61話

「貴方も変わったのね。こんなイタズラしなかったのに」


「変わったのはそっちもだろ? 昔は俺に対してペコペコしていたじゃん」


「そ、それはまだ上下関係があって……」


「そのとき、俺は先輩だったけど、お前はトップだったじゃん。それでもペコペコするのはな……」


「い、いいでしょ別に! 私たちが堕ちてから皮肉なように仲良くなったんだもの」


 銀髪の女は頬を膨らませる。それをみた海斗は笑う。


「本当だよな。まさか俺たちがここまで仲良くなるとは思わなかったよ」


(……私も憧れている先輩にこんな好かれるとは思わないわよ)


 フィアナは頬を赤らめる。


「でも、まだまだ恋人関係とは言わんな。よくて兄妹ぐらいの仲の良さか?」


 海斗かいとは銀髪の彼女をムスッとさせる発言をした。


 彼女は、気を紛らわさるために、話題を変える。


「そういえば貴方に弟さんがいたよね、名前は」


「……すまない。弟の話は、よしてくれ。喧嘩別れであの家を去ったから……」


「……ごめんなさい。そんな気はなかったのよ」


「あぁ、知っている。気にしなくてもいいぞ。これは俺の未練みたいなものだ」


「そうなのね。でも名前だけは知りたいな……」


 少し重い空気が交わる中、海斗かいとは口を開く。


「……わかった。あいつの名前はシン。真心と書いてシンだ」


「シンくんね。いい名前」


「だろ? さすが俺の弟だ。さて弟の件は済んだかな?」


「ええ、もう済んだわ。ありがとう」


「良かった、良かった」と、海斗はフィアナの顔を近づける。


 彼に恋する乙女は、秋の紅葉のように照れた。


「な、なに? 海斗」


「一つ気になったことがあって、龍康殿様とお前は結構距離近いけど、もしかしてお前好きなんじゃ?」


 海斗が唐突に発言したので驚く彼女。そして頬を赤くしパニクっていた。


「そ、そ、そ、そんなわけないじゃない! 私と龍康殿様は、良きパートナーで忠誠を誓っているのよ」


「ふーん、そうなんだ。てっきり体の関係まで行っているのかと」


「体……! 私と龍康殿様はそんな親密な関係じゃないのよ! 私もできれば……」


「できれば……なんだ? もしかしていかがわしいことを考えているんじゃ……」


「なんでもない! 聞かなかったことにして!」


「気になる〜 なんだろうな〜」


 ニヤニヤとする海斗。ずっと照れているフィアナ。するとフィアナは前へコケる。その先は海斗の顔面だ。


 二人はドドドと倒れた。倒れた体制は彼女と海斗がキスをしている瞬間だった。


 彼女達は照れて何も言わずに立ち上がる。


 少し沈黙の時間ができ、先に口を開けたのは海斗の方だ。


「……すまなかった。これは兄妹としての愛情表現……だからな。そう思っておいてほしい。でないと俺が恥ずかしくて、恥ずかしくて」


「……いいのよ、別に。私も貴方のことが……」


 フィアナは“貴方のことが好き”と言いかけたが、とどまった。とても恥ずかしくていえない。


「……無理して言わなくてもいいぞ。俺もお前のことが好きだ」


 突然の告白に驚いた。しかし彼女と予想していた答えと違っていた。


「……家族としてな。お前といると妹のように見えて、とても微笑ましく見えるんだ」


 銀髪女性は内心ガッカリした。けど、その表情は見せないようにしている。


「……私も家族として好きだよ。海斗。ありがとうね、気を遣ってくれて」


「そうだ! せっかくだから俺の好きなタイプを教えるよ。俺の好きなタイプはセクシー系なお姉さんで露出度も高い方。そして言葉で魅了できる女性……なんだ」


 フィアナは、ヘタクソなフォローでプッと笑い始めた。


 彼女は笑みをこぼしながら。


「いきなり好きなタイプの発表は笑っちゃうわ。しかも私の性格と真反対……。貴方も飛んだエッチな人なんだね」


 アハハと笑う銀髪が似合う彼女。その態度にムッとする海斗。


「い、いいもん。変態で。俺の好きなタイプ面白いかなと思ってさ、告白したんだよ」


「アハハ、超絶面白いわよ〜。今度その姿でからかってあげる」


「よ、よせよ。恥ずかしい。絶対、龍康殿様に伝えるなよ!」


「わかっている、わかっている」


 フィアナの笑いが治った。彼との会話を続ける。


「龍康殿様で、思い出したけど、貴方は龍康殿様なら死ねると思う?」


「け、結構エグめの話題だな……。お前はどうなんだ?」


「私は余裕で死ねるかな。だって私たちって元々前の組織で殺される運命だったでしょ? あの人のおかげで助かった命ですし」


「ほうほう、俺は、龍康殿様から死ねと言われたら死にたくはないけど、どうせ、死ぬなら自分から死にたいかな?」


「つまり自己申告で、死にたいわけね」


「ちょっと違うな……。俺が実験台になりたいとおもうとして、その試作品で死んだらいいなってこと」


「――――――」


 銀髪の彼女は無言になる。まるで現実に起こりそうな感じがしたからだ。


