【008】せめて来年はこいつらと別のクラスになりたい

 同じクラスに、ニンジャと魔女がいる。


 ニンジャの名前は樽川たるかわ士矛しむ。魔女の名前は瀬丼せどん樹里亜じゅりあ

 彼らにとってニンジャと魔女はヤクザとマフィアみたいなものらしく、あまり仲がよくない。樽川は瀬丼さんのことを『西洋クノイチ』と呼び、瀬丼さんは樽川のことを『早弁太郎』と呼んでいる。


「チーゴロー、帰りにネズミを捕まえに行きませんこと?」

 僕の名前は地井ちい悟朗ごろうである。ネズミは別に好きではないが全ての生き物に対し博愛の精神を持ち合わせているので、彼女の肩に乗っかっている無口な黒猫の狩りは全く見たくない。

「いーや、チゴロウは俺と山に行くんだ」

 僕の名前は地井ちい悟朗ごろうである。山には一切興味がない。


「今日、塾だから」

 そんな風に嘘をついておく。塾なんて行く必要はないのだが、この二人に巻き込まれるぐらいなら今から塾を申し込むのもやぶさかではない。

 荷物を持って帰ろうとすると、二人がついて来る。なんでついて来るんだろう。このまま本当に塾の申し込みをしなければならないのだろうか。この二人も同じ塾に申し込んだらどうしよう。席だけは配慮してもらえるようにお願いしよう。




 結果的に言えば、行く気もない塾に申し込みをする羽目にはならなかった。文字数が足りないので詳細を省くが、僕たちは学校の昇降口で不審者と相対していた。


「……お前らあああ」

 文字数がシビアなので詳細を省くが、知らない男が学校の昇降口でめちゃくちゃキレている。

「男男女3人で群れやがって!! そんなのっ、青春みてえじゃねえかああああ!!」


 殺してやるう、と叫んでいるおじさんに対し、樽川が「やべえぜこいつは……」と呟く。

「おっさん、目がイッちまってるぜ……!」

 思ってても口に出すな。これ以上刺激するんじゃない。

「こうなったら仕方ねえ。ここは俺の術で何とかする!」

 いや必要ない。今から僕が警察を呼ぶからだ。

「へっ、チゴロウには見せたくなかったが……」

 僕も別に見たくない。

「実は俺は、ニンジャはニンジャでも、樽川流の忍びなんだ……! 黙っていてすまねえ!」

 ニンジャの流派に詳しくないし詳しくなりたいとも思ってないから反応がわからない。そもそも樽川はお前の苗字だろ!


 実はわたくしも、と瀬丼さんが口を開く。


「今まで黙っていましたが、異世界から転生してきた悪役令嬢なんですの」

 いやそれは初耳。

「えっ、瀬丼さん、魔女じゃなかったの?」

「前世では魔女と呼ばれておりましたよ」

「重てえな」

「もちろん異世界人なので魔法は使えますけど!」

「あ、瀬丼さん。いいよ魔法は」

 僕は何度か瀬丼さんが魔法を使うところを見たことがあるが、彼女はあまり器用な方ではない。

「こほん。“闇をはらい光で照らせ、我が真名はセドン・ジュリア・ティアラ”あの男を拘束せよ! あっ、きゃああ!」

 彼女の魔法は8割方失敗し、なんかいつもラッキースケベみたいになってしまうのだ。


「この女ァ! 何をごちゃごちゃ言って……何その格好?? オヂサンのこと誘ってるのかなあ??」

 まずい! おじさんを違う意味で刺激している! 危険だ!


 するとひらり舞い降りた黒猫が、威嚇しながらおじさんに飛びかかった。瀬丼さんは「お兄さま!」と叫ぶ。そろそろ本気で文字数がシビアだし僕は深く聞かないことにした。

「お兄さまが時間を稼いでくださっているうちに、ケルベロスを召喚しようと思います!」

「しないでもらっていいですか?」

「“闇をはらい光で照らせ、――――”きゃああああっ」

 文字数とコンプラ的観点から描写しないでおくが、大変あられもない姿になってしまった。


「ハッ、西洋クノイチは口寄せすら満足にできねえのかい」

「なんですって!?」

「見てろい、俺が樽川流口寄せってヤツを見せてやらぁ」

「そんな得体の知れないものの前に警察を呼びたいんですが」


 樽川は巻物を出し、それを豪快に広げる。自分の指を噛んで血を滴らせ、「来い!」と叫んだ。

 巻物から何かが飛び出してくる。

 サメである。


 薄目で見てもしっかり見ても、サメである。ビッチビチと暴れている。

 おじさんはきょとんとしてそれを指さし、「……サメ」と呟いた。


「サメだあああ」


 脇目も振らず走っていくおじさん。ビチビチいってるサメ。腰を抜かしている瀬丼さん。

 僕は「……サメ?」と尋ねる。「ああ、サメだ!」と樽川は頷く。

「すぐ引っ込めてくれ」

「でも結構可愛いんだぜ? 水がなければ大人しいし」

「死にかけてんだろう、それは」

 全ての生き物に対し博愛の精神を持ち合わせている僕は、「可哀想に」とそれを見る。

「海でもないのにサメを出すなんて可哀想だ。他にもっとないのか?」

 あるぜ! と言った樽川は新しい巻物を開き、河童を出して見せた。まあ、河童ならいいか、ケルベロスとかサメよりは狂暴じゃなさそうだしと僕は思う。

「こいつも可愛いんだぜ。水がなければ大人しいし」

「なんで水がなきゃ死ぬ生き物ばかり口寄せるんだ」


 ふと樽川は寂しそうな顔をして、「ついにバレちまったか」と呟いた。

「俺が樽川流の生き残りだ、ってこと」

「そういうのいいからサメと河童を何とかしてくれないか。ただの不審者騒ぎが天変地異に変わってしまう。朝のニュースには荷が重いよ」

「はるか昔……ニンジャと侍は対等だった……」

「いいって。もう文字数がやばいんだって」

「しかし樽川ニンジャはサメを使役するというアドバンテージを得て侍を滅ぼし、天下を取った!」

「知らん歴史を語るな。どこの世界線から来たんだお前」

「その後の侍への差別はひどかった。俺の一族は差別主義者だ……。俺は、俺の家が恥ずかしい!」

「お前のことダルカワって呼んでいい?」

 すっかり肩を落とす樽川に、瀬丼さんが「私も……」と声をかけた。


「家が没落するまでは、貴族でなければ人間でないと思っておりました。処刑されるのも当然です。わたくしも、わたくしの家が恥ずかしい!」

「こっちはこっちで重てえんだ」

「瀬丼…………!」

「早弁太郎……!」


 なんか絆が芽生えていて何よりだった。


 それにしても、どこの世界線から来たかわからないトンチキニンジャと魔法の世界から転生してきた悪役令嬢が同じクラスにいるなんて、世も末である。

 ちなみに僕は宇宙人だ。この学校は終わっている。



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(本文の文字数:2,500字)

(使用したお題:「ニンジャ」「河童」「黒猫」)

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