第25話 再びの帰郷
「シュガ、今回の作戦について説明するぞ!」
「なにーーっ!?」
シャナダの角を折ったことで、周囲から
現在、行きと同じようにダークドラゴンの背中に乗せてもらい、人族の国との国境へ向かっている。
鬼人族の族長代理であるシャナダの依頼を受けたことで徹夜が確定した。
俺、この仕事が終わったら泥のように眠ってやるんだ。
こういう時、不眠不休で動ける悪魔はずるいよな。
いくら俺が人間離れしつつあるとしても、眠いものは眠い。
正直、断っても良かったのだが、あいつらは家族の無事を祈り、待ち続けている。
その想いは言葉にしなくてもひしひしと伝わってきた。
俺が鬼人族の族長を救出することで人族に多大な被害をもたらす結果になるかもしれない。それでも、断れなかった。
だって、人族に囚われているのは奴らにとっての家族に変わりないのだから。
「話聞いてあげるから、ちょっと横になってなさいよ」
落ちないように慎重に俺の隣へと移動したシュガが自分の膝を叩き、俺を寝かせようとする。
悪魔のくせに太ももは柔らかいし、暖かいんだよな。
「もしもの時は俺が多種族同盟軍の本部に向かう。そこで、ターゲットをどこに収容しているのか聞き出してくる」
「どこにいるのか知らないの?」
「2年前は本部の地下に拘束されていたが、ずっと同じ場所にいるとは限らない。そこでシュガの出番だ」
シュガは目が良い。
当然のように壁を透視して、魔王の居場所まで突き止めてしまう。
今回はその能力を使って多種族同盟軍本部の地下にターゲットがいるのか先に確認してもらう予定だ。
透視……ね。
なんで、視覚のリンクを共有してくれないんだ。
「人間って
「鬼! 悪魔! 別にやましいことに使うつもりはない。それに契約上も問題はないだろ?」
「鬼はツダだし。アタシが悪魔なのは事実だし。倫理上、道徳的に問題があるって話よ」
まさか、悪魔に倫理と道徳を説かれる日が来るなんて誰が想像しただろう。
別に女湯を覗こうなんて考えていないぞ。
魔物たちの入浴シーンなんて誰が喜ぶんだ。
せめて人族なら……。
そっか。俺たちはこれから人族の国に行くんだった。
それでシュガが警戒しているのか。
「安心しろよ。俺はシュガの力を下らないことには使わない。全ては目的を達成するためだ」
それに、この契約も魔王に怪しまれないために結んだだけで一生続くわけじゃない。
偶然にも使える力を持った悪魔だったというだけだ。
多種族同盟軍のお偉いさんが納得する情報を提供したらシュガとの関係も終わる。
こちらから一方的に契約を破棄することになる可能性だってあるんだ。
「ふぅん」
そう呟いたシュガの顔はどこか寂しげに見えたが、きっと気のせいだ。
いくら視力が良くても、俺の心まで読めるはずがないのだから――
◇◆◇◆◇◆
「どうだ。見えるか?」
「うーん。あの建物の中に鬼人族はいないみたい」
「地下も?」
「うん」
「この国にはいそうか?」
「どうかな。ぱっと見はいないっぽいよ。でも、視界が
ダークドラゴンから降りて、簡易転移魔法を施された魔法具の指輪で人族の国へと入国した俺とシュガは、多種族同盟軍本部が見える丘で腹ばいになってヒソヒソと会話中だ。
実にスパイっぽい。
「じゃあ、俺が本部に乗り込んで聞き出してくる」
「アタシは?」
「この金で金平糖を買ってこい。最後の1つは自分で食べてくれ」
「いいけど……」
通貨の入ったがま袋を指先で摘まみながら、「で、どこにあるの? 買う? 買うってなに?」と常識の欠片もない質問をするシュガ。
そういえば、こいつ悪魔だったわ。