「……すまん、軽いブラックジョークだ。本当は死にたくないし、お前や龍康殿様について行きたいぜ。俺らの野望のためにも。義理のためにも」


「わかったわ」


 フィアナはあんまり思わないようにした。そして彼女の部屋につく。


「私は休むつもりだけど、海斗は何するつもりなの?」


「ん? 俺か? お前の代わりに龍康殿様の手伝いをするんだよ。お前はゆっくりと休めよ。そして、あの事故のことを忘れてくれ」


 恋い焦がれている彼との接吻という事故を銀髪の女性は思い出し、恥ずかしくなる。


「……! やめてよ。あんな恥ずかしい事故のことを思い出すことは……!」


「ははは、すまないな。とりあえず、またな」


「……ええ」


 フィアナは海斗と別れ。ベッドに飛びつき寝る。


「――――――――」


 部屋で別れた海斗は、何か考えていた。


 ──数時間後、フィアナは起きる。


 どうやら外が騒がしい。なにごとだと急いで、部屋の外に出る。龍康殿がいるところからだ。

 銀髪の女性はそこまで行く。すると、龍康殿が泣きながら向かってきた。


「……射守矢さん。私はなんて酷いことをしてしまったんだ! 一生許さないでくれ……本当に申し訳ない」


 必死な表情だ。何か恐ろしいことを言われる予感がした。


 聞きたくない……聞きたくないのに、彼女は勇気を振り絞り質問する。


「……な、何があったんですか? 龍康殿様……」


「……射守矢さんが聞きたくないことですよ。私の口からは言えません」


「だ、大丈夫ですよ。言っても、私は覚悟しています。そのためにここまできたんじゃないですか……」


 龍康殿は抑え気味に言う。そして彼女自身、覚悟していたとはいえ、フィアナにとっても衝撃な言葉だ。


「……千木楽さんを殺してしまった」


「……! 殺し――」


「あぁ、だから私のことを許さないでくれ! 本当に申し訳ありません、あり……ません……」


「待ってください! じ、状況がつかめません。どういった経緯で……?」


 龍康殿は銀髪の女性にその時の状況を淡々と話す。


 海斗が龍康殿のいる実験室まで足を運び、初老の彼に対して「俺が実験台になります」と言ったらしい。


 もちろん、龍康殿は断った。

 しかし海斗は、無理やり試作品のSFスレイブファイターを手にとり、首にかける。その時暴走し、金で雇った研究員やモルモットは殺されてしまった。

 将来起こるであろう、惺夜のカロルナのように。


 龍康殿は、このままじゃまずいと必死に考え、急いで止めることに専念した。しかし、全然止まらない、ずっと動き続けている。


 初老は、脳裏にフィアナを浮かべながら涙する。

「すみません射守矢さん、これしか方法が浮かびませんでした」と言いながら、ふところから拳銃を取り出し、暴走した海斗に向けで筒先から火花が舞う。

 そして弾丸は海斗の額に命中。


 試作品のSFは本体に向けても止まらない仕組みだった。だから死なせるほか、なかったのだ。

 理由を聞いた彼女は膝から落ち泣き崩れる。


 別に龍康殿のことを恨んでない。片思いしていた彼の最期が、フィアナのいない時だから、彼を憎んでも仕方ない。


 将来、テロリストとして活動を始めるが、この中で責める必要ある人はいない。みんな必死だったから。


「海斗……、海斗……」


 フィアナは抑え気味の声で海斗の名前を呼ぶ。


「泣きたい気持ちはわかります。ですがそれしか方法がなかったです。あなたは責めないでくださいね」


「ええ、だ、大丈夫です。龍康殿様」


「今から天使の浄化をしてきますが、射守矢さんはやらなくても大丈夫ですよ。あなたにとって大切な兄みたいなものですからね」


「――わかりました。失礼ながらまた休んできます」


 彼女の心情は愛していた彼の死体を見たくないことだけだった。


 銀髪の彼女がまた部屋に戻ろうとすると、龍康殿はなだめるように言う。


「貴女たちは羨ましいです。本当の兄妹のように仲睦まじく、戦闘も優れていましたので。私の兄弟と大違いですよ。それを私が……」


「い、いえ! 龍康殿様は悪くありません。海斗が望んでいたのなら私は受け入れます」


「それでは、失礼しました」とフィアナは急いで部屋まで戻る。


(この出来事は誰も悪くない……、悪くないんだ。)


 今にも葉裏に集まる水滴のように溢れそうな感情を抑え、自分に言い聞かせる。


 (悪くない……。悪くない……。悪……くない)彼女の目にはどんどん涙が生まれる。


 そして、フィアナは決意した。海斗のために自分を偽ろうと、彼の好きなタイプに演じようとそう心に決めた。


「海斗……。私、頑張るからね。貴方の意志を継いで一生龍康殿様に着いていくわ」


 射守矢フィアナの儚い恋愛物語はここで幕を閉じた。

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