【002】魔女の鍋【ホラ要素あり】
黒装束に身を包んだ恐ろしい魔女は、腰を屈めて大鍋を掻き回しています。永遠の美を得るために禁断の秘薬を作ろうとでもしているのでしょうか。
しかしその鍋の中身は、美しさとはかけ離れたおぞましい様相を呈しています!
のたうつ芋虫が溺れ、抉られた恨みに燃えさかる目玉は涙さえ流します。突き出した痩せ細った緑の足は、蛙のものでしょうか。
ああっ、魔女が今にもこちらへ振り向こうとしています! あわや、か弱き健気な可愛らしい黒猫は、この恐ろしいババアにとっ捕まってぐつぐつにゃーにゃーされてしまうのでしょうか!
「……おい」
はい!
「なんだ貴様はさっきからベラベラと」
えっと、僕は見ての通り黒猫です。名前はお好きにお呼びください!
「……じゃタマな。タマよ、何故儂をディスりながら寄って来た」
僕は昔っから魔女の使い魔というものに憧れておりまして! 本物の魔女を見掛けたのが初めてだったので嬉しくてついつい独り言で実況しちゃいました!
「滅茶苦茶不躾な独り言だったな! これから取り入ろうと思う相手に向かってババア言うな」
失礼しました! 後ろ姿だったので! いざお顔を見るとなかなかの美魔女ですね!
「ああ、そうそう。儂、マジョとやらじゃないので。マジョがいるのは西洋、ここは日本だ」
ええっ! じゃあ何で真っ黒な服で鍋掻き回してるんですか紛らわしい! 不審者ですか?
「不審者……ってかクノイチだな」
クノイチ……?
「なんだ知らんのか。俗に言う女のニンジャだな」
ニンジャ? ニンジャナンデ?
「……そういうミームは知っておるのか……」
でもニンジャでも鍋で秘薬作ってることには変わりないですよね!
「それも気になっていたんだが全然これ秘薬じゃないぞ。鍋焼きうどんだ」
ナベヤキウ丼? ベースボールをライスにぶっ掛けたやつですか?
「なんだその日本の歪んだ理解は……。ほら、タマがさっき、のたうつ芋虫とか言ってたのは白いうどん!」
魔女改めニンジャは細長い芋虫をずるるっと啜りました!
「だから芋虫ではないと言っておるだろうが! それから目玉だとか言っておったのは茹で卵だ」
なんと! 茹でたお孫さんを???
「……茹でて固めた鶏の卵だっ! 半熟だからとろけた黄身が涙に見えたのだろう」
じゃ、じゃあその蛙の足みたいなのは……。
「これはネギだ」
ネギ! 猫に毒じゃないですか! やっぱり危険だったじゃないですかー!! やだーー!!
「儂が儂のために作った鍋焼きうどんだ! タマにやるつもりは元からない! はぁっ、はぁっ……」
ニンジャは息切れしています。美魔女ニンジャとは言え、やはり寄る年波には敵わないのでしょうか?
「儂もうツッコミに疲れた……。タマよ、ネギのところだけ避けて皿に盛ってやるから、ちょっとうどん食ってくれ」
魔女はぷるぷる震える手で鍋焼きうどんを皿に取り、僕に差し出して来ました。
猫舌なのでふーふーしてからいただきましょうかね。僕は皿の元に近付きます。
はっ、皿? この皿って……。
まさか河童の頭の皿を剥ぎ取った皿ですか? 寿司屋で河童巻きが作られるなど、日本では河童への虐待が横行しているらしいですが!
「だからタマ、貴様の妙な日本への偏見やめろ! わざとホラ吹いてんのか!」
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(本文の文字数:1,294字)
(使用したお題:「永遠」「鍋焼きうどん」「ニンジャ」「河童」「黒猫」)
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