ボブの方が先に好きだったのに(BSS)
闇谷 紅
知らねぇよ
「おう、今日もいい天気だ」
交易都市ポロポレンツィアの昼下がり、雲一つない青空の下を俺は市場に向けて歩いていた。
「今日は仕事もないしな」
何でも屋よろしくギルドに斡旋された仕事なら魔物退治に物運び、護衛そして雑用と色々やる冒険者家業の俺にとって休みなんてモノは不定期で、今日は懐もそこそこあたたかい。
「たまには市場で買い食いすっか」
そんな気分になっても仕方ないことだろう。何せここは交易都市。各地から珍しいモノが入ってくるためにこの国じゃ普段お目にかかれないような珍しい食い物が食べられることもあるのだ。まぁ、当たり外れのさも大きいのが玉に瑕だが。
「この間の南国の果物は美味かったもんな。もう来年にならないと食えないのは残念だけどよ」
一度覚えた美味いもんは忘れない。売主へ絶賛したところ来年も仕入れると請け負ってくれて、そういうやり取りが重なったものだからこの都市からなかなか離れられなくなったものの後悔はない。
「強いて問題があるとしたなら――」
「ボブの方が先に好きになったのに」
後方をブツブツ呟きつつついてくる人物くらいか。名は、ボブ。当人が口にしている通り、ボブだ。ブツブツ恨み言を言いながらついてくるものだから、死霊というか怨念を抱く幽霊の類かなとも思わないでもない。
「というか……何なんだよ、お前は」
足を止めてくるり振り返り半眼で見ると、ボブは俺から目を逸らす。
「あの果物か? 確かに美味かったし、先に目をつけたってんならその目の付け所は称賛に値するけどな? だからって――」
売主へラブコールしたことを妬まれる筋合いはないと思うのだが。
「知らねぇよ」
まさにこれに尽きる。
「はぁ」
以前、鬱陶しくなって走って撒こうかと試したこともあったのだが、引き離せたのはほんのわずかな間。気が付けば近くの物陰からこっちを見ていて、思わず叫びそうになったのも記憶に新しい。
「このよくわからん恨み言とストーキングさえなければ引く手あまただろうにな」
何故ボブというこのあたりでも男性につけられる名前なのかは知らない。女性らしい丸みを帯びた豊満なスタイルの美女は時々こうして俺の後をついてきて、市場で俺が買い食いしたモノと同じモノを注文して食べていることは知っている。
「いや、知ってるというかすぐ後の客として購入してるとこは見てるしな」
ボブもそれを隠そうとはしない。だからこそあの恨み言何だろうが。
「結局何なんだよ……」
アイツの方が何を最初に好きになったのか、それがいまだに俺にはわからなかった。
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最近BSSなるジャンルがあると聞いてふいに思いついた内容をそのままお話にしてみたのが本作です。
果たしてボブの方が先に好きだったモノとは?
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最後まで読んでいただきありがとうございました。
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