21話
「なんでつばきに対して謝るんだ? 悪いことしてないじゃないか?」
司咲は不思議そうに言う。
「いやぁな、俺、本当はあのテロリストの女を始末する予定だったんだ。だけどあいつは一人で女の方へ向かった。俺さ、たまに思うときがあるんだ。自分自身、他人を守れるほど強くないんじゃないかなと」
彼は今にも泣き出しそうな声をあげる。
「前からつばきの腕前は凄かったんだよ。模擬戦でも俺に五割は勝っていたし、本気で強くなりたいんだなと感じていた」
申し訳なさそうに言う正義感の強い少年。
なるほどと頷く司咲。
「それと“守れなくてごめん”の意味もあるんだ。今つばきは一人で戦っている。俺も行きたかったが、あいつが目で訴えていたんだよね。『私一人で大丈夫だから戦って』と」
惺夜が一呼吸してから。
「本当は一緒に戦って守りたかった! あいつは本気で強くなろうとしていた。本当に俺が情けなくて、情け……なくて!」感情込めて言葉を吐く。
「俺さ、小さい頃、名前は思い出せないけど、女の子を守ってすごく心が気持ちよかったんだ。当時はいつも親とか助けていたから他の人も助けたいと思っていた」
青髪の少年はつばきのエピソードを覚えているも、それがつばきだったことは知らない。
「実践できたんだ! 傷で痛かったけど嬉しかったんだ! だから俺も最初はつばきもお前もここの生徒も守りたいと思っていた。だけどこの事件でつばき以外誰も守れなかった。だからつばきだけを守りたかったんだ! だから手伝わなくてごめんと言って欲しい……」
涙目になりながら言う惺夜。
司咲はなだめるように優しい声で呼びかける。
「守れなかった、か……。大丈夫だ。俺もお前のことを痛めつけて守れなかった。それと同じだ、気にするな」
尽かさず惺夜は少し感情を昂らせて話す。
「いや違う! お前は洗脳されて錯乱状態でこっちはシラフ。訳が違うんだ」
紫髪の親友は不思議そうにみる。
(『他人を守る』と何度も言っているが、本当にその人達を守りたいのか? まるで自己犠牲にしてまで、守りたいとしか聞こえないぞ。なんか護衛を建前に『惺夜自身が消えたい』と言う遠回しの自殺願望の様な……)
司咲はフッと下を向く。
「そうかわかったよ。でも洗脳していた俺を助けてくれたじゃん。だから心配するなよ。あの時はありがとうな」
「あぁ、その件はごめんな、司咲……。俺も待機する暇はないと言いながらお喋りがすぎた……。司咲、お前があいつを守れよ。」惺夜が言うと、司咲はわかったと頷く。
続いて、惺夜が伝える。
「こう言うのもなんなんだが、ここで叫んでだら、テロリスト来そうだな……。いや待てよ、保健室行くまでテロリスト居なかったよな。なんでだ?」
彼は疑問に感じるも司咲はこう言葉を返した。
「確かにな……、でも考えている暇はなさそうだ。ラッキーと考えるしかないね。――もうおしゃべりは済んだか? 俺はつばきを守りにいく、お前は生き延びろよ」
「わかった。そうだ他に言いたいことがあって、司咲はなんでSATに入ったんだ?」
それを発言したあと、緊迫感のある空気になった。
心臓に
「お前には関係ないことだ。じゃあな、俺は行ってくる」
「あぁすまない、頑張れよ。お前も生き延びて一緒に飯食おうぜ」
「……あぁ、お互い生き残ろう」
保健室の引き戸が閉まる。
「俺は
司咲はぼそっと呟く。そしてつばきの場所を走って探しながら。
(俺だって、千木楽さんのように強かったら、惺夜とも戦うこともなかったし、洗脳さえしなかった。惺夜は自分が情けないといった。一番情けないのは俺の方だよ……)と深く考える。
司咲は当時衝撃を受けた。
SATからはガンカタを知らない人向けに千木楽と教員の模擬対面をみせる。
SATトップの美しく華麗なガンカタをみて、少年は涙すら流していた。
司咲は小学生から日々技術の練習をしていたのだ。
(すごいなぁ、俺も千木楽さんのような動きで敵を懲らしめたい!)