角と尻尾が生えただけのゴスロリ姿で道徳を語るから混乱するんだよな。
俺はクシャ爺から貰った金の使い方と、金平糖を売っている店の場所を教えて、多種族同盟軍本部へと歩き出した。
もちろん、フードで顔を隠してだ。
……………………。
いつもより警備が手薄な気がする。
なんだ、この違和感。
まるで、早く来いとでも言わんばかりの不気味さがあった。
気を引き締め直して多種族同盟軍本部ビル裏口の扉に施された魔法を解除する。
「我、魔物を謀る者なり」
自動で開いた扉の向こう側にある螺旋階段を昇り始めた。
テグスン国の中で一番高い高層ビルの最上階。
そこには剣聖、拳聖、賢聖と呼ばれている(クシャ爺に聞いた)偉大な3人が待ち構えていた。
「今回はやけに早いではないか」
「勇者イグニスタンは無事に回収しましたよ」
「一撃とはいえ魔王軍四天王の技を見れたのも良かった」
こいつらはイグニスタンの記憶を覗いたんだ。
どんな術を使っているのかは分からないが、きっと俺も死んだらその術の餌食になるだろう。
いや、そんなことよりもだ。
「勇者は遺族へ返したんだろうな」
「無論です。四天王の一人を撃破した功績も遺族へお伝えしましたよ」
でなければ困る。
こっちだって無駄に危険を冒したくないんだ。
俺の意図を汲んでくれないと取り越し苦労だろ。
「魔王の婿候補の報告を聞こう」
「それは、まだ決まっていない。人族も魔物も全てオルダとラゲクが倒してしまったからな」
「やはり、もう一人くらい勇者を派遣するべきだったか」
「いや、貴重な勇者をこれ以上、使い捨てるわけにはいかぬよ」
剣を携えるジイさんの鋭い眼光が俺を睨んだ。
「今日は何用で参った」
「問題が発生した。あんたらが捕らえている鬼人族に会いたい」
「理由を聞きましょう」
「ひょんなことから鬼人族と衝突して俺の正体がバレそうになった。人族の捕虜となっている鬼人族を連れ帰らないと魔王に俺のことを話すと脅されている」
「あら、それは失態ということかしら」
「貴殿が寝返っていないという証拠は?」
俺は懐から取り出した羊皮紙を乱暴に叩きつけた。
「魔宮殿にある魔王の居室だ。俺は7つあるうちの3つに入った。それぞれの場所と部屋が持つ効果が書いてある」
さらにもう一枚取り出す。
「
「……ダイヤモンド、パール、アメジストの部屋」
「魔宮殿を強襲するとなれば最低でも7人の勇者が必要ということに」
「ご苦労であった。だが、鬼人族の捕虜を返すわけにはいかん」
「じゃあ、俺の任務はここまでだ。魔王国に戻っても懐疑的な目を向けられ、諜報活動に支障が出る」
扉に手を伸ばした俺の背後にかけられる重苦しい声。
「いいのかね。元の世界への切符は」
「………………なら、欲しい情報を言えよ。もう2年だぞ。そろそろ何と引き換えにするのか明確にしてくれ」
「魔王と
それだけって、どれだけ大変なのか分かって言ってるのかよ。
いくら仲良くなったところで自分の弱みを曝け出すはずがないだろ。
あんたらは互いに弱点の情報交換をしてるってのか。
「なら、俺は
「あの鬼人族は剣聖をはじめとする多種族同盟軍の精鋭が束になって、ようやく捕獲したのだぞ。奴が戦場に戻れば、大勢の人が死ぬ」
「戦場に出なければいいんだな?」
「何を自信満々に――」
「絶対に戦場には立たせない。だから、居場所を教えてくれ」
剣聖は瞼を閉じ、拳聖は肩をすくめ、賢聖は諦めたように頷いた。
「いいでしょう」
少し苦戦したが、聞き出すことができたぞ。
鬼人族の族長――ダグダの居場所を。
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