好きを押し付けて、好きを受け入れなかった
私はずっと待っていた。
駅前で待っておけば悠里の家の位置的にもきっと会うことができる。
いつもは始発くらいから学校に向かってたからこういう人がいっぱい居る朝の風景が新鮮に見える。
この風景を見るのは二年ぶりかな。
保健室に登校する前はなんとも思わない通学通勤の雰囲気と思っていたけれど、今こうやって好きな人を待っている時だとなんか景色が明るく感じる
革靴の音や駅から聞こえる電車の音、そんな喧騒すら音楽のように軽やかに聞こえるのだから、恋というのは不思議。
恋というのは私じゃなくて気持ちの方ね
「あ、こ、恋先輩」
ほら、来た
すらっとしたスタイルに、斜めで不揃いだった前髪も少し整っているものの、また顔を少し隠してる。
その前髪からちらりと覗く綺麗な瞳が私を向いている
身長は私よりもかなり高めだけど臆病で、純粋。
そして、もう彼女からは私に向けた仮面が見えない。
それはつまり裏表のない純粋な気持ちを私に示してくれているということ。
「悠里」
目線を少し泳がせている。
前にはあれだけ私の眼を見つめていたと言うのにまた戻ってしまったんだろうか。
「来てたんですね」
「えぇ...あれ?あの子は?一緒じゃないの?」
「夕夏ちゃんはさっき朝練があるからって行きましたよ?見ませんでした?」
「えぇ...見なかったわ」
嘘。
知っててわざとそんな感じに聞いてみた。
あの子が聞いてたら多分怒るわね。
まぁでも目があった時に前よりも敵意みたいなのは感じなくなったし少し安心したのだけど。
そんなつく意味もよくわからない嘘をついてしまうくらいに、私は楽しくなっちゃってるんだなって胸の中の自分を見つめる。
「悠里、学校一緒に行きましょうよ」
「は、はい、わたしもそのつもりで声かけました」
悠里は笑顔でそう言ってくれる。
「ありがとう…あ、そうだ。手を繋がない?」
「え?み、見られちゃいますよ…?」
そんな私の提案に悠里はあまり乗り気ではなかった。
「趣味や嗜好なんてものは人それぞれだから誰かに咎められるようなことじゃないわ」
「え、いやでも…」
「それに謹慎になった理由は学校内でキスをしたことだから、外のことはノーカウントよ」
私はまくし立てる。
それっぽい理由をつけて、悠里と制服で手を繋いで一緒に登校するっていう女子高生らしいことをしてみたいという願望を叶えようとする。
「いいじゃない!ほーら」
そんなことを言いながら私は彼女の手を強引に取った。
「えぇ…もう、わかりましたよ」
そう言いながら諦めたように悠里はこちらの手を握り返してくる。
周りの視線よりも強く、彼女の力を感じる。
穏やかで臆病な彼女の手を私はゆっくりと引っ張るように握る
悠里の手から、体温を感じる。
朝だから少し冷たいけれど、初夏の衣替えの季節にはそれが少し気持ちいい。
彼女と体温と私の体温が手のひらの中で混ざり合う。
心地よく、好きが溢れそうになる。
ただ今はそれを抑えて彼女の体温を感じよう。
今ならいろんなことを受け入れられる気がする。
私は好きを押し付けて、相手の好きを受け入れなかった。
でも今は好きな人が私を好きでいてくれることがっても嬉しくて心地いい。
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