【039】超常戦隊ライトノベラー 世界最大最後の戦い

 黒猫のつくった鍋焼きうどんをふうふうしながら食べ始めようとしてたら大日本酒舟だいにほんさかふね博士から緊急通信が入った。こちとら今まさに熱々のうどんに舌鼓打つとこなんだからと無視を決め込むつもりだったのに、律儀な黒猫はビデオ通話を開いてしまう。まあ彼女の部屋だから、流石に文句は言えない。


「おお、黒猫くん。よくぞ返事をしてくれた。やや! それはまさかの鍋焼きうどんではないか。ワシはそれが好物で……。と、今はそんなことを言ってる場合ではない。お、後ろにいるのはうたくんではないか。なんと好都合な」


 なんだよ。黒猫んちはあんなとこにカメラが付いてるのか。うちのカメラなら画角から見切れるはずだったのに。


「渋谷上空に未確認飛行物体が現れたというツイートが流れてきた。おそらくはひしゃく座星人による侵略行為だと思われる。すぐに急行して対処に当たってくれたまえ」


「またいつものガセなんじゃないんですか? 博士、トンデモさんをいっぱいフォローしてるから」


 しかもよりによって渋谷! あんな人の多いとこで変身とかマジ勘弁。

 あたしは黒猫お気に入りの黄色いクマのぬいぐるみを抱きながらぶーたれた。が、奥では黒猫がいそいそと外出着に着替えている。あ、馬鹿。そんなとこで部屋着を脱ぐな。博士が目で追ってるよ。


「え、えへん。さっき他の三人にもDMは送っておいた。モアイ像の前で待ち合わせるよう伝言したから、き、きみたちも急いでくれたまえ」


 博士、あの像はモアイじゃなくてモヤイだよ。てか、話は終わったはずなのに博士はビデオ通話を切ろうとしない。目が泳いでるので視線を追って後ろを向くと、背中を向けた黒猫がナイトブラ外してる。あんた、窓に反射してるよ!

 あたしは問答無用で通信を切った。




 井の頭線に揺られて二十分、黒猫に引っ張られてようやく渋谷に到着。バスターミナル奥のモヤイ像前に着くと、河童とニンジャが先に着いてた。


「遅えよお前ら」


 チンピラ面の河童を無視してあたしはニンジャに尋ねる。


永遠とわは?」


 いつも通り口を開かない彼は肩をすくめた。


「遅刻魔の永遠とわなんか当てにすんな! ひしゃくどもなんて俺らだけで充分だろ」


 相変わらず河童はぎゃあぎゃあ五月蝿いなぁ。そんなに闘いたきゃお前一人でやってこい。


「で、どこにいるの? ひしゃく座星人は。未確認飛行物体も」


 真面目ちゃん黒猫が男どもに律儀に聞くと、ニンジャが黙って真上の空を指差した。釣られて見上げると、たしかに頭上に楕円形の物体が浮いていた。

 マジか。アレ、いつものひしゃく座星人のとは随分と違う感じがする。なんか嫌な予感。


「おい。あれ、なんだ?」

「空になんか浮いてる~」

「え~、こわ~い」


 あたしと同じようにニンジャの指差しに釣られた何人かの通行人が、その物体を見て騒ぎ始めた。一般人にも見えるんだ。やっぱりいつもの奴らとは違う。あいつらなら、普通の人たちの入ってこれない魔空間を現出させてあたしたちを待ち受けるはず。


「大きくなってきてないか?」


 素に戻った河童が本来の好青年の声で呟いた。河童も気づいてる。いつもと違ってることに。黒猫もニンジャも緊張してる。戦えるの? あたしたち。


 バスターミナルに大型バイクが走り込んできた。あたしたちの目の前で急制動するバイク。真っ黒の皮ツナギに身を包んだライダーがジェットヘルのスモークシールドを跳ね上げた。

 永遠とわ


「みんな、急いでバトルモードに変身して。あの物体はひしゃくなんかとは違う、本当に危険な何かよ!」


「キャストオフ! バトルモードニンジャ!!」


 あたしと黒猫、河童が永遠とわの声に反応する前にニンジャの身体が白光に包まれ、着ていた衣服がはじけ飛んだ。が、一瞬で銀色の甲冑コスチュームが装着された。


 またやられた。あたしは唇を噛む。真面目で鈍感な黒猫は気づいてないし、ナイスバディの永遠とわ姉にすればむしろ望むところなのだろう。でもあたしは違う。あたしは普通のJKなんだから、こんなのはムリ。


 あたしたちの変身は装着直前にお約束の全裸ターンがある。でも過去の女性隊員たちの突き上げの成果で、バージョンアップされた今のスーツでのその時間ターンは0.1秒。しかも白光に包まれているから、ほぼ見えないといっても過言じゃない。

 しかし、だ。ニンジャ相手だとそれが全然違ってくるのだ。

 ニンジャの特殊能力は時間延伸ムービングディレイ偏光視覚マルチアイ。体感時間を最大二百倍まで延ばせ、サーチライトを背景にした物でもはっきり見える。あのムッツリはいっつも先に変身して、二十秒近くもかけてじっくりあたしたちの裸を堪能してやがるのだ。マジ許しがたい。てかニンジャ、いつか殺す。


 とか思ってるうちに黒猫がナイトキャットに変身した。もちろんニンジャはガン見してる。ワンテンポ遅れて永遠とわも変身。ご丁寧にニンジャに正面向いて。絶対わかっててやってるよ、あの露出狂女。

 てかヤバイ! ふたりと同時なら視線も分散できたのに……。でももう遅い。せめてもの抵抗でニンジャに背を向けた。万年筆を触る河童のタイミングに合わせて、あたしもピアスに指をあてて合言葉を宣言する。


「「キャストオフ! バトルモード!!」」




「なんなのあれ! どんどん大きくなってる」


 精神的支柱なはずの永遠とわがパニックになってる。全天の一割近くのサイズにも広がった薄ピンク色の楕円。旧いレコードみたいな細かい溝のような模様に覆われた巨大な物体。

 河童の水流も黒猫の電撃もニンジャの手裏剣も永遠とわの念力も、むろんあたしの超音波も、あの楕円には効き目がなかった。


「無理。絶対むりですよぉ! 私たちの超常能力チカラじゃ太刀打ちなんかできないよォオオ!!」

「俺は無力だ」

「……」


 黒猫も河童も、ムッツリスケベのニンジャでさえもが諦めて攻撃を止めている。あたしは、あたしだけでも負けてやらない。絶対諦めないっ!

 全身全霊の力を込めて、あたしは超々音波スーパーソニックを束にして放った。


 楕円の巨大化が収まった。

 と思ったら、横に大きくスライドしだした。その動きに合わせて、世界がめくれていく……。






「うん。けっこう面白かったよ、これ。けど、さすがに博士の名前はちょっとむりやり過ぎだよね」


 そう言って笑ったきみは、親指で次のページをめくった。



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(本文の文字数:2,495字)

(使用したお題:「永遠」「鍋焼きうどん」「ニンジャ」「河童」「黒猫」「うた」「日本酒」「未確認飛行物体」「モアイ像」《叙述トリックの使用》「ひしゃく」《飯テロ要素の使用》「念力」「万年筆」「ピアス」)

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