好きを怖がってた
あの日、恋敵だった先輩と親友の濃い目のキスを撮影させられた日から二週間が経った。
なぜか撮影してたあたしまで謹慎を言い渡されて二週間。
謹慎が明けて2週間ぶりに制服に袖を通すと不思議と体が軽くなって走り出したくなる気分だった。
だから悠里の家まで走って向かってしまった。
「あ、ご、ごめんね!」
謹慎明けの悠里。
チャイムを鳴らしたらびっくりした様子で悠里が飛び出してきた。
いきなり押しかけて悪かったかな。
「こっちこそいきなりごめんね。行こ?」
「うん!」
悠里のこの顔はあたしだけに見てくれてるのかな。
なんで言うんだろう。
犬が散歩を喜んでるみたいな。あんな感じの屈託のない笑顔が眩しい。
「それにしてもあんな動画の撮影で謹慎だなんて...部活にも出れなかったし」
「ご、ごめんね?」
悠里に合わせた歩幅で歩く。
悠里はどこかまた明るくなった気がする。
まだ人が苦手で視線を泳がせてはいるものの、あの教室で先輩に囲まれて見られた経験があるからか、不思議と挙動は不審じゃない。
あたしはそんな変化も見逃さない。
まだ好きなんだもん。
ただ親友としてそばにはいるけれど、あたしは悠里がまだ好き。
こうやって他愛のない会話をしてる時も、二人で仲良く歩いて登校する時も、悠里のことを好きと思わなかった瞬間はきっとない。
そんなことを思いながらあたしはこの並木道を歩いている
「だいたいあんなのどこで覚えて...」
「あっ...」
そうやって歩いてると通る普段待ち合わせをしている駅前の広場に出るとあたしたちの足は止まる。
ここから高校に向かう中間地点に金髪ピアスの美少女が暑そうにしながら誰かを待っている。
「恋先輩」
「一緒に学校行ったら?」
「え?でも」
「あたしは朝練あるから。ほーら!」
彼女の背中を押して、親友らしくあたしは身を引いた。
きっとら今までだったら逃げるように手を引っ張って引き剥がしてたと思う。
仕方ないか。
練習今から混ぜてもらえるかな?
顧問の先生は謹慎の理由を隠しておいてくれてるけど、変な目で見られるのは避けられないよなぁとか思いながら、少し憂鬱な気分になる
「友達として応援してあげるよ」
憎まれ口に聞こえるかもしれないそんな言葉を残してポンともう一回、あたしは悠里の背中を押す。
「…夕夏ちゃん...ありがとう。やっぱり夕夏ちゃん大好き!」
嬉しいようで悲しいような、そんな複雑な気持ちが入り混じってる。
まだ親友と割り切れてはいないけれど悠里に好きと言ってもらえるならそれでもいいかなって思える。
「あたしも悠里のこと大好きだよ。じゃあね」
そう言いながら小さく手を振って、あたしは走り出した。
先輩の前を通った時、チラリと目があったけれどそれだけ。
もう恋敵でもないし、特に何かがあるわけじゃない。
あの中でもやっぱりあの見た目の奇抜さと美少女オーラはやっぱり輝いて見えるなぁとか
そんなことを思ったくらい
「...ふっ!」
ただそんな思いも迫り上がる喜びの前ではすぐ搔き消える。
大好きだって。
嬉しいな。
そんなこと言われたらついつい頬が緩んじゃうってば。
きっと二人の気持ちを吐き出さなければそんなことを言い合う仲にはならなかったんじゃないかな。
これはきっと先輩でもなれない特別な距離感と関係。
それは複雑だけど自然と心地いい。
先輩が悠里の片方の手を握っていても、もう片方の手は親友のあたしが握る。
前みたいな付かず離れずじゃなくて、一番近い距離感で彼女のそばにいる。
好きって伝えることが怖かったあたしだけど、そんな距離感でいれることが前よりも心地いいんだ。
だからあたしは悠里と明日も明後日も「大好き」と言い合いたい。
悠里とは一生そんな関係でありたいと思う。
だってあたしは今まで、好きを怖がってた
でも今は好きって気持ちを伝えることがとっても気持ちいい。
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