第10話
定期テスト終了後。俺と智輝が自分たちの席で話していると、そこに結衣がやってきた。
「二人とも、結果どうだった?」
「いつも通り、ほぼ平均だな」
「見よ、圧倒的赤点回避ッ!」
結衣に問われ、超ハイテンションで結果を見せつける智輝。
当然のように全部ギリギリである。何も圧倒的ではない。
「結衣はどうだ?」
「私もいつも通りかな」
勉強会をやったからといって特に大きな変化はなかった。
とはいえ全員一応問題はなかったのでいいのだが。
「これでようやく夏休みの予定が立てられるぜ……」
「家でゲーム、以上」
夏のクソ暑い中わざわざ出かける気にならない。
エアコンの効いた部屋でゲームして過ごすのが最適解である。
「他に何かないのかよぉ」
「そうは言われてもな……」
これまでも基本家から出ない生活だったし。
このメンバーで遊ぶにしても大抵二人が俺の家に来ていた。
「私はひろくんの家で遊ぼっかな」
「お前はほぼ毎日いるだろ……」
あれだけ堂々と居座っておいて今更である。
要するにいつも通りということだろう。
「よし、なら花火大会に行こう!」
「いいね、それなら私も行きたい!」
「裕樹も行くよな?」
「別にいいけど」
智輝から謎の圧を感じる。
わざわざ断るまでもないので承諾した。
しかし花火大会か、いつぶりだろうな……多分小学生くらいだな。
結衣と裕樹は楽しそうだ。俺は人混みが好きじゃないからそんなにテンション上がらないけど。
放課後、電車内で智輝と別れて家に向かう。
当然のように結衣も一緒である。
「花火大会、人多そうだよなぁ……」
「うーん、それはしょうがないかな」
俺の言葉に対し、少し困ったように笑う結衣。
確かに人混みは好きじゃないが、出かけるのが嫌というわけでもない。
あまり結衣を困らせるのもよくないので、軽くフォローを入れる。
「ま、お前らと出かけるのは楽しみだけどな」
「うん、私も楽しみ!」
やはり、結衣は明るい表情がよく似合う。
満足げに笑う結衣に、俺はつい見惚れてしまった。
「……どうしたの?」
「あー、いや……」
「もしかして私に見惚れちゃった? なんて」
言い淀む俺に対し、冗談めかして言う結衣。
最近このパターンで振り回されてばかりだ。ここはひとつ仕返しでもしてみるか。
「まあ、その通りだな」
「……え?」
「だから、その通りだって。結衣可愛いし」
「か、かわっ!?」
結衣の冗談に対して俺の返答は全部本音なので、完全に仕返しになっているわけでもないのだが。それはそれとして、どうやら効果はあったようである。
結衣の顔がみるみるうちに紅潮していくのがわかる。
「言っておくが本音だぞ」
「そ、そっか……!」
結衣は真っ赤な顔のまま、俺から目を逸らした。
俺が顔を覗き込もうとすると、そっぽを向かれてしまう。……多少は意識してくれていると思ってもいいのだろうか。
それにしても、照れている結衣も可愛いな……癖になるかもしれない。
「ひ、ひろくんも……かっこいいと思うよ?」
「お、おう……」
目線だけをこちらに向け、仕返しと言わんばかりに結衣が言う。
今はこっちのターンだ、などと完全に油断していた。
不意を突かれた俺の返事は、歯切れの悪いものになってしまった。
仕返しのつもりが結局相打ちである。
「は、はやく帰ろ!」
「そ、そうだな!」
それから、二人して急に早足になって俺の家へと向かった。
……しれっと帰るとか言ってるけど、俺の家だからな?
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