3K底辺職と雑誌特集されちゃうダンジョン清掃員の俺、超一流なんで最強ですけど、配信の邪神と豪語するVTuberに振り回されていたら、モテモテになるが極度の綺麗好き故に自身の純潔さを守るのに必死です。

筋肉痛

第1話 やる気を出すとすごいんだ

 死体だ。

 湿気が多いダンジョンに放置されているのだから当然、腐乱している。常人なら目を背け、悪臭に耐えられずその場から逃げ出すだろう。

 俺もダンジョン清掃員に就職したての頃は、その匂いに耐えられず何度も嘔吐して先輩に怒鳴られた。

 泣きそうになる俺を最後はこう言ってよくフォローしてくれたものだ。


『安心しろ、鼻はすぐくれる』


 初めて聞いた時はその文節の矛盾に混乱した。壊れるというネガティブな事象に対して、安心するというポジティブな感情。この先輩はきっと頭がおかしいのだ、そう思うことで無理やり自分を納得させた。

 しかし、あの頃の先輩の年齢をゆうに超えてしまった今は、自分の頭の方がよほどおかしくなってしまったのかもしれない。


 腐乱死体が握りしめているから幻聴が聞こえてしまっている。


「なんじぃ、ちからがほしいかぁ!」


 その言葉の意味を理解するには、時間がかかった。難しいからではない。舌足らずな幼女のような声なので、正しく変換できなかったのだ。

 汝、力が欲しいか。なるほど、ダンジョンには相応しい魅力的な言葉だが、その声色と発声源から胡散臭さが隠しきれない。やはり、幻聴だろう。

 さっさと死体を片付けよう。


「おい、聞いているのか!そこのおまえぇ」


 死後2週間といったところか。この程度なら10分もあれば余裕だな。

 仕事用の分厚いゴム手袋をはめた。掴んだ先から、ボロボロと崩れる人体だったものを根気よく密閉性の高い分厚いポリ袋に入れていく。

 作業中、幻聴がずっと喚いていて後半は半泣きだった。かなり疲労が溜まっているな、俺。この週末はスーパー銭湯にでも行ってゆっくり休もう。


 最後に、スマホを握りしめた右手だけが残った。無意識に避けていたのだろう。優れた我が防衛本能にヨシヨシしてあげたい。

 汚物に触れるように、人差し指と親指だけでスマホを持ち上げる。いや、汚物なら散々触れているではないかと自嘲の笑いがこぼれた。


「なんで笑っている。バカにしてるな!お前、ボクが誰だか分かっているのか!!」


 もう完全に泣いている声だった。そこで、初めてスマホをよく観察する。

 違和感。

 スマホの画面がしっかり映っているのだ。放置されて2週間以上経つと予想されるのに、だ。そんな長持ちなバッテリーは聞いたことがない。

 どうやら幻聴ではなく、ダンジョンの効果かもしれないなと推測。ルーティンワークを効率よく行うために、あえて仮死状態にしていた脳のスイッチを入れる。


 超一流清掃員の超一流ダンジョン攻略思考、パイルダァァァァオオオオン!


 説明しよう。マスタークラスのダンジョン清掃員である俺、澄川清すみかわ きよしはやる気を出すとすごいのだ。


 どうすごいか?

 それは君ぃ。今後のお楽しみだよ。


 え?パイルダーオンって何か?

 知らないなんて、本気マジンガー?


「何をブツブツ言ってるんだ、お前。きもちわるいぞ」


 よし、やっぱり幻聴だってことにしようかな!

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