そう考えている日もあったが初雪がお天道で溶けるように幻想へ消えていく。
ほぼ初心者の惺夜と互角だったからだ。
惺夜は初心者とはいえ、技術を覚えるスピードが速い。
司咲は内心嫉妬すらしていた。
だが『自分は自分』と考えることで正常心を保つことにしていき、惺夜へ当たらないよう頑張ることにした。
この事件で『俺は弱くて情けないと』司咲は思ってしまう。
とても辛くて泣きながら走っていた。
(惺夜……、オレが情けなくてごめんな……。千木楽さん……本当はあなたになりたかった)
大粒の涙が司咲の頬に伝わる。
(だけど限界を知り、俺は覚悟を決めた。再度洗脳されて、あいつらと戦うことになったら、もう俺自身死ぬ覚悟でいこうと。つばき……惺夜の代わりに俺が死ぬ気で守るからな……)
司咲が走っていると、連絡機から連絡が入る。千木楽からだ。
「学園にいる奴は一旦本部に戻って欲しい」とトップは淡々と話す。
司咲は内心行きたかったが、つばきを探すため行けないから断ろうとすると。
「SATメンバーの何人かが洗脳された。ここを襲うだろう。だから戻ってきて欲しい」
「……本当ですか? わかりました。わたくし朝霧司咲も行きます」
未熟な彼は本部に戻ろうとする決意をする。
(惺夜、つばき……ごめんな、こんなダメ人間で。惺夜の言葉を無視して、本部に戻る決意をしてしまった。本当に情けないよ、俺)
司咲は涙を拭いて本部を戻る。
その時、惺夜の声も聞こえた。
その連絡も青髪の少年の耳にも入っていた。
今すぐ惺夜は司咲に連絡する。
連絡機、通称【コネクト】はトランシーバーに青いボタンと赤いボタンがついているシンプルなもの。
青いボタンを押すと、一斉にメンバー全員へ告げ知られることができ、赤いボタンを押すと個人に伝えることができる仕組み。
連絡機が通称だが、通信機でもコネクトでも同じなので、呼び名は決まってない。
呼び名が自由な連絡機なのだ。
「司咲、今はつばき助けなくてもいいぞ。今は本部に戻れ。つばきの場所もわからないからな。俺が治ったらつばきを絶対助ける。どんな目にあっていても絶対にな」
司咲は拭いた涙がまた溢れていた。そして心の中で謝り続けた。
惺夜と司咲は入学してから二ヶ月しか経ってないのに親友なのか――。
それは元々SNSの友達だったからだ。
彼らが中学生の頃SNSの『
司咲はそのときSNSの友人関係に悩んでいた時期。
そこでまだ始めたての惺夜がネット上で話しかけてきた。
そこから意気投合し、家庭の事情以外いろいろなことを話した。
一番気が合ったのは
当時は惺夜自身まだそこに入る予定はなかった。
引っ越し続きだったからSATがある地域に入れるかどうかわからないからだ。
そんなある日司咲は煌びやかな都会へ遊びに行ったとき、惺夜と会う。
何故会ったのかは司咲がそこのドーナツ屋さんに行こうと惺夜に連絡したからだ。
そこからツーシンで連絡先を交換する。後日、二人はSNSをやめた。
辞めた理由がそれぞれ違い司咲は惺夜以外の人間関係に疲れたからで、惺夜は親の事情。
だが二人はツーシン越しに中学から話し合ってそこからSAT学園までいったのだ。
これが親友になったエピソード――。
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