるのだけは嫌だった。

「ハルカごめんね、ママだいじょうぶだよ」

 雅美は春華を抱きしめると頭をポンポンと撫でた。

「もう寝ようね」 

 春華を抱っこすると寝室に入っていく、程なくして戻ってくると雅美はひどい顔をしていた。

「すまない……」

 何も答えない雅美にもう一度詫びを入れるとダイニングの椅子に座らせた。 

「春華はどうするんだ?」

 寝室に声が届かないように極力小さな声で話しかけたが雅美は微動だにせずに一点を見つめている。

「俺は良いとしても、その男と一緒になって春華をどうするつもりなんだ?」

「あなたに任せる」

 それだけ言うと立ち上がり足早に風呂場に去っていった。

「バカオンナが!」

 伊東は近くの椅子を蹴っ飛ばすとキッチンの棚から一番強いウイスキーを取り出してストレートで一気に煽った。

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