嫌われるための仮面

 夕夏ちゃんは部活をサボるとは言うけど、学校に来る時間は陸上部の朝練より30分早い時間に登校する。


 保健室に誰よりも早く向かって、恋先輩を待つ。


 そのつもりだった


「あっ!悠里!おはよう!今日は早いのね!」


 もういた。陸上部の朝練は7時、その30分前の6時半に二人で保健室に向かうと恋先輩はもう保健室のカウンセリング室にいて本を読んでいた。


 そして悠里を見つけるやいなわ彼女はソファから飛び出して悠里の元へ駆け寄る


「はやっ」


 思わず夕夏ちゃんがそう口にしてしまう。


「あら、あなたもいたんだ。仲直りしたのね」


 3人の中で1番小さく子供みたいな恋先輩はひょっこりと夕夏ちゃんの顔を覗き込む。


「よかったよかった。ほら!悠里!早く来たなら一緒にお話ししま...」


〈バタン!〉


 くるりと回って悠里を呼ぶ恋先輩の言葉を最後まで聞くことなくカウンセリング室の扉を閉める。

 少し予定が狂ったけど予定通り、早く来たけれど恋先輩と話すつもりはない。


 本当はカウンセリング室で待って恋先輩が来たらすれ違うように出るつもりだったし。


「本当によかったの?」

「うん、恋先輩は慣れっこだからきっと問題ないよ」


 嘘、心が少し痛い。


 けれど恋先輩には諦めて欲しくない。


 だから悠里は夕夏ちゃんよりも先に強く歩いて教室に向かった。


 これが伏線


 まぁそんな大層なものではないけれどこれを昼休みに回収する。

 勝負は昼休みだ。


 悠里はぐっと心の中で強く拳を握りしめる



 恋先輩は一人が好きなんじゃない。

 きっと一人は嫌いなんだ。

 だからこそわたしに思いを告げてくれた、そばにいてくれると思える人を見つけたんだ。

 わたしと同じだった。

 あの人は一人が好きじゃないのに一人でいることを選んだ。

 そうやってただ自分の中の気持ちを落ち着けてただけなんだ。

 まるでそれが自分の役目かのように思い込んで。

 そんなことない、恋先輩もただの女の子なのに。

 わたしは嫌われることが辛いから人を好きにならず、好かれないようにすることで嫌われないようにした。

 それに対して恋先輩は嫌われても別にいいって思い込むことで嫌われることの辛さを紛らわせてるんだ。

 わたしはわたしの好きな人が嫌われていてほしくない。

 わたしは恋先輩を一人にしたくない。

 恋先輩は人を入れたくないから人の内側に入り込もうとしてるだけ


 それに恋先輩をみんな理解してない


 恋先輩は


 お話好きで、可愛くて、少し大胆で、子供みたいに笑って、くるくると回るのが好きで、頭が良くて、いい匂いがして、怖がりで、実は人の機微に敏感で、大人みたいな言葉遣いで、教えるのがとても上手で、変わってるけど実は普通なそんな女の子なんだ。


 そんなところが好きなんだ。

 すごい好きなんだ。


 彼女の金髪も、沢山つけているけど似合ってるピアスも、色の白さも、匂いも、優しい口調も、優しい人間性も、全部好き



 恋先輩、あなたは仮面をつけているんだよね。

 好かれなくても構わない、なんなら少し距離を置かれるように。

 周りをバカと見下して、嫌われる仮面をつけて、好かれるのをやめたんだよね。


「好きでいてもらうより好きでいる方が楽だよね」


 小さい声でそう呟く


 それに好かれようとして嫌われるより

 嫌われようとして嫌われる方が少しだけ楽だもんね


「でもそれは逃げだよ」


 一人が寂しいくせに誰かを入れるのを怖がってる。


 そんな臆病な先輩のなかに強引に押し入ってやる。


 その仮面をわたしが、ひっぺがしてやるんだから

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