第17話 枷を外す
「罪?」
「この国の大臣の臣下……。軍の指揮官の首を捻り折ったことが、問題になっているようです。まあ、私としては、どうでもいいことなのですが」
ふうん。西寧は、そう返事すると、西寧は、壮羽の隣に座る。手かせと足かせの具合を調べるのに、忙しそうにしている。
「恐ろしくはないのですか? 殺しているのですよ?」
壮羽は、ピタリと隣に座る西寧に驚く。
たいていの者は、貴族を殺害したことを言えば、大人でも恐れて距離を取る。これで近づかなくなる。話すらしなくなる。
「何か理由があるのだろ? 理由なく殺めるようにはみえない。俺は、自分の目利きを信じている。お前は、悪い奴ではないと俺が決めた」
西寧は、当然だろと言ってのける。
「それよりも、分かったぞ。これ、捻る力に弱そうだ。なあ、あの天井のフックに俺を引っかけてくれないか?」
天井には、脱獄しようとした奴隷を罰として吊り下げるフックが出ている。腕に体重がかかって、腕が引きちぎられそうな痛みに襲われる。長時間吊り下げられると皆、根をあげる。そこに、自分から釣り下がろうと言うのだから、少しこの子どもはおかしいのかもしれない。
「やめておいた方がいいですよ。ずいぶん痛い思いをするはずです」
壮羽は、自分も何度か吊り下げられたことのあるフックを見上げる。
「まあ、物は試しだ。駄目で元々。痛がったら下ろしてくれ」
壮羽の長身では、子どもの上げ下ろしくらい、確かにできる。壮羽は、しぶしぶ手伝ってやる。西寧を肩車して、フックに近づけてやる。
「そのまま、回転してみてくれないか」
西寧を肩に載せたまま、壮羽は、ゆっくりと回転してやる。フックにひっかけた西寧の手枷の鎖が、ギチギチと音を立てている。確かに、手枷に負荷がかかっているようだ。だが、西寧の手首も同時に締め付けられるのか、フウッという声が西寧の口から洩れる。
「どうしますか? もう止めますか?」
壮羽が心配して西寧に声をかける。西寧が、フルフルと首を横に振る。痛さを我慢しているのだろう。子どもの細い手首が先にねじ切れないか、心配になる。
「もう少しだけ……。」
壮羽は、少しずつ回転する。上は西寧の体が邪魔で良く見えないが、ずいぶん無理をしているのではないか。すぐ止められるように、慎重に動く。鎖もフックも軋んでいる。ひょっとしたら、先にフックが壊れて落ちてくるのではないかと思うほど軋んでいる。もう限界だろうと、壮羽が強制的に元に戻そうとした時に、ガチッという音が響く。
「外れた~」
西寧から、気の抜けたような声が漏れる。見上げると、鎖が壊れて両手の自由になった西寧が、壮羽に覆いかぶさってくる。よほど痛いのを我慢していたのだろう。
両方の手首が、赤黒く痣になっている。
壮羽は、慌てて下ろしてやる。
「大丈夫ですか?骨が折れていたりしていませんか」
床に転がる西寧を、壮羽が案じる。手首をさすってやる。
「何とか大丈夫。でも、今もジンジン痛みが残っている」
鎖に挟んだのだろうか、所々出血もしている。ペンチで捻り切られるような痛さだっただろう。涙目の顔を、ゴシゴシと自分で拭いて、西寧は、またうろうろと部屋を観察しだす。
「足枷も同じ方法で取れそうだけれども、ちょっと今は、辛い。後は鉄格子か」
ブツブツ言いながら、部屋をうろつきまわっている。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます