第2話

〔diary〕

 嫌な夢を見た。

 お腹が痛い。と思ったら,誰かに殴られ続けていた。正確に言うと殴られ続けている自分を他人事のように眺めていた。怖かった。

 無意識に,誰かに助けを求める。しかし,叫んでも誰も来なかった。

 誰かの影が見える。何故か,その人は助けてくれるような気がした。が,やはりバツが悪そうにその場を立ち去っていった。

〔rabbit and horse〕

 最悪だ。あいつが転校してきた。

船橋 快斗ふなばしかいとです,よろしく。」と,端的に挨拶した。傍から見ると,そいつは二枚目の部類に入るからだろう。女子の一部が鬱陶しく騒いだ。小学校時代,俺をいじめていた奴だ。しかも,典型的なうざったいやり方で,自分では直接手を下さなかった。あいつの手下に食わされた茶色のコーティングが施されたような外観をした,あの虫の味を思い出し,吐き気が襲ってきた。実際,具合が悪くなり,心の内にはあいつのターゲットにならないように逃げる目的もあったのかもしれないが,休み時間に保健室に逃げ込んだ。日野の目は憧れに輝いていた。


「あいつ,むかつかない?」船橋が指す“あいつ”とは日野のことだ。まずい,と思った時にはそれはすでに始まっていた。

 トイレに行こうと手を掛ける。少し開けたところで,中から呻き声が聞こえた。

 助けに行かねばと思うも,裸で土下座させられた時の記憶を思い出し,それ以上動けなくなる。あの,屈辱心と羞恥心の入り乱れた,最悪の記憶だ。静かにその場を離れた。

 そして,いつのまにか日野は学校に来なくなった。

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