69話
「……今、つばきちゃんと、楽しくお喋りしているのに、なんでお前みたいなキザ野郎が割り込むんだよ」
「ははっ、僕だって西園寺さんとの愛を深めたいのさ。とりあえず、“カイトさん”の話なんだけど。フィアナさんの事をどうでも良かったんじゃないかな」
銀髪の彼女にとってなんとまぁ的外れな意見を言い出す凪。
とても無礼そのものだ、彼の口は止まらない。
「僕にはわからないけど、カイトさんは、フィアナさんの体が目的で、付き合っていたのかもよ」
凪も煽ったように言葉を吐いた事に対して、また司咲が慌てふためく。
(あ、天羽さんも何しているんですか。だけど、時間は稼いでいる……)
紫髪の少年はハラハラしながら様子を見ていた。
「生意気な事を言うなよガキが……」
「ん? どうしたんだいフィアナさん。貴女の美しい顔が消えかかってい──」
「ふざけるのも大概にしろ!!!!」
オレンジ髪の話を割り込むぐらいテロリストの女は激怒。
彼女の禁句に触れたのだ、
「海斗さんが私のことを肉体関係だと考えている訳ないでしょう! 馬鹿にしないでくれる?!」
「いや~、犯罪集団だから悪い人しかいなそうと考えて――――」
「彼はそんなことしない! 私のためだけじゃなく龍康殿様のためにも――」
「あれ? 別にカイトさんもテロリストを所属していると言っていないけど?」
フィアナは我に変える。そう巧妙な手口に騙され、言わされたのだ。
「……まんまとハメられたってことね。お前のそういうところが嫌いよ」
「知っているよ。嫌われているのは慣れている」
つばきは気になっていることがあり、質問する。
「ねえ、フィアナさんはカイトさんのことどう思っていたの?」
「……心が苦しいほど愛していたわ。精神が崩れそうにね」
「散々怒らせること言って悪かったわ。その人のためにも人質を解放して」
「……それはできない」
少女の頼みを断るフィアナ。
伽耶との約束や自分の罪滅ぼしのために、解放はしない。
「?! どうして! カイトさんのこと考えてないの?! 愛していたんじゃない!」
「海斗はもういない!」
銀髪の女性は建物中に響くように叫ぶ。なんともいう悲痛な言葉。
「いないって、つまり死んで――――」
「ええ、事故で亡くなったわ」
つばきの表情が一瞬固まる。そして口がゆっくりと動く。
「――それは、可哀想ね。同情するわ。もう少し話を聞きたいけどいいかな」
「つばきちゃんの頼みでも言わない。誰も悪くないですもの」
「……わかったわ」つばきは諦めるも凪が代わりに話す。
「もしかして、フィアナさんも、カイトさんのことはどうでも良かったんだね」
「……どうでもいい?」血管がピクリと動くフィアナ。
「本当に好きなら、すぐやめるだろ? 僕だったら人質を放すさ」
「私はお前と違う」
静かに憤怒している彼女、目を鋭く尖らせる。
「そうかい? 学園で戦ったときは同じ境遇だと思ったんだけど」
「勝手に照らし合わせないで」
「――論点がズレたね。貴女は、僕たちに嘘をついている。本当はいないんでしょ、大切な人なんて」
凪が初めてデタラメな推理を見せた瞬間、ドレスの女性の目は開く。
もちろん、ガキが生意気にも真理を掴んだような、ふざけた憶測に語っているから。
誰でも激怒する。聖人でも、天使でも。
「え?! さっきの話、嘘なんですか」
つばきは驚いている。
「……どうして、嘘だと思ったのかしら?」
「貴女は、僕と同じで演技派だ。同情させてからみんな始末するんだろ? ちがうかい?」
フィアナは黙り込む。もちろん怒りや呆れたことも含んだ複雑な感情でだ。
(全然違うわ。あいつの言っていること、間違っている。だけど、どうしよう)
フィアナは葛藤している。
憎たらしく死にたいのに、同情されて生き延びてしまう。
生きていたら、
(相手に嘘だと思わせるか、本当のことだと伝えるか……)
一秒考え、(決めたわ……)と、決断する。
「ふふふ、バレちゃった〜。そう本当はカイトなんていう人物はいない。あぁ、もう少しで騙せると思ったのに~」
彼女は相手に『嘘』だと思わせる選択した。
本当は海斗自身存在するし、思い寄せていたことも事実。
龍康殿のことを考えていたら、自然と選んでいた。
罪を背負うのはもう限界だから。
(え、なんで大切な人がいないと言ったの?! フィアナさん)
伽耶も相当驚く。突如嘘を混ぜたからだ。
「貴女のこと信じていたのに……ふざけないで!」
つばきは、獲物を見つけた肉食獣のような目で、テロリストの女性を見つめる。
少女にとって、彼女の深刻に話していたものが、全て幻想だったことが屈辱的。許せなかった。
「あら? 信じちゃったの。騙されたところも愛くるしいね~」
「うるさい! 私達に同情させて逃げるつもりだったんでしょう。いや、私だけを洗脳させて辺り一面ぐちゃぐちゃにされる。の間違いか」
「正解~。ご褒美に私からのチューをあげますー」
まだ自分自身を偽り続けるフィアナ。
もう見るに耐えない。なんとも言う道化師。いやペテン師。
「いい加減にしなさい!」
つばきは拳銃をテロリストの女に向け構える。
「撃てるモノなら撃ってみなさい」
「人質をとる卑怯者に、いわれる筋合いはない!」
「つばき、待って! いま挑発したら人質が……」
司咲は本気で焦っている。“人質に何かあったら”という事で頭がいっぱいだ。
それを凪は、なだめるように焦っている彼に伝える。
「大丈夫。フィアナさんの拳銃には弾が入っていないよ」
「え?!」
「本当に弾が入っているなら、彼女の性格的に撃っている。だけど、人質は無事だ」
「そういえばそうですね……」司咲は納得する。この推理は的中していた。
「つまり見せかけの人質ってこと。フード被っているけど、正体は死体だろう。それにフィアナさんの頭に血を上らせないと策略通りにならないよね~」
「策略……?! まさか!」
テロリストの女は時間稼げたことに今頃気づく。
「もう遅いよ」
凪は冷静に言う。
「いまです! 伊藤先輩!」
司咲は叫んだ。
――フィアナの死角から弾丸が数発まっすぐ飛ぶ。それは彼女の綺麗な太ももに一発。
腹部の後ろへ二発当たる。風穴から真紅の川が流れる。
後ろを振り向くと、『伊藤飛鳥』が拳銃の筒先から煙を出しながら、立っていた。
「あ、貴女は……」
「ふぅー、みんなありがとう~。ボクは弱いけど不意打ちなら誰にも負けないよぉー」
のんびりとした声と共に現れた飛鳥。
その場の救世主でも過言ではない。
「最初からこれが狙いで……」
フィアナはそう話すと、凪は得意げな表情で、
「その通りだ。勝手に所属された元メンバーの
「流石ね……」
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