第34話:覇王仮面

ロマンシア王国暦215年6月20日:廃城  


 騎士団の厳しい尋問と、何としても処刑されたくない傭兵団の思惑が重なり、マルティクスと邪法集団が行った詳細は直ぐに分かった。


 彼らは邪法でマルティクスを強くしようとしたのだ。

 邪法によって召喚した悪魔をマルティクスに憑依させようとしたのだ。


「宰相、マルティクスは自惚れたのか騙さされたのか、どちらですか?」


 マリア大公は、多くの民が犠牲になった事を知り、覚悟を決めたのだ。

 だから、今までマルティクスを殿下呼びしていたのを、呼び捨てに変えた。


 そして、習い覚えた帝王学を使って自ら考え、思いついた事をロレンツォに聞いて確かめるようになっていた。


「マルティクスのような性格だと、両方とも考えられます。

 自分なら悪魔すら従えられると都合よく考える事もあります。

 邪法集団に、悪魔を支配する術式が組み込まれていると騙される事もあります。

 或いは、特別な薬を飲めば悪魔を支配できると言われたかもしれません」


「愚かな事ですね」


「はい、愚か過ぎて笑う事もできません」


「私達で勝てますか?」


「少々の悪魔が相手なら、必ず勝てます」


「宰相が退治してくれるのですか?」


「はい、こう言っては生贄にされた者達に悪いのですが、1000人足らずの生贄で呼び出せる程度の悪魔なら、指先1つで斃せます」


「宰相は、邪術や邪法にも詳しいのですか?」


「実際に使った事はありませんが、公爵家と王家に残されていた文献と、ダンジョンで手に入れた魔導書で学びました。

 書かれていた事を比較検討して、更に推理すれば、ある程度の事は分かります」


「分かりました、マルティクスと邪法集団の事は宰相に任せます。

 私は1日でも早くこの混乱を治め、連中が好き勝手出来ないようにします」


 マリア大公にもロレンツォ宰相にも分かっていたのだ。

 ロマンシア王国に起きている混乱が長引くほど、連中が暗躍しやすくなると。

 貴族士族の中には、連中の口車に乗る者もいると。


 ロレンツォ宰相の言うように、1度の邪法なら大して強くもなれないだろう。

 だが、何十何百と繰り返せば、魔王クラスの強さを得られるかもしれない。


 貴族士族がマルティクスに協力してしまったら、今回のような邪法が行われている事にすら気付けす、気付いた時には既に手遅れになっている可能性すらある。


 マリア大公にもロレンツォ宰相が貴族士族の愚行に気付くずっと前に、マルティクスの意識など喰われてなくなってしまうだろう。

 上級悪魔や魔王クラスが好き勝ってできる方が恐ろしい。


「はい、それが良いと思います。

 まずは民を見殺しにした貴族士族を処罰いたしましょう」


 だからマリア大公は覇道を歩む覚悟を決めた。

 ロレンツォ宰相は、覇道を進むマリア大公を支え続ける事にした。


 大公国国内だけで考えれば、今残っている家臣使用人と民は、圧倒的にロレンツォ宰相の方を支持している。


 だが、大公国外に目を向ければ、マリア大公の方が支持を得られやすい。

 覇道を歩む覚悟はしたものの、できる事なら犠牲者は少ない方が良い。


 看板を誰にするか程度の事で死者の数が減らせるなら、誰が大公を名乗る事になっても気にするような2人ではない。


 そもそもロレンツォ宰相は一生マリアお嬢様を支えていく気だった。

 マリア大公も、国民のために自分を捨ててマルティクスを支える気だった。


 看板であろうと傀儡であろうと、どのような方法であろうと、民の死傷者が減るなら何でもよかった。


「はい、即座に連中の居城を順番に攻め取りましょう」


 ロレンツォ宰相は、第1騎士団第1騎士隊に廃城の警備と捕虜の管理を任せた。

 捕虜にした傭兵団1000兵を使って廃城を隅々まで清掃させる。


 どうせ処刑するか死ぬまで鉱山で働かせる大虐殺犯なのだ。

 1分1秒も休ませる事なく扱き使うべきだった。

 

 清掃させるだけでなく、現役の城として使えるように修築する。

 見捨てられるような僻地にある廃城だからこそ、何かあった時に逃げ込める。


 ロレンツォ宰相はマリア大公と共に残りの騎士団を率いて貴族士族を討伐した。

 最初は無条件降伏を勧告すると言う慈悲を見せた。

 だが、1度でも拒否した時点で情け容赦なく攻め落とした。


 当主や一族を殺さなかったのは慈悲の心ではない。

 覇王と成る決意をしたマリア大公に対する恐怖感を広めさせるためだ。

 

 貴族士族の当主本人だけでなく、彼らが抱えていた勇猛果敢な騎士や徒士を1対1で完膚なきまでに叩きのめした。


 完全装備のフルアーマープレートを、中の手足と共に引き千切り、見るも無残な状態にしてから回復魔術で癒すのだ。


 絶対に勝てない相手だと魂に刻み込み、対峙しただけで身体が振る大小便を垂れ流してしまうほどに、恐怖を与えて心を縛るのだ。


「民を見殺しにするような者に貴族士族を名乗る資格はありません。

 少なくとも私の家臣には、そのような者は1人も必要ありません。

 ロマンシア王国は、ロマンシア王家の傍流であり、ロアリア氏族の末裔でもある私、マリア・ロアリア・フラヴィオ・ロマンシア・ガッロが受け継ぎます」


 堂々たる侵攻宣言だった。

 その後のたった4日間で広大なロマンシア王国領を切り取った。


 最初の頃は無駄な抵抗をする貴族士族もいたが、死んだ方がましなくらいの半殺しにされてしまうので、3日目以降は抵抗する事なく降伏してきた。


 だが、そのほとんどが許されなかった。

 ロレンツォ宰相が事前に調査して、無能だと確認していたのだ。

 安心して領地を任せられない判断された者がほとんどだった。


「貴男は領主としての能力がありません。

 貴男に領地を任せたら、貴男自身も民も不幸になるだけです。

 ですが、騎士としての実力は素晴らしいものがあります。

 お金と食糧を報酬として与えますから、私に仕えなさい。

 子供に関しては、能力があれば召し抱えてあげます。

 領主としての才能が有れば、土地も与えます。

 1人しか召し抱えないなんてケチな事は言いません。

 実力があるのなら、10人でも20人でも召し抱えてあげます。

 子供だけでなく、弟も叔父も家臣も、実力さえあれば直臣に取立てます。

 どうしますか?」


 マリア大公とロレンツォ宰相は、それぞれが役に立つを思った者を取立てた。

 特に、ルーカ王に諫言するほど漢気の有る騎士団長達の配下だった、騎士や徒士には直接言葉をかけて引き抜こうとした。


 極まれに忠義を貫いてルーカ王の所に落ち延びる騎士や徒士がいた。

 だが大半はマリア大公に臣従する事を誓った。

 親征軍は1日ごとに兵力を増やしていった。

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