そういう意味で好き

 あぁ何をしているのだろう

 あたしは何をしているのだろう


 夕夏は自分でも理解が出来なかった


 なんでこんな行動を取っているのか分からない。


 目の前の悠里はどうしたらいいのか分からずおどおどしてる。

 悠里もいきなりすぎて何が起きてるかわからない。


「な、何してるの?」


 そんなの夕夏にも分かってない。


 ただ、ただ感情がそうしろと言ってるみたいで、止められない。

 こんなのいけない。めんどくさいと思われる。


「悠里が先輩の方に行っちゃうのが嫌なの」


 何を言ってるんだろう。


「え、えっ?べ、別に行かないよ?」


 悠里も心の奥から焦ってる。

 ただごとじゃないのは悠里にも理解出来ているけどそれを止める言葉が思いつかない


「嘘、絶対、あたしより先輩の方が好きになるもん」


 だめだ。


 夕夏の心の奥にある感情がそのまま言葉になって飛び出してる。


「と、とにかく、包丁、あ、あぶないから」


「嫌だ。先輩より好きって言ってくれないと」


 涙をこらえたような声でそう言う夕夏に悠里はもうどうしたらいいか分からない


「なんで...」

「それはこっちのセリフだよ。あの先輩より、ずっと長い時間を過ごしたのに。その時間だってあの先輩に

負けないくらい濃かったはずなのに!なんで好きってすぐ言えないの...」


 ぐっと包丁を握る手が強くなる。

 気持ちと共に夕夏にも力が籠る。


「とにかく、ほ、包丁!怖いから!夕夏ちゃん...お願い」


 とにかく悠里が泣きそうになるものだから、夕夏は力が抜けてしまう。

 泣きたいのは夕夏の方なのに。


「はぁ...」


 夕夏は包丁を手から放して置く。


「どうしたの?夕夏ちゃん、変だよ」


 悠里は夕夏の手を握る。

 すると夕夏はさらに強い力で握り返す


「変になっちゃった」

「何かあったの?なんでも言ってよ」


 「わたしたち親友でしょ?」と言わんばかりの表情に夕夏はまた感情が揺さぶられる。


「...っ!」


 イライラして髪をかきむしる夕夏


「夕夏ちゃん...」

「悠里!」


 大きな声を出す。


 夕夏はもうだめだった。


 耐えられなかった


「あなたが好き」

「えっ」


 割り切って作った親友という関係が壊れる

 音が聞こえる。全てが壊れる音が。


 せっかく自分を殺す覚悟をして、しまっていた気持ちを夕夏は引っ張り出す


「ゆ、夕夏ちゃん?そ、それは、親友だもん。わたしも」


「違うの!」


 作った気持ちの入れ場所を壊す


 もうだめだ。

 夕夏は恋と悠里を見てると羨ましくて仕方なくて、自分もその距離感にいたくて仕方なくなった。


 恋をしたくて、悠里に愛を、まっすぐ溜めた想いを伝えたくて仕方なかった。


「悠里が、そういう意味で好きなの。あたし、悠里に恋しちゃってるの!」

「...ちょ、ちょっと待ってよ。いきなり言われても」


 悠里はあれだけ想いを匂わせた夕夏の振る舞いにもなんとも思っていなかった。


 まさか、まさかそんな気持ちを持ってるとは思えなかった。


「好きなんだよ!あたし、自分でもびっくりするくらい悠里が好きなの。あたし悠里が好き。カラオケのは、冗談じゃない。そういうことがしたい。悠里と二人っきりで…ずっと…!」


 感情が言葉になりとめどなく流れる夕夏。

 ただ初めて夕夏が悠里の内側に入り込んで来たから自然と防衛体制を取ってしまう


「夕夏ちゃんは、親友で...」


「一目惚れだった。こんな可愛い子がいるんだって思った。ビックリしたんだよ。笑った顔が可愛くて、お茶目でさ。あたしだっておかしいと思ったから、悠里のトラウマにならないように、距離を測ってた」


「そんな...こと、言われても」

「ごめんね。ずっと親友でいようと思ったんだよ?でもね、同じ女のあの先輩に悠里を取られるのは嫌だったから...こんなこと」


「...」


「女の子同士で、変とか言ったけど悠里が気にしないならあたしはその距離にさ!」


強く、強く夕夏は小さくても力強く悠里に語りかける。


「夕夏ちゃん」


「ねぇ悠里...キスしていい...?」


甘えた声で、夕夏は呟く。

悠里にはそれら全てが冗談に聞こえて、全てが本音に聞こえる。


目線を合わせられない


「ごめん、冗談」


二人の間に冷たい空気が流れる

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