先に好きになったのに

 悔しい


 悔しい


 とても悔しい


 自殺をほのめかしてまでこちらを見て、あたしも悠里の近くで寄り添いたいだけなのに。


 結局、あの先輩に全てを奪われた気分だ。


「友達として、ずっと一緒にいてほしい。わたしは夕夏ちゃんが大好きだから」


 大好きだから、大好きだからと感情のままに動きそうになってるあたしを悠里は諌めるように繰り返す。


「でも、恋人としてはあの先輩が好きなんでしょ」


「...うん。自分の気持ちに気付いちゃったの。そういう意味で恋先輩が好き。あの人のそばに寄り添いたい」


 あぁヤバいな。

 涙が出そうだ。


 下を向いたらきっと溢れる。


「あたしが、先なのに」


 悔しい


 とても悔しい


 あたしが先に好きになったのに。


 納得したいけれど自分の気持ちに決着がつかない

 悠里は多分、もうこちらを向いてくれない。


 あの暖かい抱擁をあたしにもう一度してほしい。

 あなたからこちらに来てくれるその感覚が、好きな人からこちらに寄り添ってきてもらうことの幸福はこの世の何事にも変えがたい幸せなことなのに。


 きっとそれは叶わない。

 完全に、振られたわけだ...


 っ!


「えっ!?」

「夕夏ちゃん、こうして欲しい?こうして欲しいならいつでも言って」


 あたしを抱く力が一層強くなる。

 あたしはドキドキしてるけど、思いの丈を言ったからか悠里からは一切のドキドキが感じられなかった。


 温かい感覚が服を通して肌に伝わる。

 ただ、それが少し寂しくもあった。


「ごめんね。夕夏ちゃんの気持ちに応えられなくて。でも夕夏ちゃんの考えに合わせることはできるから。わたし達親友だもん。夕夏ちゃんの考えてることは分かるから」


 求めていたのかな

 あぁ泣けてくる。


 こんなに優しい子を好きになったのに。

 女の子同士ってどうしようもない理由じゃなくて同じ女の子に負けてしまったというのがとっても悔しい。


「友達としては一番好き、これ以上ないくらい」


「友達として...かぁ...」


 あぁダメだ。

 やっぱりダメ。


 溢れちゃった。

 どうしてもダメ。


 あたしは悠里が好きすぎる。

 悠里も好きだと言ってくれていて、そのベクトルの違いだと言うのは分かってる


 LOVEとLIKEの違いだということも分かってる。

 けれどやっぱり整理には時間がかかるみたい


 いつまでもいつまでもこうしていたいな


「ありがとう。夕夏ちゃん」


 うん。


 こちらこそ、ありがとう。


 あたしは涙を拭って、温かいハグから少し体を離す

 そして、決別する。


〈ビタン!〉


 あたしは、思い切り悠里の顔を平手で叩いた。

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