第46話 孝文

 急に呼び出されたのか、孝文は、そわそわと落ち着きのない様子で周囲を見ている。


「急なお呼び出し、如何なる御用でしょうか?」


 太政大臣の傘下の孝文だ。西寧と太政大臣の確執は知っている。

 なのに、急に自分だけが呼び出されたことには、驚きしかない。


「赤虎の国からの移民ということで、せっかくの才能を生かし切れていないと聞いている。良ければ、こちらの仕事をする気はないか? 悪いようにはしない」


 あけすけに物を言う西寧。

 孝文は、目を丸くする。

 確かに、なかなか出世するチャンスに触れさせてももらえないことは確かだ。このままの状態では、これ以上の出世を望めないことも確か。


 だが、それでも、文官として、今の地位までのし上がれた。


 もし、このまま西寧と手を結べば、当然太政大臣に睨まれることになる。

 迂闊に、この嫌われ者の国王に近寄れば、並み居る政敵の攻撃を受けることとなる。


「どのような仕事でしょうか?」


「国の未来を作る仕事だ。移民でも貧民でも、誰しもが通える学び舎を作ろうと思っている。それを、孝文に一任ようと思うのだ」


「それは……また大きな仕事で……」

やりがいを感じない仕事ではない。むしろ、この国へ来て飲まされた煮え湯を活かすような仕事。孝文にも興味はある。


「五年後、十年後に役に立つ人材を作るには、重要な仕事だ。むしろ移民としてこの国に来た孝文にしか分からない、移民たちにとって不自由に感じる点を、解消するような学び舎を作りたい」


 西寧の言葉に、孝文は迷う。

 政治家になったのは、そういった仕事をして、この国を動かしたかったからではなかったか? このまま太政大臣に付いて、身の平安を優先していれば、またいつこのような仕事に携われる機会が来るかは、分からない。


 しかし、西寧に付くのは、あまりに無謀な賭け。


「迷っているな? そうだな……太政大臣の目が怖いならば……。間者かんじゃとして、こちらの情報を太政大臣に流せば良いではないか」


「え?」


「間者であるとすれば、太政大臣も文句は言うまい。適当な情報を流して、太政大臣の信用を得ればよい。そうすれば、お前を疑うことはないだろう?」

にこやかに、とんでもない事を西寧は言う。


「良いのですか?」


「良いと言っている。ただ、どんな情報をどう流したのかさえ、教えてくれれば、それで対処する。むしろ、その流された情報を活用して、さらに裏をかいてやる」

自信満々の西寧。


 面白い。


 孝文は、そう思った。こんな国王は、見たことも聞いたこともない。


「いいでしょう。しかし、私を失望させるような国王におなりになれば、すぐに私は貴方を裏切りますよ」

という孝文の言葉に、


「当然だ。すぐにそうしてくれ!」

と、西寧は笑った。





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